◯仕掛けのあるバスタブ


    少女:わー、ちっちゃいお風呂。禁煙さん、それ何ですか? ドール・ハウスの?

    禁煙:ああ、これ。ううん、教材。友達に作ってもらったの。

    bathtub.png


    少女:小さい蛇口もついてるんですね。……教材って何の?

    禁煙:小学生に微分方程式を体験してもらう教材なの。

    少女:ええっ、微分どころか方程式も習ってないんですよ。

    禁煙:むかしシーモア・パパートって人も、数学をさんざん習わないと微分方程式にたどり着けないなんてダメすぎる、小さい子どもこそ味わうべきなんだ、といつも言ってたわ(それでLOGOってコンピュータ言語を作ったのだけど)。

    少女:じゃあ、私にも分かりますか?

    禁煙:試しに遊んでみる? デジタル表示が三つついているでしょ。

    少女:はい。〈入る蛇口〉と〈出る蛇口〉と、あと〈バスタブ〉って書いてあります。

    禁煙:〈バスタブ〉の数字は、文字通りバスタブに今入っている水の量を表してるの。〈入る蛇口〉の数字は1秒間にバスタブに水が入ってくる量を表してて、〈出る蛇口〉の方で1秒間にバスタブから水が出ていく量ね。二つの蛇口は、どちらも数値をセットすれば、入ってくる量/出ていく量を決められるの。

    少女:わかります。

    禁煙:あと毎回写実的(?)に描くと大変だから、簡略化した描き方をするわね。四角の箱が〈バスタブ〉、〈バスタブ〉に入ってくる矢印の真ん中にある小さな三角形の頭を付き合わせたようなのが〈入る蛇口〉を表してると思ってね。〈バスタブ〉から出ていく矢印についてるのが〈出る蛇口〉ね。

    in-bath-out.png


    少女:説明おしまい?

    禁煙:まだ少しあるけれど、あとはキッチンに持っていって実際に動かしながらにしましょうか。

    少女:じゃあ〈入る蛇口〉を10にセットします。〈出る蛇口〉はゼロで。このバスタブ、何リットル入るんですか?


    diag-in10out0.png


    禁煙:1リットルで、この表示だと1000で一杯ね。

    少女:じゃあ、1000÷10=100だから、水を入れ始めて100秒後にバスタブは一杯になります。

    graph-in10out0.png


    禁煙:じゃあ〈入る蛇口〉を10、〈出る蛇口〉を6にセットしましょう。

    diag-in10out6.png


    少女:入ってくるのが1秒あたり10で、出ていくのが1秒当たり6だから10-6=4で、1秒当たり4だけ増えます。1000÷4=250だから、250秒後にバスタブは一杯になります。……で?





    ◯指数関数的減少のモデル


    禁煙:確かにこれだけだと、あまりにもつまらないわね。

    少女:小さい頃に、こういう問題やった気がします。

    禁煙:そこで取り出したのが、このコード。蛇口の裏に差し込むところがあるんだけど。

    少女:何に使うんですか?

    禁煙:〈入る蛇口〉や〈出る蛇口〉の数字は、今は人間がセットしてそのまま変わらなかったけれど、このコードをつなぐと、その数字を刻々とセットしなおしてくれる、というかコントロールしてくれるの。…バスタブは一杯になったかしら。

    少女:なりました。

    禁煙:〈バスタブ〉から〈出る蛇口〉へコードをつないで、〈バスタブ〉=バスタブの水の量が減るにしたがって〈出る蛇口〉も減らすようにしてみるわ。

    少女:こんな感じですか?

    diag-in0outfb.png


    禁煙:ええ。……はい、これを使って。

    少女:何ですか? タイマー?

    禁煙:1秒間隔でピッ、ピッと鳴らすわね。子どもたちには班に分かれてもらって、時間を計る役と、1秒ごとに〈バスタブ〉の表示を読み上げる役と、書き取る役を分担して、どんな風に水が減っていくかグラフを書いてもらうんだけど。

    少女:確かに一人でやるのは大変です。……できました、こんな感じですか。

    バスタブ表

    graph-in0outfb.png


    禁煙:うん、なかなか。実は今のが、応用例をいっぱい載せてる本なら、最初の方に出てくる微分方程式を、バスタブで表したものなの。

    少女:え、どこが?

    禁煙:見かけはずいぶん違っているけどね。今のモデルのポイントは、「水が減っていく速さは、バスタブに残っている水の量に比例する」ってこと。バスタブに入っている水の量をグラフにすると、最初は急な下り坂だけどだんだんなだらかになっていってるよね。

    少女:応用例って言ったけど、今のは何かの役に立つんですか?

    禁煙:たくさんあるけど、たとえば薬の血中濃度の変化のモデルで服用計画を考えたり、物の冷め方(温度の変化)のモデルで死亡推定時刻を計算したり。薬を服用してすぐで血中濃度が高いほど、その変化(下がり方)は激しいし、熱いモノほど温度は速く下がってしまうの。

    少女:だから右下がりのグラフはだんだんゆるやかになるんですね。

    禁煙:あとダイエットとかもそうね。同じ努力をしても体重が減るほど、減り方はゆるやかになる(下のグラフの青線)。ヒトは無意識に同じ努力には同じ結果が出るはずだと、グラフで言うと直線で描ける変化をイメージしてしまう(下のグラフの赤線)から、しばらくダイエットを続けていると効果がなくなったと思ってやる気がくじけちゃう。ほんとはちゃんと同じだけ効いてるからこそ、そういう変化になるんだけど。

    graph-weight-compara.png


    少女:ええっ、これって学校で教えた方がいいんじゃ。

    禁煙:ん?食いついた?

    少女:というか、微分方程式というより、それって「残っている量に比例して減っていく」現象のモデルなんじゃ?

    禁煙:ええ、そのとおり。だからいろんなところにこの種の現象は見つかるわ、自然にも社会にも。モデルとしてはとてもシンプルだけど、ダイエッターが勘違いするように、ヒトの量の感覚とは異なるものだから、数学の使い甲斐があるところなのだけれど。







    ◯指数関数的増加のモデル


    少女:バスタブで作れるモデルって他にもあるんですか?

    禁煙:ええ、もちろん。じゃあ今度は、〈バスタブ〉から〈入る蛇口〉へコードをつないで、バスタブの水の量が多いほど、ますます入ってくる水の量が増えるのを作ってみようか。

    diag-infbout0.png


    少女:これも何かの現象のモデルになるんですか。

    禁煙:一番身近なのは複利計算かな。預金とか借金とか。

    少女:まだ借金があるほどの甲斐性はないです。複利って何でしたっけ?

