で、小説の文章は、場面、説明、描写からできているという話をしました。

     今回は、そのなかで一番難しくて、「もう少し詳しく」というリクエストがあった、描写について考えます。
     
     初級編なので、描写がとことん苦手な人のために、取っ掛かりになる考え方をひとつだけ取り上げます。



    思っているまま言葉にしても伝わらない

     作文で「(遠足に行きました。)楽しかったです。」とだけ書いて止まってしまう子供たちがいます(小学生並みの感想)。
     
     作文指導だと先生は「どう楽しかったのかを書こう」と促します。
     しかし、その子の中では〈楽しかった〉で完結しているので、どうもこうもありません。
     これは何も子どもだけの話ではなく、人数で言えば大半の大人がほとんど同じです。
     
     我々はほとんどの時間、世界を要約的に捉えています。
     でないと世界から受け取る情報量が多すぎて処理できません。
     要約的に捉えた世界を、捉えたままに書き出せば、当然ながら要約的な文章になります。
     遠足では色々あったけれど、様々な出来事や印象は混ざり合い、あるいはろ過されて、心に残ったのはただ〈楽しさ〉だけなのだから、心のままに書くならば
    「楽しかったです。」
    だけで正解なのです。

     では何故、要約的に説明する以上の文章表現があるのでしょうか。
     それは〈自分の思っていることをそのままに言葉にしても、基本的に相手に伝わらない〉からです。
     書くことについて学ぶべき半分は、この一言に尽きます。

     自分が〈楽しかった〉から「楽しかった」と書いた。「楽しかった」と書いてあるのだから、読む人もそう思え、〈楽しい〉気分を共有しろ。なんてことが通用するなら、あらゆるノートはデスノートとなり、ドラえもんのひみつ道具「シナリオライター」を世界中の人が使い放題になるでしょう。そう、ペンと紙さえあれば、世界はあなたのものです。

    「ライター芝居」に登場ー『ドラえもん』てんとう虫コミックス第8巻に収録
     
     しかし他人が書いた「楽しかったです。」という言葉を読んでも、読み手は楽しくもなんともありません。
     同様に「花子は誰からも愛される美しい娘だった。」という言葉だけでは、読み手は花子さんを好きになったりしません。ドキドキもしません。

     しかし、小学生向けの作文指導では「まず言葉に絶望しろ」と言うわけには行きません。
     なので、もう少し具体的なアプローチが採用されます。


    五感をつかってみる

     一つの出来事について、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、(味覚)、で感じられるものを考えます。このワークも、とりあえず最初は出せるだけ出して数を稼ぎましょう。使うかどうかはあとで考えるのです。意識して色んな角度から細かく物事を見る(つまり要約的でない見方で見る)トレーニングです。
     

    ・視覚(みるもの)…色、光・影、形
    ・聴覚(きくもの)…声、音、響き、言葉
    ・嗅覚(におうもの)…匂い、臭い、香り
    ・味覚(あじわうもの)…味、歯ごたえ、舌触り
    ・触覚(ふれるもの)…感触、温度、刺激


     
     さて「描写の書き方」というと、このような五感による表現をむやみに勧めるものが多いようです。
     けれども、比喩や他の表現についても同様ですが、感覚表現についても無駄遣いは避けるべきです。使いすぎると飽和して、その価値が減じます。感覚表現のインフレです。
     とくに数打てないはずの嗅覚描写を、あちこちで使いまくるのはもったいないです。部屋を移るごとに必ず五感すべてを使って描写するとか、どこにでもある朝食の場面でわざわざ味噌汁や焼き魚の匂いを書き連ねることが本当に必要あるでしょうか?(それが見せ場ならともかく)


    そこで何が起こっているか?ー描写を支えるものの見方

     〈五感を使う〉で体が温まってきたところで、一歩進んで、もう少し普遍的なアプローチを考えてみます。 
     ここで導きとなる問いは「そこで何が起こっているか?」です。

     単純な例として〈雨降り〉を考えましょう。
     
     教室でなら、教師が生徒に「雨が降るとどうなるかな?」とブレインストーミング的に思いつくかぎり数多く挙げさせます。出てこない場合は「空はどうなる?」「地面はどう?」「人は?」と助け舟を出したりします。
     つまり「雨降り」に付随する状況や事象を出せるだけたくさん出すわけです。使うかどうかはあとで考えます。
     

    (空は?)・暗くなる ・雲でいっぱい ・分厚い雲 ・雷ひかる
    (地面は?)・濡れる ・べちゃべちゃになる ・水たまりできる
    (人は?)・傘をさす ・傘が無いから走る ・屋根のあるところに隠れる



     たくさん出たら、分類します。
     雨が降る前→降り始め→…→雨上がり…と時間の順番に並べ替えたり、霧雨<小雨<本降り<土砂降り…と雨の強弱で並べたりします。順序×強度で表に整理するのもありです。
     
     ここまでできれば、出てきた表現からいくつか選んで、つなぎ合わせれば、なんとか雨降りの描写っぽいものをつくることができます。たとえば
     

     暗くなってきた。空が厚い雲でいっぱいになる。あちこちで傘が開く。傘のない子が屋根の下へと走り出す。雨が降ってきた。





    主題の言葉を使わずに表現する

     上の段階ができるようになると、表現したいものを直接的に言葉にせずに表わすことに進めます。
     いわゆる「間接描写」というやつです。

     たとえば〈雨降り〉を、「雨」や「降る」という言葉を使わずに表現するわけです。
     いきなり難しい時は、上の2つのワークをやってみて、描写表現をブレインストーミングなどでリストアップしてから、チャレンジするといいでしょう。
      
     「美しい女」「年老いた男」を抽象描写といますが、これらは何も描写していません。単なる説明です。いやむしろ、文章に登場する女や男について、読者にどう見て欲しいかをあからさまに伝える書き手からの〈お願い〉です
     
