新しい本を書きました。
     前作『アイデア大全』の続編で、問題解決についてツールを集めた道具箱のような本です。
     このトピックに関する限り、知ってることは全部書いたので、ブログでおなじみのトピックも、一度も書いてないことも、すべて盛り込みました。問題解決についての技法の集大成になってます。
     今回も、情報拡散や感想、書評などでご支援いただけると幸いです。

    (追記 2017.11.22)
    関係者様のご尽力と読者の皆様のご支援あって、 『アイデア大全』『問題解決大全』ダブル増刷、決まりました。
    『アイデア大全』7刷 40000部、『問題解決大全』2刷 24000部となりました。 引き続き、情報拡散、店頭での目撃報告、感想等、よろしくお願い致します。


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    問題解決大全
     ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール

     The Problem Solving Skills Dictionary

     著者:  読書猿
     単行本: 416ページ
     出版社: フォレスト出版
     発売日: 2017年11月20日
     ISBN10: 4894517809
     ISBN13: 9784894517806
     価格:  1,944円


     『問題解決大全』も前作同様、実用書であり、かつ人文書であることを目指しています。
     問題解決のハウツーはもちろんのこと、それぞれの技法の歴史を掘り下げたり、関連事項を躊躇なく盛り込みました。
     問題解決のハウツーはもとより、それぞれの方法の歴史やルーツを掘り下げ、遡ることで異分野に発見された類似のアプローチを取り上げるだけでなく、人間にとって問題解決とは何か、なぜ人間は問題解決者でなくてはならないのかを考える書物でもあります。


    前作『アイデア大全』との関係

     『問題解決大全』と『アイデア大全』は、〈問題解決〉と〈発想法〉という、隣接したテーマを扱っています。
     新しいアイデアを生み出す〈発想法〉は、〈問題解決〉するのにとても役立ちます。
     というのは、〈問題解決〉をわざわざ持ち出さなくてはならないのは、ルーティンワークや既存の解決法では間に合わない場面であることが多いからです。
     少なくとも問題解決者にとっては〈新しい〉方法が必要で、それを考え出すには〈発想法〉は有効です。
     しかし〈問題解決〉には必ず新しいアイデアが必要かというと、そうではありません。
     問題解決者が知らないだけで、同種の問題について誰かが既に解決法を生み出しているかもしれないからです。
     特許を取ったり、パクリと言われない創作物をつくるのでなければ、我々の目の前にある問題を解決するだけなら、使い古されたアプローチでも構わない訳です(むしろ枯れた技術の方が安上がりで実績があり、信頼性も高かったりします)。
     既存の解決法がなくても、問題を分析することで解決法が見つかることも少なくありません(ビジネス書の問題解決本はこちらのものが多いです)。NM法の開発者である中山正和は「問題の半分は理詰めで解ける」という言い方をしています。
     
     ここから視野を少し広げてみると、我々が日々行っているルーティンワークや既存の解決策も、誰かが(あるいは過去の自分が)行った問題解決であるはずです。
     更に言えば、あまりに日常的なものになっていて、元々は誰かが取り組んだ問題解決の成果であることを、我々が忘れているもの、意識しなくなっているものは無数にあります。身の回りにある、あるいは見えないところで我々の生活と文明を支えている、人間が生み出した創造物は、建造物や機械のような目に見えるものはもとより、法律や学校教育のような制度、それらを生み出す様々な技術やノウハウまで、何らかの問題解決の成果です。
     我々は、過去の無数の問題解決者が作り出した〈未来〉に生きています。
     これが、前書『アイデア大全』と同様、この本が過去の問題解決から方法と知恵を汲み取ろうとする理由でもあります。
     おかげで問題解決や創造性研究に関わる心理学研究やビジネスの実践はもとより、哲学、宗教、神話、歴史、経済学、人類学、数学、物理学、生物学、看護学、計算機科学、品質管理、文学、学際研究などに由来する技法を収録することができました。