    禁煙:たとえば一年間で1%の利子で100万円預けるとするわね。1年後には100万円の1%が利子となって加わり、預金残高は100+1=101万円に増える。次の年は、101万円の1%、つまり10,100円が利子にとなって加わり、預金残高は1,010,000+10,100=1,020,100円になる。……以下、繰り返しね。

    少女:預金残高×利率=利子だから、預金残高=バスタブの水の量が多いほど、ますます入ってくる水の量が増えるちゃう。

    禁煙:同じように1秒ごとに〈バスタブ〉の数字を書き取ってグラフにしてみて。

    少女:今度はどんどんと坂がきつくなる上り坂みたいなのになりました。

    graph-infbout0.png


    禁煙:他には、「ネズミ算」って言葉があるけど、親ネズミの数に比例して子ネズミが生まれるとすると、ネズミが増えれば増えるほど、増え方が激しくなる。食料が十分な場合、生物はこんな増加の仕方をするわね。細菌とかホテイアオイとか。

    少女:ホテイアオイって水草ですか?

    禁煙:ええ。世界十大害草とか世界の外来侵入種ワースト100にも選ばれてて「青い悪魔」なんて呼ぶ人もあるくらい。寒さに弱くて冬はほとんど枯れるけど、ちょっとでも残っていると翌年にはまた大繁殖する。ああ池に少し浮いてるなあと思ってたら、いつの間にか池全面を覆っててびっくりしたりしない? この種の現象も、ヒトの数量の感覚からすると意外に感じるから「ネズミ算」なんて特別な言い回しがあるのね。







    ◯日常感覚とそれ以上をつなぐ


    少女:これも前に禁煙さんが言ってた、日常の感覚を越えたものだから数学が役に立つって場面ですか?

    禁煙:ええ。今のところでポイントは、「預金残高が多いほどほど利子も多い」「親が多いほど、生まれる子も多い」ってところは日常の感覚の通りだってこと。

    少女:バスタブ・モデルが、日常感覚とそれを越えたものをつないでる?

    禁煙:そして微分方程式の役目も、バスタブ・モデルのそれと同じだってこと。なぜ物理法則をはじめとして、科学の基本方程式の多くが微分方程式で書かれているのか、ここに理由があるの。

    少女:微分方程式が、日常感覚とそれを越えたものをつないでる? うーん、微分方程式を知らないから、それがどう日常感覚とつながっているのか分からないです。

    禁煙:たとえば止まったものに力を加えると動き出すよね。それまで速度ゼロだったのに動くってことは加速したってこと。より強い力だとそれだけ大きく加速するし、より重いものだとそんなに加速しない。

    少女:うーん、そこだけ取り出したら、確かに日常の感覚ですけど。







    ◯空気抵抗のない落下運動


    禁煙:たとえば空気抵抗がないところで物を落とすと、重力で引っ張られ続けるから、一定の度合いで速度は増加していく。速度が上がるってことは、1秒当たりに進む距離がどんどん増えていくってこと。さて、これのバスタブ・モデルをつくろうか。

    少女:ええっ、見当もつかない。

    禁煙:ちなみに速度が一定の割合で増加していくグラフはこんな感じ。

    graph-fall-noair-speed.png


    少女:一番最初のバスタブの水の量のグラフみたいですね。

    禁煙:ええ。一つ目のバスタブに〈速度〉って名札をつけておくわね。

    少女:一定の割合で増加していくから、〈入る蛇口〉は最初に決めた数値に固定ですよね。どうしましょう?

    禁煙:物を落とす話をしてたから、重力加速度にちなんで9.8にしときましょうか。

    少女:速度がどんな風に増えていくかはバスタブ・モデルで表現できましたけど、この後は?

    禁煙:ここにもうひとつバスタブを用意してみたわ。二つ目のバスタブに〈進んだ距離〉って名札をつけておくわね。

    少女:あとは、このコードだけど、ふたつバスタブがあるから、コードでつなぐってことは予想がつくんですけど。あと、〈進んだ距離〉バスタブの〈入る蛇口〉ってまだ考えてなかったです。

    禁煙:というか、それがほとんど答えね。

    少女:そうか。貯まって〈進んだ距離〉になるものって……1秒あたり進む度合いって〈速度〉だもの。

    〈進んだ距離〉バスタブの〈入る蛇口〉は速度だ。じゃあ、〈バスタブ〉に〈速度〉って名札をつけた一つ目のバスタブと、二つ目の〈入る蛇口〉をコードでつなぎます。

    diag-fall-noair.png


    禁煙:じゃあ、バスタブ・モデルを動かしてみましょうか。二つ目のモデルの〈バスタブ〉の値を1秒ごとに記録してね。

    少女:できました。

    graph-fall-noair-dist.png


    禁煙:これが世界最初の微分方程式だって人もいるわ。落体の運動を研究している時にガリレオが解いたんだけど。







    ◯空気抵抗のある落下運動


    少女:学校では  とかって、ガリレオが解いた結果だけを習いました。

    禁煙:数式のかたちで答えが得られると後で応用しやすいからね。でも、やぼったいバスタブ・モデルにもいいことがあるわ(といっても微分方程式なら当然できることだけど)。いまの2個のバスタブで作った落下運動のモデルだけど、コード1本追加すれば、「空気抵抗がある落下運動」のモデルに改造できるの。

    少女:どうしたらいいんですか?

    禁煙:ヒント。空気抵抗は、小さな物体がゆっくり動くときには、速度に比例すると考えていいの。速度が二倍になれば空気抵抗も二倍ね。

    少女:空気抵抗って減速させるんですよね。今は一個目のバスタブに入っている水の量が速度を表してたから、このバスタブから出ていく=速度をおとすって考えればいいのかな?

    禁煙:そのとおり。

    少女:じゃあ、〈速度〉って名札をつけたから〈出る蛇口1〉へコードをつなぎます。

    diag-fall-air.png


    禁煙:大正解。じゃあ、またグラフを書いてもらえる? 今度は速度がどんなふうに変化するかを知りたいから、〈速度〉って名札をつけた〈スタック〉の数値を1秒ごとに書きとめてね。

    graph-fall-air-speed.png


    少女:こんなグラフになりました。速度の上がり方は最初は急だけど、どんどんなだらかになっていきますね。

    禁煙:うん。高い雲から落ちてくる雨粒は、地上につくころはほとんど加速せずに(速度のグラフがずいぶんなだらかになったところね)、大きさによってだいたい同じ速度におちついて落ちてくるわ。直径1ミリメートルでは毎秒約4メートル、5ミリメートルでは毎秒約9メートルぐらいかしら。

    少女:雨が突き刺さらなくてよかったです。





    ◯ダイエットとやる気のモデル


    禁煙:せっかくバスタブを2つ使うモデルが出たから、値が増えたり減ったりを繰り返すモデルも作っておこうか。

    少女:実はもうちょっと着いていけなくなってるんですけど。

    禁煙:普通はバネの話なんかするんだけど、せっかくだしリバウンドのモデルにしようね。

    少女:えっ、狙い撃ち?

    禁煙:1つめのバスタブに〈超過体重〉という名札をつけましょう。

    少女:超過体重って?

    禁煙:理想体重よりどれだけ重いかってこと。当然、理想体重より軽くなったら超過体重としてはマイナスにあるわ。

    少女:えーと、バスタブだからマイナスの数とか表せないんじゃ?

    禁煙:ほんとはね。少しズルをして、バスタブのデジタル表示をいじってちょうど半分水が入ったときに0と表示するようにしておくの。こうすつとー500から+500までの数字が扱えるわ。

    少女:もう一つのバスタブは?