    バルザックという、基本的に読者を信用することができなかった小心な作家は、さんざん描写した後で、どうせ読者は書いていることが分からないだろうと、「美しい女」みたいな説明をダメ押ししました。
     先に間接描写で地ならししておいて、それでもピンと来ない分かりの悪い読み手のために(要するに)「美しい」のだとダメ押しするとか、先にうっかり「美しい」と書いてしまったなら、後で間接描写で周りを固めて「そういうことなら美しいと認めてやってもいい」と読み手に納得してもらうとするのはバルザックがよくやる手です。
     本人は描写によって〈証明〉をやっているのだと思っているのですが、読み手には書き手がここの箇所ではどう思って欲しいのかがあまりに露骨に見えるので、肝心の描写は読み飛ばしても差し支えないことになります。そしてバルザックを読む人は大抵そうするのです。



     描写とは、そういったものではなく、その「美しい」「年老いた」といった説明を、言葉によって裏付けるものです。
     
     さっきの例では〈雨降り〉を描写するために、「そこで何が起こっているか?」と自問自答して、〈雨降り〉に付随する現象を集めました。
     最後の「雨が降ってきた」というフレーズ抜きでも、多くの人は雨が降ってきたと思うはずです。
     

     「暗くなってきた。空が厚い雲でいっぱいになる。あちこちで傘が開く。傘のない子が屋根の下へと走り出す。」

     

    間接描写を支えるものー認知的根拠

     ひとつの言葉は他の言葉とつながっています。
     たとえば「雨」という言葉は、「晴れ」や「雪」といった他の天気とつながりを持っていますし、「降る」や「落ちる」「ぱらつく」といった動詞や、「傘」や「合羽」といった名詞、また「沛然と」「潸々と」「蕭々と」「滂然と」といった副詞、「車軸を流すように」「天の底が抜けたように」「バケツを引っくり返したように」といった比喩、「ぱらぱら」「ぽつぽつ」「ぽつりぽつり」「ざあざあ」「ざあっと」「しとしと」「じめじめ」といったオノマトペなどとも関係があります。
     われわれのメンタル・レキシコン(頭の中の語彙目録)は、こうしたネットワーク状になっていると考えられています。
     
    rain-lexi.png


     したがって「雨」という言葉を使わず、雨を思い浮かばせるためには、メンタル・レキシコンで「雨」と隣接している言葉をいくつか出すのが基本戦略になります。
     次の図のそれぞれの円は、雨に関係ある言葉がそれぞれに持つつながり、広がりです。これを重ねることで、すべての円が重なる中心として「雨」が浮かび上がるとことをイメージとして描いてみたものです。

    rain-circle.png



    応用例:美人を間接描写する

     この方法は(五感を使うアプローチとよりも)応用が効きます。

     たとえば「美人」を表現するのに「美しい」という言葉を使わずに表現するのに、このアプローチは使えます

     元より「美しさ」といったものは、言葉で言うのはとても難しいものです。
     形状をどれだけ細かく記述しても、形を伝えられても、美しいと思ってもらえるかは疑問です。努力を費やすべき方向は別にあります。


     もう分かりますね?
     美人がいるとして、「そこで何が起こっているか?」と自問自答して、付随する現象や出来事を集めてみるのです。


     美人の間接表現には、伝統的に2つのアプローチがあります。
     ここではそれらを〈白雪姫〉アプローチと〈かぐや姫〉アプリーチと呼んでみます。

     〈白雪姫〉アプローチとは、「美人がいるとして、そこで何が起こっているか?」という問いに「同性が嫉妬している」と答えるものです。

    白雪姫が7歳になったある日、王妃が魔法の鏡に「世界で一番美しい女は」と訊ねたところ、「それは白雪姫です」との答えが返ってくる。怒りに燃える王妃は猟師を呼び出すと、白雪姫を殺し、証拠として彼女の肺臓と肝臓(※作品によっては心臓となっている)を取って帰ってくるよう命じる。

    (引用元:白雪姫 - Wikipedia

     


     〈かぐや姫〉アプローチとは、「美人がいるとして、そこで何が起こっているか?」という問いに「異性が求愛している」と答えるものです。

    翁が見つけた子供はどんどん大きくなり、三ヶ月ほどで妙齢の娘になったので、髪を結い上げる儀式を手配し、裳を着せた。この世のものとは思えない程の美しさで、……(中略)……世間の男は、その貴賤を問わず皆どうにかしてかぐや姫と結婚したいと、噂に聞いては恋い慕い思い悩んだ。その姿を覗き見ようと竹取の翁の家の周りをうろつく公達は後を絶たず、彼らは翁の家の垣根にも門にも、家の中にいる人でさえかぐや姫を容易に見られないのに、誰も彼もが夜も寝ず、闇夜に出でて穴をえぐり、覗き込むほど夢中になっていた。

    (引用元:竹取物語 - Wikipedia



     ここまで来ると、単なる描写表現というより、人物造形のためのエピソードの構成の仕方になってきますが、言葉によって何か表現する際に「そこで何が起こっているか?」という問いかけは、様々なレベルで有効であることがわかります。
     
     〈かぐや姫〉アプローチには、求愛者である登場人物たちの行動に、読者にも同調してもらおうという狙いもあります。社会的証明というやつです(他人がどう行動しているかを見て自分がどう振る舞うべきかを決めるのは人間の仕様です)。
     読者がヒロインを魅力的であると思ってもらうために、ヒロインを魅力的だと思っている登場人物を複数を出すわけです。
     登場人物たちが〈ヒロインを魅力的だと思っている〉ことを描写するためには、さらに「そこで何が起こっているか?」と問い、〈ヒロインを魅力的だと思っている〉はずの彼らはどんな場面でどう行動するかを考えていきます。

     
    (参考記事)




       

     およそある程度以上の長さをもつ文章であるならば、次の3つの成分からできている。

    A.書きたいもの/書く動機
    B.書かなくてはならないもの(具)
    C.従うべきもの(枠や構成)