     〈発想法〉が考えることの始まりだとすれば、問題解決は我々の〈未来〉の始まりです。



    本書の全体構成

     『問題解決大全』は、問題解決のステージを大きく次の4つ
    ・問題の認知
    ・解決策の探索
    ・解決策の実行
    ・結果の吟味

    より詳しくは次の14つに分けて、ステージの順に技法を配列しました。

    4つの(14の)ステージは、既存の問題解決法が採用している諸段階を集め、整理することで抽出しました。

    ps-stege.png
    (クリックで拡大)




     当初目次では、このステージに60ぐらいの技法が配置されていたのですが、このままだとさすがに大部すぎるので、合併と整理を重ねて、最終的に37の技法を搭載しました。

     この問題解決のステージは、「あるべき(理想の)問題解決の手順」を記した規範モデルとでもいうべきもので、実際の問題解決は、ある段階を飛ばして進んだり、後戻りしたりと、実際は手順通りに進むことは稀です。
     しかし理想像は地上(現実)には見られないからこそ、人々を導くことができます
    ジョージ・ポリヤの言葉を借りれば、北極星にたどり着いた人はいないが、それでもこの星は多くの人々を導いてきた、という訳です。



    直線的問題解決と円環的問題解決

     本書の構成のもう一つの特徴は、紹介する問題解決の技法を大きく、直線的(リニアな)問題解決と円環的(サーキュラーな)問題解決に分けているところです。

     リニアな問題解決は、結果から原因へと直線的に遡ることができるとする直線的因果性を前提にしたものです。
     多くの問題解決書が、根本原因を見つけることを強調しているように、我々がよく目にする問題解決法はこちらの方です。
     これに対して、サーキュラーな問題解決は、鶏と卵の関係のように、原因と結果がループしていることを強調する円環的因果性の視点に立つ問題解決です。
     原因と結果がループしているなら、根本原因を突き止めようと結果から原因へ遡っても、ぐるぐる巡るばかりで行き着くことがありません。
     
     直線的因果性の見方は、我々の日常的に親しんだものなので、分かりやすく理解しやすいです。なので多くの問題解決の一般書はこちらだけを取り上げます。
     ところが、長期に渡って存続する問題や、いろいろ解決策を施すのに一向に改善しない難問には、直線的因果性に立つリニアな問題解決よりも、円環的因果性に立つサーキュラーな問題解決が有効であることが少なくありません。
     その理由のひとつは、ある問題が長きに渡って続くメカニズムとして、原因と結果のループ(因果ループ)が、つまり問題を再生産している悪循環があるからです。
     問題は、物体ではないので、一度生まれたからと言って、何もせずに存在し続けるわけではありません。

     例えば、安全保障のジレンマ(Security dilemma)として知られる状況があります。これは軍備増強や同盟締結などで自国の安全を高めようと意図した国家の行動が、別の国家の軍備増強や同盟締結をまねき、自国の安全を脅かしてしまうという皮肉な事態を指した言葉です。
     この状況に陥った2つの国は、たとえば次のような悪循環の中にあります。
     A国の軍備増強を観察したB国はこれを恐れ、対抗するために自国の軍備を増強する。そしてB国の軍備増強を観察したA国もまたこれを恐れ、対抗するために自国の軍備を増強する。A国の軍備増強とB国の軍備増強は、鶏と卵のように互いが原因であり結果となっています。

    AB国の脅威1


     重要なのは、両国の軍備増強という行動は、自国の安全を高めようという問題解決のために行われていることです。問題を生み出す悪循環では、問題解決のための行動が因果ループの一部となり、かえって悪循環を存続させ、問題を再生産しています。
     この悪循環を、下手に直線的因果性の見方で分析し、リニアな問題解決を施せば、根本原因とは「相手国の軍事的脅威」であり、更に遡れば「相手国の存在」ともなりかねません。
     悪いことに、問題状況を再生産する悪循環にあっては、問題解決者もまた、その因果ループの内にいます。我々のものの見方も、悪循環から影響を受けずにはいません。
     先の軍拡競争するA国とB国の状況をもう少し詳しく見ると、次のような問題についての認知が、因果ループの一部を構成していることが分かります。