    禁煙:〈やる気〉という名札をつけておきましょうか。こちらもマイナスの値が扱えるようにしておくの。

    少女:ダイエットのやる気ってことですか?

    禁煙:やる気が高いときはダイエットに一生懸命取り組むから体重の減り方が大きい、と考えるのはいいかしら?

    少女:ええ。

    禁煙:ではもうひとつ。現実的にはもっといろいろありそうだけど、ここは単純に、体重が重いほどより強く動機付けられてやる気も高まる、と考えましょうか。逆に体重が軽くなってくるとやる気も減ってく、ってことね。

    少女:じゃあ〈やる気〉のバスタブから〈体重減少〉の蛇口へコードをつなぎます。それから〈超過体重〉のバスタブから〈やる気増加〉の蛇口へもコードをつないで、と。これでいいですか。

    diag-weight-motiv.png


    禁煙:これもグラフを描いてみましょうか。

    少女:体重もやる気も上がったり下がったりを繰り返すグラフになりました。体重のアップダウンをやる気のアップダウンが追いかけてるみたい。あ、でも、これ……

    graph-weight-motiv.png


    禁煙:なあに?

    少女:今のバスタブ・モデルには、さっき出た〈体重が減るほど減り方がゆるやかになる〉って話が入ってませんよね?

    禁煙:じゃあ、さっきみたいに〈超過体重〉のバスタブから〈体重減少〉の蛇口にコードをつなぎましょうか。

    diag-weight-motiv-fb.png


    少女:うーん、こんなグラフになりました。やっぱり体重のアップダウンをやる気が追いかけてるんですけど、アップダウンは同じ大きさじゃなくて形もなんか違いますね。ちょっと言葉で言い表すのは難しいです。

    graph-weight-motiv-fb.png


    禁煙:このあたりまで来ると、自然言語でなかなか表現できないから、モデルを使って考える甲斐があるって思わない?






    ◯バスタブ・モデルの正体


    少女:バスタブやコードを増やせば、もっと複雑なモデルも作れますか。

    禁煙:ええ。たとえばさっきの、2つのバスタブで速度と位置を表すモデルを組み合わせて、車間距離のシミュレーションとかね。

    diag-shakan.png
    (クリックで拡大)


    (岡野 道治他(1997)『理工系システムのモデリング学習 : STELLAによるシステム思考』牧野書店,星雲社 (発売), p78-79 図4-10,4-12を元にVensim PLE用に改変)


    少女:えーと、速度と位置を表すバスタブ2つが1セットで、車1つ分なんですね。

    禁煙:ええ。とりあえず3台分で作ってみたけれど、後続車は前の車の車間距離と速度の差を見てアクセルやブレーキを踏む(加速や減速する)けれど、車によって対応の遅れに差がある場合ね。先頭車は時速10キロから徐々に加速して、後続車はぶつからないように(「車の位置」のグラフが交差すると、そこでぶつかることになるんだけど)、速度を合わせていく感じになったわ。

    graph-shakan.png
    (クリックで拡大)



    禁煙:こんな風にどんどん組み合わせればいいって言えばいいんだけど、ただ弱点があってね。

    少女:なんですか?

    禁煙:マイナスの値が使えないってのはさっきのトリックで何とかなったけど、現実問題として水の量を計っているから精度がよくないの。あとバスタブやコードがたくさんになると扱いが大変だし、場所はとるし、今みたいに水浸しになるし。見た目もやってることもベタだから、その点は分かりやすいのだけど。

    少女:やってることはシンプルなんだから、コンピュータの上でできたら、バスタブもコードもいくらでも増やせそうだけど。というか、もうあるんじゃないですか?

    禁煙:ええ、実はね。アメリカにMIT(マサチューセッツ工科大学)って学校があるけど、60年以上も昔、電気工学の学生としてやってきたジェイ・ライト・フォレスターって人がいてね。戦争中、兵器に自動調整装置を応用する研究室で働いていて、その絡みで戦後も軍のためにコンピュータ(Whirlwind)を開発したり、半自動な防空システム(SAGE)をつくったりしたんだけど、大きなプロジェクトを経験したせいか、進歩を阻害するのは技術的な問題よりも組織運営の問題の方だって痛感したみたい。電気回路や自動調節装置を扱うやり方で組織のマネジメントをモデル化できないかと考え出したの。

    少女:リーダーって大変なんですね。

    禁煙:ちょうどある大企業で雇用が短い周期で上下する問題があって、みんなは「これは景気が上下するせいだ、つまり組織の外に原因があるから、一企業には解決不可能だ」って言い張ったんだけど、フォレスターさんはそのアップダウンは組織の内から生まれていることを証明したの。

    少女:ダイエットのモデルから、体重とやる気のアップダウンが生まれたみたいに?

    禁煙:このときのモデルづくりの方法が、やがて企業だけじゃなくて世界とか都市とかいろんなものに応用されるようになって、その後、システム・ダイナミクスと呼ばれるようになるのだけれど。今じゃアメリカだと高校生やもっと下の学校でもやってるみたい。

    少女:フォレスターさんもバスタブを使ったんですか?

    禁煙:もう少しだけ抽象化したものだったけどね。今日〈バスタブ〉と呼んでたものを〈レベル変数〉、〈蛇口〉と言ってたものを〈レイト変数〉、と言い換えれば、フォレスターさんたちが使った、システム・ダイナミクスでモデルを記述するストック・フロー・ダイアグラムになるわ。というより話は逆で、ストック・フロー・ダイアグラムの、日常的で身近な〈たとえ〉として使われるのがバスタブ・ダイヤグラムなんだけどね。もともとメタファーに過ぎなかったものを、調子に乗って作ってもらったの。

    少女:フローと風呂(バス)をかけてるんですか?

    禁煙:それは気付かなかったわ。珍しいね、オチは地口オチ?

    少女:二秒で忘れて。……でも、これがなんで微分方程式と関係あるんですか?

    禁煙:バスタブというメタファーの利点は、微分と積分を、(単位時間に)〈入ってくる/出て行く水の量〉と〈バスタブに貯まる水の量〉っていう日常的に目にするものに置き換えてくれることね。それぞれストックとフローを表しているから当然といえば当然だけど。

    少女:ストックとフローってよく聞くけど、よく分かってない気がします。

    禁煙:語れば長いけれど、例を上げておくとこんな感じかしら。

    フロー→累積(積分)→ストック
    一定期間内に流れた量ある一時点において貯蔵されている量
    時間を計る単位を変更することで値の変わる変数時間を計る単位の変更によって値の変わらない変数
    国民所得国富
    預金・引き出し預金残高
    生産・出荷在庫調
    雇入れ・解雇従業員数
    速度距離
    加速度速度
    運動量
    電流電気量
    熱伝導率熱量
    原子核崩壊率原子核数
    化学反応速度濃度
    データ伝送レートデータ伝送量



    少女:じゃあどれがストックでどれがフローなのかを整理して、その間の関係を矢印で結べば、バスタブ・モデルが作れるってことですか。

    禁煙:そう。しかも下の4つの表現(バスタブ、ストック・フロー・ダイアグラム、積分方程式、微分方程式)は、同じ内容を表してるの。

    bathtub-eauation.png

    (from Sterman, J. (2000). Business dynamics: Systems thinking and modeling for a complex world. Boston: Irwin/McGraw-Hill. p.194 FIGURE 6-2 Four equivalent representations of stock and flow structure - Each representation contains precisely the same information.)