    A.書きたいもの/書く動機

     文章の核には、書き手が書きたいものや書く動機がある。

     これなしには、文章書きは途中で放棄されてしまうだろうし、そもそも書きはじめようとはしないだろう。
     それは「これ(この発見/この場面)を書きたいだ!」といった直接的なものだったり、「認められたい」や「復讐してやる」や「単位がほしい」といった間接的な何かかもしれない。
     
     実をいえば、これらの文章の核となる〈書きたいもの〉や〈書く動機〉は、最終稿に残らないことも多い。また書かれたとしても、分量的には全体のほんの一部分であることも少なくない。
     逆に言えば、文章の多くは〈書きたいもの〉以外の要素で埋められる。

     しかし分量的にわずかだとしても、核となるものは不可欠であり重要である。
     文章が成り立つのに必要な要素は、後述するように、よそから集めてくることができる。我々が使うことができる言葉は、何らかの形ですでに誰かが使ったものである(でなければ、言葉を受け取る誰かは、あなたの発した言葉を理解できないだろう)。
     しかし、あなたが文章を書く理由、書きたいという欲望は、外から調達してくる訳にはいかない。
     かき集められたよそ者が一つのまとまりをつくるのは、この核があるからである。
     

    B.書かなくてはならないもの(具)

     書きたいものを書くだけでは、文章は成り立たない。
     
     文章は成り立たせるために、書くべきものがある。論文ならデータやデータの集め方(方法)といったパートが求められるし、小説なら登場人物のイカす会話だけでなく、連中がどこで何をしながら喋っているかを説明ないし描写する必要がある。
     この書かなくてはならないものを〈具〉と呼ぼう。「餃子の具」と同じ用法だ。
     普通、文章の大部分はこの〈具〉から構成される。
     書き方を学ぶことの大半は、この〈具〉というリソースを蓄積することに費やされる。
     

    C.従うべきもの(枠や構成)

     必要なものはまだある。必要な要素がそろっていても、それが乱雑に積み上げられているだけでは文章にならない。
     逆に、それぞれの要素が、適切な分量・順序で並べられ配された場合には、文章のパワーつまり説得力や魅力は倍増する。
     文章は構成されなくてはならない。構成や構造を成り立たせる骨組みや枠のようなものも、また必要だ。



    野田のフロー(流れ)図

     ここまではおそらく誰もが知っていることだろう。
     しかし、あえて3つに分けて考えるのには理由がある。
     長めの文章を書くプロセスを整理するためだ。
     
     長めの文章を書く場合、たくさんの構成要素を取り扱うことが必要だが、人間というものはたくさんの処理を一度にやるのは苦手である。
     文章の構成要素を3つに分けて考えることで、複雑な文章執筆の作業を分割し、いくらか見通しのよいものにすることができる。
     直線的に進む訳には行かないにしろ、自分が今どの段階に取り組んでいるかが分かりやすくなれば、文章書きのストレスはいくらか軽減する。

     文章を構成する3つの成分を、どんな風に(どんな順で、どんなタイミングで)用意すればいいかという点から、文章を書くプロセスを図にしたのが次のものである。
     
    野田ダイアグラム

     
     中央を上から下へと進む文章執筆のメインの流れに対して、
     A.書きたいもの/書く動機
     B.書かなくてはならないもの(具)
     C.従うべきもの(枠や構成)
    はこんな風にからんでくる。


     実はこの図は、SFの翻訳家、作家、コレクターとして知られる野田昌宏の

    スペース・オペラの書き方―宇宙SF冒険大活劇への試み (ハヤカワ文庫JA)スペース・オペラの書き方―宇宙SF冒険大活劇への試み (ハヤカワ文庫JA)
    野田 昌宏

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    という好篇が元ネタである。

     ガチャピンのモデルともなった野田のゆるキャラ的容貌やユーモラスな語り口、それに題材のスペース・オペラに付着する荒唐無稽なイメージのせいで、楽しげだが中身薄そうだなという先入観を持っていた自分を殴りつけたくなるほどの、梅棹忠夫以来の知的生産技術の流れをエンターテイメント製作の分野に高い次元で結びつけた完成度の高いマニュアルである。
     
     元の図を示そう。
     
     noda_flow.jpg

     
     比較すれば分かるように、先に示した図は、野田の「スペースオペラのストーリーを作る作業の流れ」から、スペースオペラ特有の要素を抜いて簡約化したものである。
     簡約化することでこのダイアグラムは汎用となる。つまり、文章の種類に合わせて、文章を構成する3つの要素(リソース)を用意すれば、そのまま適用できるものとなる。
     
     たとえば論文を書く場合なら(簡単に書けば)、
     A.書きたいもの/書く動機 → あなたの研究(その発見、成果)
     B.書かなくてはならないもの(具) → データ、データ採集の方法、先行研究など
     C.従うべきもの(枠や構成) →IMRAD(Introduction, Methods, Results And Discussion)
    となる。



    書くためにいかに読むか-3つの読み方

     簡約化された野田のフロー図は、文章の種類/ジャンルに合わせて文章を構成する3つの要素(リソース)を用意すれば、様々なものに使える。
     
     では、書きたい文章に合わせるために、
     A.書きたいもの/書く動機
     B.書かなくてはならないもの(具)
     C.従うべきもの(枠や構成)
    のそれぞれについて、どのように用意すれば/仕込めばよいか?