     A国の軍備増強→「A国は脅威だ」とするB国の認知→ B国の軍備増強→「B国は脅威だ」とするA国の認知→A国の軍備増強→……(以下、繰り返す)

    AB国の脅威2


     こうした因果ループの中に投げ込まれている問題解決者は、問題を存続・悪化させる方向の認知を持ちやすいのです。対立し合う両者は、個人の場合でも、「相手こそが問題の原因である」と認識する傾向があります。
     
     本書の後半では、こうした悪循環の扱い方や抜け方に関する技法を集め、円環的(サーキュラーな)問題解決としてまとめました。
     日常的な思考からすれば、難しく思われるかもしれませんが、サーキュラーな問題解決は、問題状況に巻き込まれている(外部のコンサルタントのように問題の外にはいない)普通の人にこそ役立つものです。



    技法ごとの構成(フォーマット)

     技法を紹介する各章は、前回と同じ構成で、次のような項目で構成されています。
     技法名や開発者、参考文献などをまとめたヘッダー部と、具体的なやり方、実例、そして解説をまとめたコンテンツ部からできています。
     素早く技法を探して実践することも、技法の深さと広がりにじっくり浸ることも、どちらもできるようになっています。

    (ヘッダー部)
    ▼技法名:技法の名前
    ▼キャプション:技法の特徴や意義の一行紹介
    ▼難易度:技法の難易度
    ▼開発者:技法の開発者
    ▼参考文献:
     開発者が不明な場合を含めて、すべての技法に一つ以上の参考文献を挙げました。
     より詳しく知りたいと思った場合の手がかりとなり、発想技法以外の知的営為へつながる知の扉(ゲートウェイ)ともなるように仕込んであります。
    ▼用途・用例:
     技法をどのような場面、場合に用いるべきかについてヒントをまとめました。
     ここに示す用途・用例は代表的なものであり、読者(ユーザー)はこれを越えて技法を活用できるだろうと思います。

    (コンテンツ部)
    ▼レシピ:
     技法の使い方を手順として示す部分です。
     具体的に何をどんな順序で行えばいいかシンプルにまとめてあります。
    ▼サンプル:
     技法の使用例を示すところです。
    ▼レビュー:
     技法の背景や可能性、他の技法や知識領域とのつながりについての解説を最後につけました。
     例によって、いちばん読書猿らしく暴れている部分でもあります。



    すべての人のための問題解決

     前書『アイデア大全』は、望外にも多くの人に読まれ、使ってもらうことができました。
     「発想法はクリエイティブな仕事についている特別な人にだけ必要なものだ」というアイデアにまつわる神話のひとつを壊すことも、『アイデア大全』を書いた動機のひとつでしたから、著者が願った以上にこの希望は叶えられたといえます。

     本書『問題解決大全』もまた、ほぼ同じ希望を抱いて執筆された書物です。
     考えることをしない人がいないように、未来のない人はいない。
     従って問題解決に用がない人はいない、と言うのが、『問題解決大全』のよって立つ前提です。

     問題解決が万人のものであるのは、人間が問題解決を現に行っているだけでなく、問題解決することを求められる生き物であるところから来ています。問題解決は、人間にとって能力であるだけでなく、運命でもあります。

     我々が誰かを一人前の人間として扱うのは、その人が自らの行為の責任を取ることができる場合であり、言いかえれば相手を責任主体として認める限りにおいてです。
    そして、ある人が責任主体であるのは、その人が誰かに強制されて(あるいは何かに操られて)行動したのではなく、自らの意思で行動した場合です。言いかえれば、その人は自分でそうしようと考え、自ら選んだ意図を抱いて、その実現のために行動とその結果を予想した上で、その行動を実行した訳です。
     この人がやっていることこそ、問題解決に他なりません。
     責任主体であるためには、少なくとも問題解決者である必要があります。意図を抱くことも、その実現のために行動することもできなければ、問題解決者であることも、責任主体となることもできません。