    ◯バスタブ・モデルをコンピュータ上で動かす


    少女:えーと、つまりバスタブをつかって現象のモデルが作れたら、微分方程式も立てられるってことですか?

    禁煙:あと、システム・ダイナミクスのソフトを使えば、手を濡らさずにシミュレーションもできちゃう。ダイアグラムをお絵かきすれば、あとはお任せできるソフトがSTELLA / iThinkとかPowerSimとかいくつかあるけど、今回はネットからダウンロードできて個人用・教育用なら無料で使えるVensim PLE(http://vensim.com/free-download/)というソフトを使ってみたんだけど。

    少女:ああ、そういうのがあるから中学・高校でシステム・ダイナミクスできるのかな。実際、何してるんですか?

    禁煙:「システム・ダイナミクス」って独立した教科があるんじゃなくて、他の科目の内容に結びついてるみたいね。理科や歴史の授業で、環境問題とか文明のモデルをつくったりはもちろんあるけど、今日みたいに数学の授業に使ったり、英語(日本の国語科みたいなの)では文学作品を読んだり。

    少女:いや、文学にシミュレーションもバスタブもいらないでしょ?

    禁煙:有名なのだと(MIT のオンライン教材集Road Maps: A Guide to Learning System Dynamicsにも採用されてる)、ハムレットが復讐心をこじらせて王さま(クローディアス)を殺すまでのモデルとか。見てのとおり、ストック(私たちがいうところのバスタブ)4つでできてるんだけど。

    Hamlet-model.png
    (クリックで拡大)


    (Hopkins, P. L. “Simulating Hamlet in the Classroom”, System Dynamics Review V8 N1, Winter 1992を元にVensim PLE用に改変)

    少女:いったい何の意味が?

    禁煙:登場人物の感情の高まりを視覚化して時間的変遷を詳細に検討できるとかもあるけれど、一旦モデルを作ってしまえば、モデルやパラメーターを変更して「もし~だったら、どうなったか?」をいくらでも検討できる、というのも大きいわね。

    少女:いやシェイクスピアをマルチエンディングにしても……。事業計画とか政策立案の話だったら、確かにそういうのが必要だってわかるんですけど。

    禁煙:理解の仕方っていろいろあると思うけど、感情移入して追体験するのもひとつなら、対象にいろいろ働きかけて返ってきた反応を通して知るというのもひとつ。一目見ればわかるシンプルなものならいいけど、相手が複雑なものだと〈やり取り〉を通して分かることも多いって感じかしら。

    少女:うーん、いままで文学とか苦手だった子には、ちょっとウケよさそうかな。

    禁煙:実験する学問でも、やっている人にとっては、論文に書ける完成品の実験よりも、そこに至るまでのいわば試作品の実験を繰り返してるうちにいろいろ分かってくるものが大事ってところがあるけど。システム・ダイナミクスに限らず、この手のシミュレーションって、社会とか生態系とか実験が難しいもの相手の、実験の代用品ってところがあるの。

    少女:あー、でも、なんかの現象からバスタブ・モデルを自分で組み立てられる気がしません。

    禁煙:ご希望なら、モデルの作り方は別にやってもいいわね。





    (参考文献)

    高校の数学の先生が書いた、システム・ダイナミクス・ソフト(この本ではSTELLAを使用)を使った数学の授業の作り方。

    Fisher, D. M., & High Performance Systems, Inc. (2001). Lessons in mathematics: A dynamic approach : with applications across the sciences. Lebanon, N.H.: isee Systems.

    Lessons in mathematics: A dynamic approach
    Diana M.Fisher

    High Performance Systems

    発売元サイトで詳しく見る




    上の本が入手できなかったので、(だいぶ違うけど)次の本を参考にした。

    理工系システムのモデリング学習―STELLAによるシステム思考理工系システムのモデリング学習―STELLAによるシステム思考
    岡野 道治,福永 吉徳,福田 敦,吉江 修

    牧野書店
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    なお、Diana M.Fisher の別著 Fisher, D., & isee systems (Firm). (2007). Modeling dynamic systems: Lessons for a first course. Lebanon, N.H.: isee systems. については以下の邦訳がある。

    システムダイナミックスモデリング入門―教師用ガイドシステムダイナミックスモデリング入門―教師用ガイド
    Diana M.Fisher,豊沢 聡

    カットシステム
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    この分野の定番教科書。

    Business Dynamics: Systems Thinking and Modeling for a Complex World [With CDROM]Business Dynamics: Systems Thinking and Modeling for a Complex World [With CDROM]
    John D. Sterman

    McGraw-Hill Europe
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    以下は上の本の翻訳のはずだが、肝心のシミュレーションやモデリングについての記述をごっそり削除している(なんと1000ページを超える原著が500ページ未満の邦訳になるのだから、どれだけのものを省いたか)。
    著者スターマンは「システム原型(system archetypes)だ、システム思考だなんて分かった気になってちゃダメ。普通の人は何本もある微分方程式を頭の中だけでは解けないんだから、ちゃんとシミュレーションしなきゃ。」と苦言を呈していたはずだが気のせいだったか。

    システム思考―複雑な問題の解決技法 (BEST SOLUTION)システム思考―複雑な問題の解決技法 (BEST SOLUTION)
    ジョン・D・スターマン,小田 理一郎,枝廣 淳子

    東洋経済新報社
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     ダイエット関連では次の文献を参考にした。ウェイト・マネジメントにシステム・ダイナミクスをガチに導入してる。
     浅学非才のうえ寡聞にして、システム・ダイナミクスといえば自治体の作りっぱなしモデルとか『成長の限界』のあれとか大雑把なマクロ・モデルに違いないという(1970年代で時間が止まったような)偏見があったので、新鮮だった。
     しかし考えてみれば、アウトカムはきっちり数値で出るし、関連する要因は生化学から社会行動まで多分野に渡るし、そのどれにもフィードバックがかかっているしで、システム・ダイナミクスで扱うにはうってつけのテーマである。
     ひょっとすると、ちゃんとしたデータが揃いにくい資源・環境系や、実践しようと思えばエラくなるしかない経営系の事例よりも、この身一つあれば(あと体脂肪計付き体重計があれば、血糖値計があれば言うことなし)がんがん測れて実践できる(しかも不断に我が身に返ってくる=否応なくフィードバックしてくる)ウェイト・マネジメントの方が、システム・ダイナミクスの入門には適しているのではないかとさえ思えてきた。

    Abdel-Hamid, T. K. (2009). Thinking in circles about obesity: Applying systems thinking to weight management. New York: Springer.