     まずは読書に限って、野田の読書に関する指摘をヒントに考えてみよう。
     おそらく野田は、1つの文章(作品)を生み出すことにとどまらず、生み出せる人間になるための中長期的な修行トレーニングを踏まえて、以下のような3つの読書を想定している(仰々しいネーミングはこのブログ用に勝手に考えたもので、野田の流儀ではない)。
      
     a.コモンセンスを獲得する全方位読書
     b.コモンファクターを抽出する特定分野読書
     c.ストラクチャーを解析する一作限定読書

     そしてこれら3種類の読書は、文章を構成する先の3つの要素に、それぞれ対応づけることができる。
     
      
    a.コモンセンスを獲得する全方位読書〜A.書きたいもの/書く動機

     すでに書きたいもの/書くべきものが決まっている場合には、b.の分野特定的な読書へ進むことができるが、まずその手前の段階を考えよう。
     何が書きたいのか、自分でもまだ分からないような段階だ。

     このような場合、ひとかけらの思いつきが、様々なものを結びつけ、大きな結晶に育っていくことがある。この、ひとかけらの思いつきをとりあえずアイデアと呼ぼう。
     アイデアはどこから来るか分からない。だからアイデアを仕込むための読書は全方位的になる。
     
     また常識を超えるためには常識を知ることが必要だ。
     無勝手流の独創性は、大抵は、とっくの昔にやり尽くされたものの二番煎じにおわる。
     常識を得るための読書は広い範囲に渡る。

     大まかには「手当たり次第いろいろ読め」といった指針ぐらいしかないが、それでもいくらか具体的なことを考えるなら、次のような行動方針が出てくる。
    ・自分がいつもは逍遥(うろうろ)しない領域・分野をあえて訪ねてみる
    ・読むものの選択にランダムネスを取り入れる(図書館の返却書棚から選ぶ/ランダムに辞書のページを選び芋づる式に調べる、等)
    ・精神に逆目を立ててくれるような、苦手な分野、嫌いな作家の本を手に取る

     とくに好きでもない書物、どうしても好きになれない作品は、あなたが何を書きたいのかを教えてくれる可能性が高い。
     「いやいやいや、そうじゃないだろ!」と思わず叫んだ箇所、どうしても納得できない部分に突き当たったなら、それこそがあなたが書きたいと思う何かであり、少なくともその方向を示す断片である。
     自分を広げる読書の中で、とくに自分が「否」と叫びたくなるものを読む中で、自分が本当は何を書きたいのかを発見する。


    b.コモンファクターを抽出する特定分野読書〜書かなくてはならないもの(具)
     
     書くために読む次のフェイズは、自分が書こうとしているジャンルや自分が書こうとするものの手本となる文章たちを読む中に開かれる。
     導きの問いは次のものである。
     「これらの文章に共通しているものは何か?」
     そうして発見された共通点は、あなたが書こうとする文章が備えているべきもののはずである。
     
     目に付きやすい形式的な要素(たとえば、およそ論文であれば、Introductionを Methodsを Resultsを Discussionを備えている)からさらに踏み込んで、
    「どうして私はこれらの作品をこんなにおもしろく感じるのか/感動させるのか」
    「これらの文章のどこが素晴らしいのか?それはどこから来ているのか?」
    と問うこともできる。 
     こうした問いの答えを探す中で、人は何を書くべきかを知る。
     


    c.ストラクチャーを解析する一作限定読書〜従うべきもの(枠や構成)

     我々は前項で、どんな要素を盛り込めばよいかを探った。
     次は、それら要素をどのように並べればよいかを、読む中に探していく。

     野田はさらに、これといった一作を徹底的に解析することを勧めている。
     つまり特定の文章(ひとつの論文や著作、一つの作品)をリバースエンジニアリングすることで「どんな構成になっているのか」等の問いの答えが得ていくのである。
     こうしてC.従うべきもの(枠や構成)についての知識が得られる。
     新しい文章を書くたびに必要な作業ではないが、〈書ける人〉になるためのトレーニングとして有用である。新しいジャンルの文章に手を出す場合になど役立つ。
     
     
     このためのツールとして、野田は、作品全体のプロットを一望できるフォーマットを自作している。
     A4大の5mm方眼紙を3枚縦につないだもので、A4版は幅210ミリ、高さ297ミリあるから、3枚分をつなげるとおよそ87センチ。方眼の2マス分の高さを5ページ分に対応させると87cm×5ページ=435ページ分となり、長編小説1冊分のプロットを一望できることになる。

     これも野田の本から作例を示しておこう。下記の図は、
     
    さすらいのスターウルフ (ハヤカワ文庫 SF 1 スターウルフ・シリーズ 1)さすらいのスターウルフ (ハヤカワ文庫 SF 1 スターウルフ・シリーズ 1)
    エドモンド・ハミルトン,野田 昌宏

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    のプロットを抽出したもの。

    noda_plot1.jpg
    noda_plot2.jpg
    (クリックで拡大)

     
     
     基本のフォーマットは、左端に〈ページ〉〈章タイトル/見出し〉の欄をつくり、文章(作品)の全体が収まるよう、方眼の高さを何ページ分を割り当てるか決める。
     長編小説ならば、〈場所〉の欄を加えて、残りのスペースを使って出来事=「誰が何をする」を書いていけばよいだろう。
     
     このフォーマットは、野田によって「右往左往シート」と名づけられており、構成・プロットを(右往左往しながら)考え出すために作られたものである。
     既存の文章(作品)から構成やプロットを抽出することに用いるのは、むしろ転用なのだが、同じフォーマットを使うことで解析の経験が創作に直結する。
     
     文章(作品)全体を一望できることは極めて重要である。
     人間のワーキングメモリは存外に小さい。あることを頭に置きながら別のことを注意を払うことは思った以上に難しい。
     別ページに書かれた項目を頭に置く必要があれば、その分自由に使える記憶領域や注意力が減ってしまう。
     特に構成がまだ形をとっていない状態では、些細なことが事の成否を左右する。
     できるだけ頭に何も置かないために、ページめくりを要しないで文章(作品)全体をながめることができる外部記憶装置が必要である。
     


    3つのリソース領域に対応させたツール群

     簡約化された野田のフロー図は汎用であり、あらゆる文章の執筆に適用できる。
     知的生産は、執筆というアウトプットを目標とするから、野田のフロー図は知的生産のプロセスを簡単に示したものとも言える。
     
     野田のフロー図が示す3つのリソース領域、
     A.書きたいもの/書く動機
     B.書かなくてはならないもの(具)
     C.従うべきもの(枠や構成)
    のそれぞれについて、このブログで紹介してきた主だったツールを以下のように分類することができる。