     責任主体であるためには、更に必要なことがあります。
     意図を実現するための思考と行動には、結果が生じます。そして結果はいつも意図の実現で終わるとは限りません。失敗することだってあります。いや、むしろ、意図を抱いて行動するからこそ、失敗することができる、という方が正確でしょう。失敗は、意図と結果を比較してはじめて分かるものだからです。
     成功したときだけのこのこやってきて、失敗したときは逃げ隠れする者を、我々は責任主体とは呼びません。失敗したときでさえ、その結果を引き受けるからこそ、その人を責任主体として扱い、それに相応しい権限と権威を認めるのです。

     一人前の人間扱いされるために、こうした厳しい要求がなされるからこそ、問題解決の過程とその結果を少しでもマシなものにする問題解決の技術には価値があると言えます。

     問題解決を広く〈意図を実現する思考と行動〉であると考えると、一人前の人間とは、こんなのはいやだという状態を脱し、こうしたい/こうなりたいと思うことを実現することができる(しようとする)存在です。
     互いを責任主体として承認することは、お互いを未来をつくることができる(つくろうとする)存在として認め合うということなのです。




    目次の紹介

    まえがき 問題解決を学ぶことは意志の力を学ぶこと
    本書の構成について

    第I部 リニアな問題解決
    第1章 問題の認知
     01 100 年ルール The 100-year rule
      ……大した問題じゃない
     02 ニーバーの仕分け Niebuhr's Assorting
      ……変えることのできるもの/できないもの
     03 ノミナル・グループ・プロセス Nominal Group Process
      ……ブレスト+投票で結論を出す
     04 キャメロット Camelot
      ……問題を照らす理想郷という鏡
     05 佐藤の問題構造図式 Sato's Problem Structure Scheme
      ……目標とのギャップは直接解消できない
     06 ティンバーゲンの4つの問い Tinbergen's four questions
      ……「なぜ」は 4 種類ある
     07 ロジック・ツリー Logic Tree
      ……問題を分解し一望する
     08 特性要因図 0 9 1 fishbone diagram
      ……原因と結果を図解する

    第2章 解決案の探求
     09 文献調査 Library Research
      ……巨人の肩に乗る
     10 力まかせ探索 Brute-force search
      ……総当たりで挑む万能解決法
     11 フェルミ推定 Fermi estimate
      ……未知なるものを数値化する
     12 マインドマップR Mind mapping (R)
      ……永遠に未完成であるマップで思考プロセスを動態保存する
     13 ブレインライティング Methode 635
      ……30 分で 108 のアイデアを生む集団量産法
     14 コンセプトマップ Concept Map
      ……知識と理解を可視化する
     15 KJ法 KJ method
      ……混沌をして語らしめる、日本で最も有名な創造手法
     16 お山の大将 King of the Mountain
      ……比較で判断を加速する
     17 フランクリンの功罪表 merit and demerit table
      ……線1本でつくる意思決定ツール
     18 機会費用 opportunity cost
      ……「選ばなかったもの」で決まる
     19 ケプナー・トリゴーの決定分析 Decision Analysis
      ……二重の評価で意思決定する

    第 3 章 解決策の実行
     20ぐずぐず主義克服シート Anti-Procrastination Sheet
      ……先延ばしはすべてを盗む
     21 過程決定計画図 Process Decision Program Chart
      ……行動しながら考える思考ツール
     22 オデュッセウスの鎖 Chain of Odysseus
      ……意志の力に頼らない
     23 行動デザインシート Behavior Design Sheet
      ……過剰行動の修正は不足行動で

     第 4 章 結果の吟味
     24 セルフモニタリング Self-monitoring
      ……数えることで行動を変える
     25 問題解決のタイムライン Problem Solving Timeline
      ……問題解決を時系列で振り返る
     26 フロイドの解き直し Solve again from scratch
      ……解き終えた直後が最上の学びのとき