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    オンラインで読めるものでは

    U.S. Department of Energy's Introduction to System Dynamics

     合衆国エネルギー省提供のオンラインブック。システム・ダイナミクスの歴史から基礎から説き語り。コンパクト。


    Road Maps A Guide to Learning System Dynamics

     初等・中等教育におけるシステムダイナミックスの活用と学習者中心の学習を奨励・支援するCreative Learning Exchangeのサイトにある教材集。かなりのボリューム。


    System Dynamics Self Study - MIT OpenCourseWare

     システム・ダイナミクスの総本山MITスローン経営大学院が提供する自習用オープンコースウェア。



    (今回使ったソフトVensim PLEについて)

    ・個人・教育用なら無料で使える(よく本に付いてくるようなお試し版ではなく、モデルの作成も保存も自由にできる)WINDOWS版とMAC版がここからダウンロードできる。
     http://vensim.com/free-download/


    ・マニュアルの邦訳やモデリング・ガイドなど、参考になる日本語ドキュメントは日本未来研究センターの次のページからダウンロードできる。
     http://www.muratopia.org/JFRC/sd/VensimManual.html


    ・本家のオンラインヘルプ(英語)はここ
     https://www.vensim.com/documentation/index.html


    ・自分でシステム・ダイナミクスのモデルをつくるときに役立つ、よく使うパターンを集めたのがこれ。
    なお、この文献にまとめられた全パターンをモデル・ファイルにしたものがVensim PLEにも付属している(Helpフォルダ>Modelフォルダ>Moleculesフォルダ内)。
     Jim Hines(1996->2005), Molecules of Structure Building Blocks for System Dynamics Models.
     http://www.systemswiki.org/images/a/a8/Molecule.pdf


    ・事例集 Tom Fiddaman's System Dynamics Model LibraryにはVensimでつくられた様々なモデル(資源・環境系と経営・経済系のモデルが多い)を集められている。
     http://www.metasd.com/models/index.html



     

     
    FC2 Management
     今回は嫌な感情に自分を乗っ取られそうになったときの対処法について。

     平常心とは、決して揺らがない石の心でなく、もう少しマシだった自分にいつでも立ち戻れることをいう。

     紹介するスキルは、いつにもまして特別なものではない。むしろ普段/自然に、多くは知らぬうちに、我々がすでに使っているようなスキルである。

     マインド・スキルというものは、知ってはいてもいざというとき使えないことが少なくない。特に悪感情に襲われそうになった場合には、リセット・スイッチを押すことはおろか、そんなスイッチがあることさえ忘れてしまうことの方が多い。
     
     では、人は悪感情に対していつも何の抵抗もなく心を明け渡しているかといえば、そんなことはない。
     たとえば精神的に追い詰められた人が、怒りを爆発させることがある。怒れる大人の多くは、恐怖や不安や傷ついた自尊心を覆い隠すために怒っている、といっても過言ではない。これは、恐怖や不安といった感情と怒りの感情が両立しないという人間の仕様を利用した対処法の例である。
     
     もちろん無意識に普段使いしているやり方がベストのものであるとは限らない。
     その場しのぎの即効的解決法は、長期的にはかえって問題をこじらせる副作用を持つ場合も多い。
     不安を怒りで紛らすことが習慣化した人は、自分や周囲の人間関係をほとんど常に怒りの炎で焼き続けてしまうかも知れない。気付いたら、人間関係の焼け野原にひとりきりということだってなくはない。
     もちろん、恐怖・不安と両立しないものは怒りだけではない。たとえば最初期に開発された行動療法である系統的脱感作法は、身体的弛緩が恐怖・不安と両立しないことを利用している。

     しかし今回は、感情に別の感情をぶつけるというガチンコなアプローチ(これらは難しく専門的なトレーナーを要する)以外のものを集めてみた。

     以下は、すでに使っている感情についての自分のスキルを思い出し、点検し、できれば善用するためのリストである。



    1 注意を変える

     不安や恐怖という感情は、推論という知的操作によって薪をくべられ燃え上がる。「もし〜となったら……」と未来を思い描くことなしに不安や恐怖は維持されない。
     このことを情報処理の面から見れば、不安や恐怖に陥る人は、ネガティブな未来予測に大切な認知リソースを消耗してしまい、他の知的作業に回せないことになる。平たく言えば、不安や恐怖によってアタマが悪くなる。情報処理能力が下がり、理解力が下がり、記憶力も下がる。
     より悪いことに、他の可能性を検討するための認知リソースも残らなくて、感情とそれを支える推論の悪循環から、ますます抜けにくくなる。

    circulus_vitiosus.png

     
     火を消すには、燃えるための条件を取り除けばいい。
     普通の火の場合は、温度を下げたり、酸素の供給をさまたげたり、可燃物を取り除いたりする。
     
     感情の火を弱めるには、その存続条件を除けばいい。悪循環ならば、そのループの連なりのどこかを弱めればいい。
     一つの方法は、注意という限りある認知リソースを別に振り向け、ネガティブな未来予測に費やされる分を減らすことである。



    (1)触覚に自分を譲り渡す

     思考・推論という高い水準の作業に振り向けていた注意を、より低い水準に振り向けなおす。
     一番簡単なのは触覚に注意を向けることだ。
     自分の置き所を、ぐるぐる思考の閉回路から、身体と外界の接触面に移すのである。
     
     「ライナスの毛布」が一番有名だが、触覚に注意を振り向けることで不安や恐怖だけでなく怒りなどの感情も沈める効果がある。
     いくらか時間が取れるなら、パンの生地をこねたり、粘土をいじるのもよい。

     しかしストレスフルな出来事は家の外にこそある。外出するのにいつも古い毛布やもふもふしたぬいぐるみを連れていく訳にはいかないし、ポケットにいつも生地や粘土を用意しておくのもあんまりだ。
     
     この効果は人間の仕様によるものだから、実は必ずしも、いつもの決まった毛布でなくても、手でもふもふしなくてもよい(いつもの決まった儀礼的行為は、それだけで効果が上乗せされはするが)。

     たとえば、座っていて手を膝の上に置いているなら、指先で触れている布の感触に意識を集中しよう
     頭のなかでどんな感触であるかを言葉にして実況中継してみるといい。悪い感情と悪い推論の連鎖が、いつのまにかゆるやかにほどけていく。

     集中するのはどの部分の触覚でもいい。顔に当たる空気の動きでも、腰を下ろしたソファの柔らかさでも、足がふれているカーペットの感触でも、普段意識していないものなら何でも利用できる。
     たとえばテスト中に我を失ったら、固く握り締めているペン軸の感触に一時的に意識を移すことで自分を取り戻せる。