     自分が「A.書きたいもの/書く動機」を見つける段階でとまっているならば、このリソース領域に対応したツールを使ってみるといい。
     また「B.書かなくてはならないもの(具)」について不足を感じるならば、このリソース領域に対応したツールを検討する。
     「C.従うべきもの(枠や構成)」については、論文や物語については分析した結果をフォーマットにしたものをいくつか提供している。


    A.書きたいもの/書く動機に関わるツール

     書きたいもの/書く動機を探す段階での探索は、全方位的で手当たり次第なものになる。

    「手当たり次第」をサポートするものに、ランダムネスを取り入れたツールがある。
    このブログで紹介したものについては、物書きが悪魔と契約する前に試すべき7つの魔道具 読書猿Classic: between / beyond readers 物書きが悪魔と契約する前に試すべき7つの魔道具 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加で紹介した
    ルルスのアルス・マキナやCrovitzの関係アルゴリズム、グレマスの行為者モデル(民話に共通する構造を取りだしたもの)にタロットカードを適用する
    starwars_tarot.jpg
    http://www12.atpages.jp/storytools/tarrot_no.php


    や、ラファエロの『アテネの学堂』をぶちこんだ
    ScuolaDiAtene.jpg
    http://www12.atpages.jp/storytools/Scuola_di_Atene.php


    は、いずれもリロードすれば違った組合せを示してくれる。



    他にはアイデアが降りてこないあなたを神様に助けさせる7つの道具 読書猿Classic: between / beyond readers アイデアが降りてこないあなたを神様に助けさせる7つの道具 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加で紹介した、音楽家ブライアン・イーノと画家ペーター・シュミットが開発した創造性デッキOblique Strategiesや、筆が進まなくなった物書きのためのカード・デッキThe Observation Deck

    The Observation Deck: A Tool Kit for Writers (Past & Present)The Observation Deck: A Tool Kit for Writers (Past & Present)
    Naomi Epel

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    いきなり結果を出す→今日書き終えるためのショートショートの書き方マニュアル 読書猿Classic: between / beyond readers いきなり結果を出す→今日書き終えるためのショートショートの書き方マニュアル 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加で紹介したExcelをつかった、タイトルを修飾語と名詞に分けてシャッフル/総当り組合せ法も、ここに該当する。

     またウィキペディアのおまかせ表示も意外に役立つ。
     しかし、このリソースは日頃の積み上げがものをいう。
     食わず嫌いの人へ→頭が冴え物知りになる事典の4つの習慣 読書猿Classic: between / beyond readers 食わず嫌いの人へ→頭が冴え物知りになる事典の4つの習慣 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加で紹介した、事典で引いた事項をジャーナル(日誌)として残す〈今日の百科事典〉も併用するといい。

     全方位的で手当たり次第の彷徨(うろうろ)の中で出会った/閃いたカケラを展開し、それが持つ可能性を拾い上げるのには、手塚治虫がやってたプロットの筋トレ 読書猿Classic: between / beyond readers 手塚治虫がやってたプロットの筋トレ 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加などで紹介した

    4hasei.png

    〈拡張テヅカチャート〉が役立つ。
     


    B.書かなくてはならないもの(具)に関わるツール

     書きたい方向やテーマやジャンルが決まれば、関連ある文献を集めるのにレファレンスワークに関連するツールが使える。

    ビギナーのための図書館で調べものチートシート 読書猿Classic: between / beyond readers ビギナーのための図書館で調べものチートシート 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    ビギナーのための図書館サバイバル・ガイド、他ではあまり書いてないけど大切なこと 読書猿Classic: between / beyond readers ビギナーのための図書館サバイバル・ガイド、他ではあまり書いてないけど大切なこと 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    すべての学問分野をネットで無料で探すための210個のリソースまとめ すべての学問分野をネットで無料で探すための210個のリソースまとめー新入生におくる探し方その2 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    web上のレファレンスツールを1枚にまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers web上のレファレンスツールを1枚にまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる 読書猿Classic: between / beyond readers 自宅でできるやり方で論文をさがす・あつめる・手に入れる 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    などが役に立つだろう。

    そして、これら文献検索のプロセスと成果を統合するものとして、次のツールが資料集め・資料同士の比較・資料貫通的読書などに使える

    集めた文献をどう整理すべきか?→知のフロント(前線)を浮かび上がらせるレビュー・マトリクスという方法 読書猿Classic: between / beyond readers 集めた文献をどう整理すべきか?→知のフロント(前線)を浮かび上がらせるレビュー・マトリクスという方法 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    複数の文献を一望化し横断的読みを実装するコンテンツ・マトリクスという方法 読書猿Classic: between / beyond readers 複数の文献を一望化し横断的読みを実装するコンテンツ・マトリクスという方法 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


    (物語)
     
     物語づくりに必要な〈具〉、プロットや登場人物、舞台設定などを埋めるために次の記事で紹介したツールがつかえるだろう。

    物書きがネットを使い倒すための7つの検索 読書猿Classic: between / beyond readers 物書きがネットを使い倒すための7つの検索 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    生まれてはじめて書く人のための、小学生向け小説執筆マニュアル(手順書) 読書猿Classic: between / beyond readers 生まれてはじめて書く人のための、小学生向け小説執筆マニュアル(手順書) 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    物語作者がチラシの裏に書くべき7つの表/もうキャラクター設定表はいらない 読書猿Classic: between / beyond readers 物語作者がチラシの裏に書くべき7つの表/もうキャラクター設定表はいらない 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加



    (論文)

      論文やレポートについては、次の記事のツール(穴埋め表)が、必要な〈具〉を揃える/足りないところを明らかにするのに役立つ。

    論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート 読書猿Classic: between / beyond readers 論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    論文は何からできているのか?それは何故か?から論文の書き方を説明する 読書猿Classic: between / beyond readers 論文は何からできているのか?それは何故か?から論文の書き方を説明する 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    何から手をつけていいか分からない人のためのレポート作成の穴埋め表:深く再利用できる読みのために 読書猿Classic: between / beyond readers 何から手をつけていいか分からない人のためのレポート作成の穴埋め表:深く再利用できる読みのために 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    文章の型稽古→穴埋めすれば誰でも書ける魔法の文章テンプレート 読書猿Classic: between / beyond readers 文章の型稽古→穴埋めすれば誰でも書ける魔法の文章テンプレート 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