    第II部 サーキュラーな問題解決
    第 5 章 問題の認知
     27 ミラクル・クエスチョン The miracle question
      ……問題・原因ではなく解決と未来を開く
     28 推論の梯子 The Ladder of Inference
      ……正気に戻るためのメタファー
     29 リフレ ーミング Reframing
      ……事実を変えず意味を変える
     30 問題への相談 Consulting the problem about the problem
      ……問題と人格を切り離す
     31 現状分析ツリー Current reality tree
      ……複数の問題から因果関係を把握する
     32因果ループ図 Causal Loop Diagram
      ……悪循環と渡り合う

    第 6 章 解決案の探求
     33 スケーリング・クエスチョン 3 4 1 Scaling Question
      ……蟻の一穴をあける点数化の質問
     34 エスノグラフィー Ethnography
      ……現場から知を汲み出す
     35 二重傾聴 Double Listening
      ……もう1 つの物語はすでに語られている

    第 7 章 解決策の実行
     36 ピレネーの地図 A map of the Pyrenees
      ……間違ったプランもないよりまし
     37 症状処方 Prescribing the symptom
      ……問題をもって問題を制する

    問題解決史年表
    索引



    時間がない人のための要約

    1.フォーマットを細分化して、〈ここでは何を書くべきか〉を示すフレームを作っていく
    2.フレームごとに、このトピックについて書けることを、順不同/思いつくだけ止まらずに書く(フレーム内で殴り書き)
    3.2のなぐり書きを読み返し重要そうなところに下線を引き、下線部を一文にまとめる。
    4.殴り書きできない(足りない)フレームについては、要調査、要発想のタグをつけておいて、まとめて処理する


    フレームドNSW
    (クリックで拡大)







    〈書きべきこと〉と〈書けること〉

     文章を書くには、正反対の方法が二つある。
     
     一つは書くべきこと(NTW: need to write)を先に定めるアプローチである。 
     何を書くべきかを細部に至るまで決めることができれば、究極には、文章を書くことは穴埋め作業に還元される。
     そこまでいくのは現実的には無理でも、多くの文章には、どんな順序で何を書けばいいかを示す大まかなフォーマットならば存在する。
     通常は、既存のフォーマットが与える大まかな枠組みからはじめて、これを細分化することでトップダウン的に〈どんな順序で何を書くべきか〉というアウトラインを決めていく。
     
     もう一つは、とにかく書けること(ATW: able to write)からどんどん書いていき、調整は後で考えるやり方。
     これは、書けなくなる要因である自己規制を振り払うために役立つ。
     このブログでも、時間を決めて、その間は止まらず書き続けることノン・ストップ・ライティングやレヴィ=ストロースの執筆法を紹介したことがある。




     

     しかし、どちらの方法にも限界がある。
     
     書くべきことを先に定めるアプローチの場合、よほど簡単な文章でもない限り、アウトラインを細分化する作業はいつしか行き詰まる。
     我々は、書こうとしている文章を、最初から完全に把握している訳ではない(しているなら、そもそも書き方に悩むこともなく、すらすら最後まで書き切ることだろう)。
     ほとんど同じことだが、書くべきことが明らかになったとしても、私がそれを書くことができるとは限らない。
     
     逆に、書けることから書いていくやり方にも、いくつか問題がある。
     ひとつは、何でもありで書き出すと、あとでまとめるのが大変なことである。
     さらにこちらの方が重要だが、「何でもいいから書け」と言われても、大抵の人はそんなには書けないことである。
     ガイドとして〈何を書くべきか〉や「お題」があった方が、むしろ書きやすい場合がある。
     
     では、どうすればいいか?
     すぐに思いつくのは(そして誰もがやっているのが)、〈書きべきこと〉からはじめるアプローチと、〈書けること〉をとにかく書き出すアプローチを、組み合わせることである。
     人それぞれに、様々な組み合わせ方が考えられる。
     