    (2)聴覚の窓を開け放つ

     中には自分の感覚に意識を合わせることで悪感情のループに入っている場合もある。
     たとえば体に痛みがあり、それを和らげるために怒りを維持している場合などがそうだ。
     眠ろうと努力すればするほど、それに躍起になることで神経は興奮し、ますます眠りから遠ざかるのもそう。
     自分の状態に注意が向きすぎるなら、引き離そうと努めるよりも、別のこと=自分から離れたものに注意を移すのがよい。

    a.自分のそばの音を聞くことから始めよう。
      自分自身が発する音(鼓動、息の音)は避けた方がよい。

    b.次に、その音よりも、自分から離れたところから聞こえてくる、音を探す。

    c.次々により遠い音を探して、そこに意識を移動させることを繰り返す。
     たとえば部屋の中にいるときは、室内の音から始めて、室外の音に、そしてより遠い音に移っていく。

    d.目を開けてはじめても、音に集中していくと、自然に目を閉じる人も多い。
     目を開けていても、やがて何も見ていない(見えるものに気を止めない)状態になる。

    e.自分の状態と、自分の周囲の状況が気にならなくなったら、手元を見ることに戻ってこよう。



    (3)注意が必要な作業を始める

     まとまった時間が取れるなら、注意が必要な作業を行うことも使える。
     あらゆる作業はいくらか注意が必要だが、失敗してもどうってことないものがいい。
     
     勝ち負けにこだわらない場合のスポーツは、この条件を満たしている。
     たとえば飛んできたボールを打ち返すには、どうしたって注意を払わなくてはならない。
     
     体力なくて飛んだり跳ねたりが無理でも、たとえば片足立ちを続けたり、線の上から外れないように歩くことはできる。平均台から落ちれば痛いが、両足をついたり地面の上の線から外れても問題はない。
     
     手のひらの上に棒を立たせて、倒れないように頑張ってみる、というのもある。




    2 認知を変える

     我々の感情や行動は、我々が何をどう考えるかによって影響を受ける。
     ここまではいい。
     しかし自分の考えだからといって、必ずしも思い通りにできる訳ではない。
     ここが難しい。

     けれども思考を変えることはまるでできない訳ではない。
     実のところ、我々は普段から思考を変えることで感情の問題に対処している。
     この無自覚に行っている認知の変容からも、我々は学ぶことができる。



    (1)体験や感動のサイズを変える

     良い出来事を悪い出来事に、悪い出来事を良い出来事に、考えの方向を180度ひっくり返すのは大変だ。
     しかしその〈大きさ(サイズ)〉なら、我々は既に/普段から変えてしまっている。それが習い性になってさえいる。

     たとえばあなたは良い結果を出して、誰かが褒めてくれたり高く評価してくれたとしよう。
     慎み深いあなたは「いや、たまたまうまくいっただけですよ」とか「いや、もっとすごい人がいます。私なんか全然です」と口にしたり心のなかで言ったりするだろう。
     そうして喜び過ぎないように、良い出来事の大きさ(サイズ)を小さくしてしまう。
     加えてこうした割引行為は、日本社会だと〈謙虚さ〉として美徳の一つに数えられるので、周囲にも受けがよくて習慣化しやすい。

     しかしここでのポイントは、(誰もがとは言わないが)多くの人が、ものの見方を変えて感情をコントロールするスキルを、既に習得済みであるどころか常用さえしていることである。
     
     スキルとして自覚できれば、トレーニングすることだってできる。使いどころや使う方向を変えることもできる。
     似たようなことを言ってる人がいないか探してみると、ミルトン・エリクソンの弟子のひとりスティーブン・ランクトンが、そういうエクセサイズを奨めていた。

     日本の読者向けにいうと、ドラえもんの〈オーバーオーバー〉(てんとう虫コミックス第13巻、初出 小学五年生76年12月号)を毎日脱ぎ着してみるのである。
     体験の意義や意味を〈小さくする〉ことに慣れているなら、逆方向の〈大きくする〉を意識的にやってみる。心の前屈が癖になっているなら時には後ろに反ってみる。

     S(スモール)サイズの幸運や幸福な出来事を、〈オーバーオーバー〉を着てL(ラージ)サイズに感じてしまう人を想像する。そしてその人が何と言って感動するかをセリフにしてみる。
     アホらしい。
     ではSサイズの不運や不幸な出来事をLサイズに感じてしまう人は? そして自分が普段そうしていないと誰が言えるだろう。

     このオーバー・オーバー・エクセサイズには望外の効果がある。
     SS(極小)サイズの幸運や幸福な出来事を拾い上げることのできる感度が身につくのだ。なんだか毎日を丁寧に行きている幸せな人っぽいではないか。
     しかし好事魔多し。当然、SS(極小)サイズの不運や不幸な出来事を拾い上げることだってできるようになる。
     だが、このことは生活の質QOLをあまり悪化させない。何しろSS(極小)サイズだし、そいつらを見下ろすことだってできるからだ。
     我々を苦しめるのは、不幸というよりも、見上げてなくてはならないような我々を圧倒するほどの不幸の大きさだったことを知る。



    (2)誰かの視点から眺める

     Lサイズの出来事をSサイズにしてしまうことで思い出した。
     
     漫画家の水木しげるは、何百年生きる妖怪から見れば人間の悩みなんてどうってことない、みたいなことをどこかで言っていた。

     妖怪の視点に立つことが無理でも、他の人の視点から物事を眺めるぐらいだったら何とかなるかもしれない。

     映画監督のビリー・ワイルダーは、師匠のエルンスト・ルビッチの名前を入れたモットーをオフィスに掲げていた。


     How would Lubitsch have done it?
    (ルビッチならどうする?)




     マイケル・マハルコはもっと贅沢に、伝説の名経営者や歴史上の偉人たちからなるドリーム・チーム的な役員会(賢人会議)を想像して、そこに重要な案件を検討してもらうという発想法を紹介している。「◯◯たちならばどう考える? How would ◯◯ have thought it?」という、複数人分版だ。
     そう想像するのだが、あなたが招集したい偉人たちが口にした名言や著作からの引用などを普段から集めておくと、この作業はやりやすい。ビジネス向け私淑である。


     たとえ偉人で無くても、誰か他の人の視点で考えるエクセサイズを普段からしておくことは役立つ。
     ピンチの時、たとえばジェームズ・ボンドなら余裕を持ってこの危機に冷静に対処できる(はず)と考えても、そうできない自分を落ち込ませるだけかもしれない。
     むしろ些細なことに動揺しまくって際限なくモノを落としまくるウッディ・アレンを思い浮かべた方が心の慰めになる気もする。
     慰めにならなくともウッディ・アレンを思い浮かべた時点で勝ち負けで言えば勝ちだ。

     誰の視点に立つかは、それまで重要ではない。有能そうな人間のマネをしているつもりになっても賢くなっているわけではない。

     しかし(自分でない)誰かの視点に立つだけで、我々はいくらかの冷静さを取り戻すのである。



    (3)間MAをあける(MA:Moments of Awareness)

     問題状況にはまり込んだ自分から完全に抜け出すことは不可能でも、自分の向きを変えることならできるかもしれない。
     
     いくつか方法があるが、簡潔に洗練されたものに、以下の方法がある。
     
     問題状況と自分の間に隙間をあけて、向きをかえるためのスペースを生み出す。
     欠点は、多くのマインド・スキルと同様に、このテクニックを知っていても、悪感情に我を忘れてしまい使うべき瞬間には思い出せないことが多いことだ。
     テクニックを使うことを思い至れるほど冷静になれるならば、ほとんど問題は解決しているじゃないか、という批判もある。
     
     それでも紹介する理由は、実際に使えなくとも、利用可能なテクニックが存在すると知っているだけでも、自分を取り戻すことに少しは役に立つからだ。
     「ああ、さっきこの手を使えばよかった」と事後的に思い出すことを繰り返すうちに、少しずつだが必要な場面で使えるようにもなる。


     テクニックは3つの自問用の質問と深呼吸を伴う1つの自分への指示からなる。
     
    (質問1)今この瞬間に何が起きているのだろうか?
      (次の補足質問を加えてもいい)
          ・私は今何をしている/感じている/考えているのだろうか?