     また次の記事に決まり手的な〈具〉のリストがある。

    卒論に今から使える論文表現例文集(日本語版) 読書猿Classic: between / beyond readers 卒論に今から使える論文表現例文集(日本語版) 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    論文はどんな日本語で書かれているか?アタマとシッポでおさえる論文らしい文の書き方 読書猿Classic: between / beyond readers 論文はどんな日本語で書かれているか?アタマとシッポでおさえる論文らしい文の書き方 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    こう言い換えろ→論文に死んでも書いてはいけない言葉30 読書猿Classic: between / beyond readers こう言い換えろ→論文に死んでも書いてはいけない言葉30 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加







    C.従うべきもの(枠や構成)に関わるフォーマット

     文章の構成要素の並べ方に関する記事には次のものがある。

    (物語)

    ・・これはストーリーをつくるのが苦手な人のために書いた文章です 読書猿Classic: between / beyond readers これはストーリーをつくるのが苦手な人のために書いた文章です 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加



    (論文)

     論文をリバース・エンジニアリングして構造を抽出することについては次の記事が参考になるだろう。

    100冊読む時間があったら論文を100本「解剖」した方が良い 読書猿Classic: between / beyond readers 100冊読む時間があったら論文を100本「解剖」した方が良い 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加





     

     先日の記事、文学新人賞の偏差値=この賞をとったらどれだけ本を出せるかをランキングしてみた 読書猿Classic: between / beyond readers 文学新人賞の偏差値=この賞をとったらどれだけ本を出せるかをランキングしてみた 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加 を読んで意気消沈した人がいるというので、物書きを励ますために編まれた(と書いてあるので信じるしかない)次の本を紹介しよう。



    まことに残念ですが…―不朽の名作への「不採用通知」160選 (徳間文庫)まことに残念ですが…―不朽の名作への「不採用通知」160選 (徳間文庫)
    アンドレ バーナード,木原 武一,Andr´e Bernard,中原 裕子

    徳間書店
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    まことに残念ですが…―不朽の名作への「不採用通知」160選まことに残念ですが…―不朽の名作への「不採用通知」160選
    アンドレ バーナード,Andre Bernard,中原 裕子

    徳間書店
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     タイトルからも分かるとおり、現在では傑作・名作として知られる作品たちも不採用(ボツ)をくらったことがあり、時にはていねいで慇懃な、時には不躾けで直情的な、不採用の手紙を作家は受け取ったのである※。
     
    たとえばウィリアム・サロイヤンは多産な作家だが、多産ゆえに受け取った不採用通知も多く、積み上げておいたら1mくらいになった。7000通ほどあったらしい。
     ジェイムズ・ジョイスは経済的成功という点から見れば呪われていたとしか言えない作家だが(付け加えると物心両方の援助を惜しまない友人には恵まれていた)、22回ボツをくらった後に『ダブリン市民』がようやく出版されると、とある市民がそのすべてを買占め私的に焚書されてしまった。『ユリシーズ』以降、その作業は一個人の手に余ることとなり、政府当局(直接的には税関)が受け持つこととなった。

     
     この書はそんな作品の不採用通知ばかりを集めた“Rotten Rejections”という本の翻訳。これに序文を寄せているBill Hendersonは名作への酷評ばかりを集めた“Rotten Reviews”という本を書いているが、両方を抱き合わせた次の本が便利である。


    Pushcart's Complete Rotten Reviews & RejectionsPushcart's Complete Rotten Reviews & Rejections
    Bill Henderson,Andre Bernard

    Pushcart Pr
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     さて、160の不採用通知から導き出せる普遍的命題ないし教訓は「編集者には見る目がない」や「傑作は認められない」や「認められないことが、すなわち私の書いたこの作品が傑作であることを証明している」や「抑圧されたサディストが警官となるように、人生に対してわけのわからぬ恐怖心を抱いている者が編集者になるのだ」(シリル・コノリー)等ではない。

     むしろ(ボツにされようと、犯罪者にされようと、アメリカ全土に詩人が溢れようと)「にもかかわらず作家は書き続けた」ということである(サロイヤンは7000の作品を書いたわけではないが少なくとも7000回は宛名を書いたはずである)。
     
     以下では、比較的知られた作家・作品に対して送られた不採用理由のいくつかを紹介する。
     普通、書物のリストを掲げるときには誉め言葉を添えることが多いので、なんだかわくわくした。
     なお、ジョン・マスターズとサラ・ハートについては寡聞にしてよく知らないのだが、断りの言葉が素敵だったので(汎用性にも富むように思われたので)紹介したくなった。
     



    “まことに残念ですが、アメリカの読者は中国のことなど一切興味がありません。”

    大地 (1) (新潮文庫)大地 (1) (新潮文庫)
    パール・バック,新居 格

    新潮社
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    パール・S・バック(1892~1973)。 アメリカの女性作家。生後3ヶ月で両親と共に中国に渡り、英語と中国語の両言語を話すバイリンガルとして育った。高等教育を受けるため一時期帰国、そののち長く中国にとどまり、小説を書き始めた。中国における東西両文明の確執を描く『東の風・西の風』(1930)を処女作に、続く代表作『大地』(1931)はピュリッツァー賞を受け、アメリカ文学史上まれなベストセラーとなり、さらに1938年にはノーベル文学賞を受賞した。




    “アメリカ合衆国では動物の話は売れません。”

    動物農場 (角川文庫)動物農場 (角川文庫)
    ジョージ・オーウェル,George Orwell,高畠 文夫

    角川書店
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    ジョージ・オーウェル(1903~1950)。イギリスの作家。スターリン治下のソ連を諷刺した「動物農園」は第二次大戦直後に出版され英米でベストセラーになった。




    “アメリカ人読者の興味をそそるところはどこにもない。これはメキシコ人向けに書かれた本である。”