     以下は、読書猿の中の人が現在用いている〈組み合わせ〉である。


    1.〈書くべきこと〉を示すフレームを用意する

     フォーマットを細分化することでアウトラインをつくるのは同じである。
     
    (1)全体構成に使える文章の型紙として、できるなら最初にフォーマットから始める。
    ・手紙文や報告書のように、あらかじめ用意されている場合はそれを用いる。
    ・何らかの発想法や思考整理法で構成案を手に入れている場合はそれを用いる。

    ※ 誰に指示された訳でも依頼された場合でもない場合、あなたの〈書くべきこと〉とは自分の〈書きたいこと〉である。
     書きたいことのジャンルが判明している場合は、フォーマットを発見できる可能性があるが、それ以前のなんとも表現しようもない段階にある場合は、フレーム無しのノン・ストップ・ライティング(時間を決めて、その間は止まらず何でもいいから書き続ける)をおすすめする。
     
     
    (2)フォーマットをできるだけ細分化する
     この場合も、できるならパターンを用いる。
     主張文なら、クレーム、データ、ワラントといった3要素が使える。
     データの列挙なら、時系列順に分解したり、空間的に順序付けする。
     
     こうしたパターンが何も思いつかない場合やどんな分割パターンを使えばいいか不明な場合は、項目をとにかく二分割することを繰り返す〈サクランボ分割〉を使うといい。分けてみることで、内部構造が見えてきて、細分化の方向が分かることがある。

     
    2.フレームごとに〈書けること〉を順不同で殴り書きする

     アウトラインをできるだけ細分化し、行き詰まったら、そこで殴り書きに移行する。
     アウトラインの最下層は、何を書くべきかを示すフレーム(枠)であると考えて、その枠内で/書くべきことについて、思いつく限り書き出す。

    (1)書けるところから書く
     フレームをどこから埋めるかは、こだわらなくてよい。
     埋めやすいところから取りかかる。書きにくそうなところは後回しでよい。

     埋めていくうちに理解が進んでいく。
     ジグソーパズルのように他のピースが埋まると、分かることもある。
     後述のように、埋められない部分が分かるのも、進歩である。
     
    (2)〈書くべきこと〉について殴り書く
     〈書くべきこと〉について思いつくことを、単語・フレーズでいいので、止まらず書き出す。
     文章が出てきたらそれも書き留める。
     順不同でOK。重複してもかまわない。

    (3)手が止まったら、書き殴りを読み返して、重要そうに思えるところや気になるところに下線を引いておく

    (4)殴り書きを、(a)まとめるもの、(b)フレーム外に追い出すもの、(b)ゴミ箱行き、の三つに分類する。

    (a)まとめるもの
     下線を引いたものをいくつかに分けて、それぞれを、つなぎ合わせて一つの文にしてみる。あるいは、それぞれに小見出しを付ける。
     
    (b)枠外項目に集めるもの
     下線を引いたが、今のフレーム内に収まらないもの、「居るべき場所はここじゃない」と
    感じるもの、しかし捨てるのが惜しいものがこれにあたる。
     これらも、できればいくつかに分けて、それぞれを一文化して、枠外に出す。
     これがアウトラインの組み替えのきっかけになる。
     枠の中で殴り書くことで、枠を超えるものかどうか分かりやすくなる。
     
    (c)ゴミ箱項目に捨てるもの
     惜しくない殴り書きもすぐに消さずゴミ箱項目に集めておく。
     後で何かのきっかけになるかもしれない。


    3.書くべきことと書き得ることのギャップを浮かび上がらせる

     殴り書きでフレームを充填することができない部分は必ず出てくる。
     フレームのおかげで問題は局地化されているので、そこだけ対策すればいい。
     「知らないから書けない」のであれば、調査が必要である。そのフレームには「?」マークをつけておく。
     「誰もやってない新しいものが必要」であれば、発想が必要である。そのフレームには「!」マークをつけておく。
     調査と発想のどちらが必要か分からない場合もある。その場合は「!?」マークをつけておく。
     埋めることができなかったフレームすべてに、要調査/要発想マークが付け終わったらまとめて処理する。要調査マークの項目については調査/調べものし、要発想マークの項目について発想法を用いる。
     