    (質問2)今この瞬間に私は何を望んでいるのだろうか?

    (質問3)今この瞬間に自分が望む結果を手に入れることを私は邪魔していないだろうか?
      「私は〜〜を選ぶ」と自分に言って問いかけを終える。

    (深呼吸)深呼吸して、前に進もう


     たとえばこんな風にして使う。
     
     プレゼンや発表の後、質問者から自分が知らない文献やデータがひどく重要なものとして紹介され、あなたのプレゼン・発表との関連について尋ねられた。
     第三者として見ればたいしたことのない状況だが、プレゼン・発表だけで一杯一杯だったあなたは軽いパニックに陥る。頭は真っ白、あくまで友好的な質問者の表情さえも、あなたの無知を嘲笑しているみたいに感じてしまう。自分の不勉強・準備不足がうらめしい。こんなことも知らないなんて聞いている人はさぞかし自分を馬鹿だと思うだろう……。
     しかし幸いにしてパニックになったら見るようにといわれたカードを手元に置いていたことに気付くことができた。

    (質問1)今この瞬間に何が起きているのだろうか?
    →(答1)私はプレゼン・発表中である。答えられない質問を受けたせいで、今まさにパニックに陥っている。


    (質問2)今この瞬間に私は何を望んでいるのだろうか?
    →(答2)私は無事にプレゼン・発表を終えることを望んでいる。この質問タイムが過ぎれば終えることができるのに。


    (質問3)今この瞬間に自分が望む結果を手に入れることを私は邪魔していないだろうか?
    →(答3)邪魔している。私はここにもう居たくないのに、私が何か話さないと質問は投げられっぱなしで、この場に縛り付けられたままだ。司会だって終わりにすることができない。何か言えば、持ち時間は来ている、終了だ。私は、答えられないにしても何か話すことを選ぼう。



    (深呼吸)深呼吸して、前に進もう

    →スーハー、スーハー、スーハー。「ご、ご質問ありがとうございます。大変興味深いのですが、簡単にお答えできるほど、よく理解できていないのが残念です。できれば後ほど詳しくお話できたらと思います。」





     〈間をあける〉の中の3つの質問は、問題を解決する魔法の言葉ではない。
     考え方の向きをほんの少し変えるために、問題と自分の間に、少しの隙間をつくるためのものだ。
     
     困難の真っ只中にいる人には全世界そして過去現在未来のすべてが敵(どっちを向いてもダメ、いつまでたってもダメ)に感じられるものだ。
     しかし将来にわたって全面的に苦境が広がっているとしても、対することができるのは今ここの一点だけである。
     だから(質問1)は、自分が困難に接している、今現時点のこの一点に、自分を連れ戻す。
     (質問2)で、大きな問題の方ではなく、ささやかな自分の欲求の方へ自分を連れ戻す。
     そして(質問3)で、ささやかな欲求を実現するための、自分の中にあるかぎりの障害に目を向けさせる。今この瞬間に変えることができるのは、全世界の中で自分だけだから。
     こうして最も小さいフィールド〈今・ここ・自分〉で実施可能な最低限の方策に立ち戻させるのだ(たとえば「もっと勉強すればよかった」という時間的に長期に関わることは、その通りだとしても、今ここで考えることではない)。



    (4)推論のはしごを降りる

     技法としてはこれまでのものより大掛かりであり、とっさに使うためのものではない。
     本来は、相容れない相手や理解できない信条をもつ者や行動をする者と折り合うためアプローチであり考え方である。

     しかし〈自分〉という時々相容れなくなる相手と付き合うにも有用であるので紹介する。 


     我々が「事実」として受け取り、取り扱うものはすでに推論やさまざまなデータの統合した人工物である。

     たとえば同僚たちが大勢いる中、あなたは上司に厳しい口調で叱責されているとしよう。
     この情景をビデオカメラで撮影したものを、異なる惑星の我々と組成の違う知的生命体(たとえばアンモニアベースの体液が流れ、メタンガスを呼吸し、音波ではなく臭いを放って互いにコミュニケーションをとる知的生命体)に見てもらうとしよう。激しく揺れながら音を発している上下に長いたんぱく質の塊(これが上司だ)の近くに、あまり動かないより小さなたんぱく質の塊(これがあなた)が見える。その向こうに、同種のたんぱく質塊がいくつか(これらが同僚)あるのは分かるが、それだけだ。
     〈怒り〉や〈叱責〉といったものは、この情景を文化的に解釈して(あるいは文化的解釈を当てはめて)はじめて認識することができるものである。
     
     我々はこうした解釈をほとんど意識せず自動的にやってしまうが、〈生の事象〉に何重ものかぶせられる解釈や推論を、細かく分けてみると以上のようになる。
     
    ladder_of_inference.jpg

    (下から上へ)
    1.(ビデオに記録できるような、生の)observable data
    2.事実の中から自分が注意を向け選択したもの selected some details
    3.その選択された事実に、自分が付け加えた意味 added meanings , based on the culture around me
    4.その事実の意味に基づいた推論 assumptions based on the meanings
    5.推論から導かれた結論 drawed conclusions from the assumptions
    6.結論から生まれた確信 beliefs about the world
    7.確信に基づく行動 actions based on my belief


     同じ場面に置かれても、そのどこに注目して意識するかは人と場合によって異なる(ことがある)。
     同じものに注目しても、それにどんな意味づけを与えるかは人と場合(とくにその人がどんな文化の内にいるか)によって異なる(ことがある)。
     同じ意味づけを与えたとしても、それを元にどんな推論を行うかは人と場合によって異なる(ことがある)。
     同じ推論をすすめたとしても、そこからどんな結論を得るかは人と場合によって異なる(ことがある)。
     同じ結論を得たとしても、そこからどんな信念が生まれるかは人と場合によって異なる(ことがある)。
     同じ信念が生まれたとしても、どんな行動に及ぶかは人と場合によって異なる(ことがある)。