    孤独の迷宮―メキシコの文化と歴史 (叢書・ウニベルシタス)孤独の迷宮―メキシコの文化と歴史 (叢書・ウニベルシタス)
    オクタビオ・パス,高山 智博,熊谷 明子

    法政大学出版局
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    オクタビオ・パス(1914~1998)。メキシコの詩人・批評家。1946年に外交官になり、ヨーロッパ各国を転々としながら『弓と竪琴』『孤独の迷宮』などを執筆する。ノーベル文学賞(1990)。



    “遺憾ながら、イギリスの児童文学市場にまったくふさわしくないという理由で、この本の出版を見合わせることに全会一致で決定いたしました。”

    白鯨 上 (岩波文庫)白鯨 上 (岩波文庫)
    ハーマン・メルヴィル,八木 敏雄

    岩波書店
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    ハーマン・メルヴィル(1819~1891)。アメリカの小説家。存命中、作品はまともな評価はされず、税関で働き生活を支えた。『白鯨』は、随所に鯨の博物学や捕鯨業の博大な知識を挿入し、作者の捕鯨船員としての経験をもとにした自伝的な要素を含みながら、善と悪、神と人間の対立の壮大なドラマを展開、精神の深淵を映し出したきわめて象徴的な作品である。



    “書き出しの行に“r”が多過ぎる。”

    -----エズラ・パウンド『ある女性の肖像Portrait d'une Femme』

    エズラ・パウンド(1885~1972)。アメリカの詩人・批評家。1908年以来ロンドン、パリ、イタリアで典型的な国籍離脱者として生活しながら、イマジズム運動その他の新詩運動の中心となり、ジョイス、T.S.エリオット、ヘミングウェーらに大きな影響を与えた。




    “なにやら木がいっぱい出てくる話だった。”

    マクリーンの川 (集英社文庫)マクリーンの川 (集英社文庫)
    ノーマン・マクリーン,渡辺 利雄

    集英社
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    ノーマン・マクリーン(1902~1990)。アメリカの作家。シカゴ大学英文学教授を長年勤め定年後の74歳で、若くして死んでしまった弟の想い出をもとに自伝的処女作『マクリーンの川』を執筆。20世紀アメリカ文学の古典と賞賛され、ロングセラーとなった。




    “カレーを食べすぎた元大佐のつづったインドの思い出など、掃いて捨てるほどある。”

    -----ジョン・マスターズ『残忍かつ放蕩(Brutal and Licentious)』

    ジョン・マスターズ(1941〜)。イギリスの小説家。元インド陸軍将校。インド独立後アメリカに渡り、イギリスとインドの関係を扱った時代冒険小説シリーズを発表。




    “詩は間に合っております。ホーボーケンのノートドイチャー・ロイド埠頭に200〜300梱もの詩が保管してあるのです。アメリカには30万人の詩人がいます。”

    -----サラ・ハート『詩 Poem』

    サラ・ハート(1898〜1935)。アメリカの作家。アラバマ州モントゴメリー出身。この詩集は結局出版されなかった模様。




    “ヴァージニアの傭兵がこともあろうに火星に送られるなどという話が、わが社に利益をもたらすとは絶対に考えられません。”

    【新版】火星のプリンセス (創元SF文庫)【新版】火星のプリンセス (創元SF文庫)
    エドガー・ライス・バローズ,厚木 淳

    東京創元社
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    アメリカの作家。『火星のプリンセス』に始まる「火星シリーズ」でスペース・オペラの第一人者となるほか、『猿人ターザン』以下の一連のターザン物でも世界的に人気を集めた。




    “あえて翻訳出版してまで、注目を浴びようと吠えたてる多くの犬の本と競争させるだけの価値はない。”


    人イヌにあう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)人イヌにあう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
    コンラート ローレンツ,Konrad Zacharias Lorenz,小原 秀雄

    早川書房
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    コンラート・ローレンツ(1903~1989)。オーストリアの動物学者。動物行動学を確立により1973年にノーベル生理学医学賞をティンバーゲン、フリッシュと共に受賞。エッセイ集「ソロモンの指輪」「人イヌにあう」は世界的に広く読まれている。




    “このような本に商業的可能性があるとは思えず、したがってご希望にそうことはできません。”

    ピーターの法則 創造的無能のすすめピーターの法則 創造的無能のすすめ
    ローレンス・J・ピーター,レイモンド・ハル,渡辺 伸也

    ダイヤモンド社
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    ローレンス・J・ピーター(1919~1990)。アメリカの教育学者。レイモンド・ハルとの共著『ピーターの法則』で組織のメンバーは能力を超えたレベルまで出世するため、上司は一般的に無能者が占めるという法則を提唱した。




    “じつにお粗末!”

    戦場にかける橋 (ハヤカワ文庫 NV フ 15-1)戦場にかける橋 (ハヤカワ文庫 NV フ 15-1)
    ピエール・ブール,関口 英男

    早川書房
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    ピエール・ブール(1912~1994)。フランスの小説家。第二次大戦中のインドシナで日本軍に捕らわれ、投獄された経験を基に書いた『戦場にかける橋』や『猿の惑星』で知られる。『戦場にかける橋』、『猿の惑星』は共に映画化され、ヒットした。




    “この小説は出版業界を25年退歩させるものです。”

    鹿の園 (新潮文庫)鹿の園 (新潮文庫)
    ノーマン・メイラー,Norman Mailer,山西 英一

    新潮社
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    ノーマン・メイラー(1923~2007)。アメリカの作家。第2次世界大戦中は太平洋で従軍。第1作目の小説「裸者と死者」(1948)はベストセラーとなり、この世代の代表的な小説家としての地位を確立した。




    “支離滅裂で、視点も興味をそそるものではない。”