     しかし殴り書きですら書けない理由が、無知/未知のせいでも、思いつかないのでもない場合もある。つまり必要なのは調査でも発想でもない場合、何らかのメンタルブロックが書くのを妨げている。
     この場合は、これ以上抵抗せずに「心の言い訳」を真摯に訊く(書き出してもいい)。
     あるいは、書かずに済ませる道を探る。この場合はアウトライン(構成)の変更が必要になる。
     我々は書くべきこと(あるいは書きたいこと)のすべてを書ける訳ではない。
     多くの文章はいくらかの断念をもって完結する。
     諦めたことは、次の文章を書き始める理由・動機となる。


    4.アウトラインを修正する

     3では殴り書きをまとめて、一文にしていった。
     フレームの外に放り出したもの、フレームに収まらないものたちが、収まるべき場所を要求する。これがアウトラインの変更につながる。
     ボトムアップでアウトラインが変更されたら、再度上位レベルからアウトラインを調整する。
     
     アウトラインが複雑になり、扱える限度を超え始めたら、全体のコピーを残しておいて、次のバージョンをつくる。
     削れるところをとことん削っていく(前バージョンとして全体のコピーが残っているので大胆にいく)。
     足りなくなるまで、言いかえると、思わず追加したくなるまで削っていくと、新しいアイデアを呼び込みやすい。


    (参考記事)





    禁煙:……今日で3日目ね。

    司書:今週中は降ったりやんだりが続くそうです。

    禁煙:天気の話じゃなくて。……あなたが気付いてないはずがないんだけど。

    司書:何をでしょう?

    禁煙:窓際の端の席のあの子。4年生くらいかしら。毎日、朝一番に来て夕方までいるわね。

    司書:ここは公共の図書館です。誰であれ、知りたいことがあり、読みたいものがあるのなら、好きなだけ過ごすことができる場所です。

    禁煙:何か読んでいるようには見えないわ。

    司書:では、知りたいことがおありなのでしょう。

    禁煙:……本の中に答えは見つかるかしら?

    司書:それは分かりません。ですが、一冊の書物にできなくても、それは不可能ということではありません。

    禁煙:……学校へ連絡したりはしないの? 毎日が開校記念日ってこともないでしょう?

    司書:……実は学校からは問い合わせがありました。

    禁煙:かくまったの?

    司書:ここは図書館です。声をかけるとしても、それは彼が本を閉じて、問いを追うために助けを求めた後です。

    禁煙:必要にではなく、求める声に応えるのだと?

    司書:無力であることは認めます。誰も誰かに何かを無理やり読ませることはできないように、手に取る前にページを顔の前に持ってくるおせっかいな書物はありません。だからこそ書物は、つながりに苦しむ人には離れて独りになることができるのだということを、孤独に苦しむ人には今此処に誰もいなくともページの向こうに同じ書物を読む誰かが存在することを、教えてくれます。

    禁煙:つまり、何もしないのね。

    司書:本人の意志ではなく、図書館にいることを強いられた人であれば、違った対応をすることもありますが。……残念ながらそうしたこともあるのです。

    禁煙:お喋りが過ぎたみたい。

    司書:いいえ。少なくとも、もう一人、彼を気にかけている人がいることを知れました。

    禁煙:……彼、顔を上げたわ。こっちに来るみたい。

    司書:ええ。……なにかお探しですか?

    小学生:ここは知りたいことを教えてくれるところですか?

    司書:残念ながら。しかしお手伝いはできると思います。

    小学生:どんなことでも?

    司書:知りたいと思うことなら。

    小学生:……逆上がりができるようになる魔法はありませんか?

    司書:心当たりがあります。どうぞ、こちらへ。書棚に見えるものだけで足りなければ書庫を開けましょう。