     先の「同僚たちが大勢いる中、あなたは上司に厳しい口調で叱責された」にもどってみよう。
     あなたは感覚データの中から、上司の表情や声(と言葉)に注目する。周囲に同僚がいることにも気付いている。
     注目した事柄から、上司が怒りを覚えていること、その怒りの矛先が自分に向けられていると解釈する。こうして「上司に厳しい口調で叱責されている」という認識ができあがる。
     しかしあなたの認知プロセスはここで止まらない。さらに「同僚たちが大勢いる中で叱責した」という側面が合わされ、「ただ叱責するだけなら他に誰もいないところでできたはずだ。上司はわざと自分に恥をかかせようとしているのだ」と推論する。
     これまでの上司とのネガティブなやり取りを記憶から引っ張り出され、「上司は自分を嫌っているのだ」という結論や、さらには「こいつは部下の叱り方も知らない冷酷な人非人に違いない」「こんな奴が出世するなんてこの会社は~」という信念にまで行き着くかもしれない。
     
     強い感情を帯びた推論や信念をとっさに対象化して分析するのは、大抵の人間にはまず不可能である(あえて言えば、状況を宇宙人として眺めるやり方は、独立して採用できるかもしれないが、これは先に述べた(2)誰かの視点から眺めるの一バリエーションである)。
     
     時間をおいてでさえ、自分の強い感情を帯びた推論や信念を対象化して分析することは難しい。
     強い感情を向けられた相手になっている場合も無理だ。
     岡目八目、激しい感情のやり取りから第三者的な距離をとれてはじめて分析は可能となる。
     自分自身の感情については、安全圏に逃れ、十分時間をおいて頭が冷えてから、怒りの内容を書き言葉など外に出してみて、さらに時間をおいて見直してみるなど、何重にも距離を置く工夫がいる。
     
     しかしまるで不可能かというとそうではない。
     いきなりはできなくても、少しずつトレーニングすることは可能である。

     自分や身近な相手について分析するのは難しいから、まずはまるっきりの赤の他人についてやってみるのがいい。
     激しい感情(例えば怒り)を表している人を選び、どんな推論のはしごを上りつめて怒っているかをステップごとに考えてみるのだ。
     分析結果を相手に伝えると間違いなく仲違いにつながるから、最初は対面しようがない、フィクションの登場人物や三面記事で報道されている人など、結果を伝えようのない相手を選ぶ。
     
     激しい感情(例えば怒り)を持っている人について、次のことを考え書き出していく。
     
    ・何を信じて怒っているのか?
    ・どんな結論を得て、そう信じているのか?
    ・どんな推論を経て、そう結論したのか? とくに、今その場で起こっていないどんな出来事と結びつけたのか?
    ・どんな意味づけを元にして、そうした推論は行われたのか?
    ・どこに注目して、そんな意味づけをしたのか?
    ・元の出来事について、映像と音声だけで記録できるのはどんなことか?

     
     もちろん当てずっぽうになるが、分析結果が正しいことよりも(心理描写のちゃんとした小説などを素材にすると〈答え合わせ〉もできなくはないが、作者が何らかの〈答え〉を提示しているとしても、それもあり得る解釈のひとつである)、出来事から感情までの間に何段階ものステップがあることを体感することの方により大きな意義がある
     段階があることを実感できれば、怒りの理由をつかまえて他人に伝達可能な形で表すための道筋が開けるからだ。
     出来事が自分をダイレクトに怒らせるのだ(←受身・自発の助動詞が用いられているのに注意)、という者と、出来事について自分はこう考えた、その意味をこう受け取ったから怒っているのだ(←私を主語とする発言に変わっている)、という者とは、雲泥の差がある。



     
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     この本に書いてあるのは、ほんとに〈基本的〉なことです。
     
    ここで〈基本的〉というのは
    (1)大抵の人が実行可能で
    (2)多くの人にとって有益であることが理解できるけれど
    (3)実際に実行する人はそれほど多くない
    という意味です。

     そういう〈基本的〉な、本の読み方(情報の読み取り方、ものごとの筋道の追いかけ方)、問いの立て方と問い直し方、受け取った情報を元にした思考の組み立て方、文章の書き方そして考え方について書いてあります。
     
     ちゃんとした学問をちゃんとやっている人が、そうなるまでに身につけるような、頭脳と身体の使い方について、その一番大切な核(コア)にあたる部分を、できるだけ分かりやすく説明してくれています。
     
     この本を読むと、引用文を並べて感想コメントを付け加えただけのレポートなんて書けなくなるでしょう。
     この本を読むと、「自分の頭で考える」なんて能天気なことをのたまう人たちから得られるものは何ひとつないことに気付くでしょう。
     この本を読むと、ヘンなもの(これさえあれば世の中の物事はなんでもぶった切れる特別なもの、という格好をしていることが多いです)にハマって学生生活や人生を棒に振ってしまう危険性が半分くらいに下がるでしょう。
     この本を読むと、たとえば時々ネットでも見かける、Twitterでとりわけ見かける、どこかで聞いたようなことをヒステリックに振り回している恥ずかしい学者や批評家先生に欠けているものが何なのか、はっきり言葉にすることができるようになるでしょう。


     たとえば文庫版の前書きにはこんな一節があります。
     
    「自分で考えろ」というのはやさしい。「自分で考える力を身につけよう」というだけなら、誰でもいえる。そういって考える力がつくと思っている人々は、どれだけ考える力を持っているのか。考えるとはどういうことかを知っているのか。本を読みさえすれば、考えることにつながるわけでもない。自分で何かを調べさえすれば、考える力が育つわけでもない。ディスカッションやディベートの機会を作れば、自分の考えを伝えられるようになるわけでもない」
    (知的複眼思考法 誰でも持っている想像力のスイッチ(講談社プラスアルファ文庫、6~7ページ)

      
     こうした問いかけのすべてに、この本は答えを出してくれている訳ではありません。
     もちろんヒントや例解(たとえばこんなやり方がある)については、さまざまな例をあげて詳しく説明しています。
     しかしこの本が教えてくれるのは、もはや唯一の正解なんてない領域に私たちが踏み込んでいるのだということ、だからって「何でもあり」という訳でないこと、つまり「正解探し」とは違う努力をしなければならないこと、不安になるかもしれないけれどそんな不安を抱えながら進んでいくのだということです。
     
     短く言えば、この本が教えてくれるのは、考え方や読み方・書き方についての〈解答〉ではなく〈課題〉です。
     まともにこれらの〈課題〉に応じるためには、この本に書いてあること以外/以上のことにも挑むことになるでしょう。
     だからこそ、真っ先にこの本を読んで欲しいと思うのです。



     蛇足と思いながら、付け加えます。
     
     〈基本的〉なことというのは、少しのコストで多くが得られるものではありません。
     むしろ手間や負担がしっかり必要なことが多いです(だからこそ、実際にやる人、やり続けることができる人は多くなくて、誰にもできることを続けるだけで多くの人が届かない域に至ることがあるのですが)。

     大人と付き合いはじめた若い人にとっては、これだけで敬遠しがちになります。
     というのは、すでに何年も前からはじめている人たちに対して、若い人たちが〈基本的〉なことで立ち向かっても、先行する人たちが有利に決まっているからです。
     一発逆転を狙って、抜け道や邪道を探したくなるのは自然な感情です。
     
     ですが、なぜ抜け道が抜け道であり邪道が邪道であるのかを、知ってから飛び込むのと知らずに飛び込むのは違います。
     
     だからこそ、真っ先にこの本を読んで欲しいと思います。