    若い芸術家の肖像 (岩波文庫)若い芸術家の肖像 (岩波文庫)
    ジョイス,James Joyce,大澤 正佳

    岩波書店
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    ジェイムズ・ジョイス(1882~1941)。アイルランドの作家。初期作品のひとつ『若き芸術家の肖像』では、内的独白の使用や登場人物の外的環境よりも精神的現実への言及の優先といった、後の作品に多く見られる手法の萌芽が見られる。ジョイス自身をモデルとした主人公ディーダラスは、代表作『ユリシーズ』の主人公の一人でもある。




    “この少女は、作品を単なる“好奇心”以上のレベルに高めるための、特別な観察力や感受性に欠けているように思われます。”

    アンネの日記 (文春文庫)アンネの日記 (文春文庫)
    アンネ フランク,Anne Frank,深町 真理子

    文藝春秋
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    アンネ・フランク(1929~1945)。ユダヤ系ドイツ人実業家オットーの次女。アウシュウィッツ強制収容所で15年の生涯を閉じた。ナチス・ドイツ占領下のアムステルダムの隠れ家で綴った日記が発見され父親により刊行され、1952年英語版が刊行されると世界的反響を呼び起こし、各国語に翻訳された。




    “一般読者には面白くなく、科学的知識のある者には物足りない。”

    タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫)タイム・マシン 他九篇 (岩波文庫)
    H.G. ウエルズ,橋本 槇矩

    岩波書店
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    H.G.ウェルズ(1866~1946)。イギリスの作家・評論家。時間旅行を行う乗り物を導入した小説『タイム・マシン』で文壇に登場。科学小説の他に文明批評や歴史的著述を著し百科全書的ジャーナリストとして活躍、20世紀初頭の思想界に大きな影響を与えた。




    “連載するには短すぎ、読み切りとしては長すぎる。”

    緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)
    アーサー・コナン・ドイル,日暮 雅通

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    アーサー・コナン・ドイル。(1859~1930)。イギリスの小説家。『緋色の研究』は世界で最も知られた私立探偵シャーロック=ホームズが始めて登場した小説である。




    “人が筏で漂流するテーマには魅力があるが、全般的に、長く重く単調で退屈な太平洋航海記である。”

    コン・ティキ号探検記 (河出文庫)コン・ティキ号探検記 (河出文庫)
    トール・ヘイエルダール,水口 志計夫

    河出書房新社
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    トール・ヘイエルダール(1914~2002。)ノルウェーの人類学者、海洋生物学者、探検家。ポリネシア人が南アメリカから移住したとする仮説を実証するために古代インカの技法でつくった筏船のコンティキ号でペルーのカヤオ港から南太平洋のツアモツ島まで4,300マイル(8千km弱)の航海を行った。その記録『コンティキ号探検』は世界的ベストセラーとなり,彼の知名度を高めた。




    話の結論がまとまっていないようだ----主人公の出世も人格も、結末を迎えるべき段階に達していない。要するに、物語が完結しているとは思えない。”

    -----F.スコット・フィッツジェラルド『楽園のこちら側』(高村勝治 訳 荒地出版社 , 1957.6)

    F・スコット・フィッツジェラルド (1896~1940)。アメリカの小説家。処女作『楽園のこちら側』は、若い読者層に迎えられベストセラーとなった。フィッツジェラルドはこれにより一躍人気作家となり「アメリカ青年の王者」とまでよばれた。




    “もしこの本に筋や構成というものがあれば、削除や修正を提案できるのだが、あまりにも散漫なために手のつけようがない。却下理由の第一は、著者が語るべきストーリーを持っていないことである。”

    サートリスサートリス
    ウィリアム・フォークナー,林 信行

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    ウィリアム・フォークナー(1897~1962)。 アメリカの小説家。フォークナーの作品のほとんどが架空の土地ヨクナパトーファ郡ジェファソンを舞台とし、これら一連の作品は「ヨクナパトーファ・サーガ」と呼ばれるが、『サートリス』はその最初の作品である。




    かようにうっとうしい話は読んだ覚えがない。気取った文体の泥沼をさまよっているだけで、どこへもたどりつかず、これといった物語もなく、倦怠以外のなんの感情もわいてこない。間接的に遠回しな言葉遣いを文学的技巧と取り違える評論家連中なら、これを秀逸な作品と呼ぶかもしれないが、血管に少しでも血の通っている人間なら、あくびをして、投げ出すであろう----万が一これを手にしたとしても。”

    -----ヘンリー・ジェイムズ『檻の中』

    ヘンリー・ジェイムズ作品集 (2)  ポイントンの蒐集品  メイジーの知ったこと  檻の中ヘンリー・ジェイムズ作品集 (2) ポイントンの蒐集品 メイジーの知ったこと 檻の中
    ヘンリー・ジェイムズ

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    ヘンリー・ジェイムズ(1843~1916)。アメリカ生まれイギリスで活躍した作家。英米心理主義小説の先駆者として知られる。ヨーロッパ的な視点とアメリカ人としての視点を持ち合わせ、国際的な観点から優れた英語文学を多く残した19世紀から20世紀の英米文学を代表する小説家である。




    “どちらも読めなかった----私の目がページにとどまって、その意味(このような場合、意味とはいわず、べつの言葉を用いるべきなのか)を理解することを頑として拒否したのだ。……まったくもって理解できず、おかしくもない。わたしが思うに、こうした小説の本当の欠点は(もし真剣に読む気になったとしてだが)ただただその退屈さにある。

    モロイモロイ
    サミュエル ベケット,Samuel Beckett,安堂 信也

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    マロウンは死ぬマロウンは死ぬ
    サミュエル ベケット,Samuel Beckett,高橋 康也

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    サミュエル・ベケット(1906~1989)。アイルランド生れのフランスの劇作家・小説家。不条理演劇を代表する作家の一人であり、小説においても20世紀の重要作家の一人とされる。戯曲「ゴドーを待ちながら」「しあわせな日々」、長編小説に三部作「モロイ」「マウロンは死ぬ」「名づけえぬもの」など。1969年ノーベル賞文学賞。




    “腐ったニンジンのようなにおいがする。”

    ピーターラビットのおはなし (ピーターラビットの絵本 1)ピーターラビットのおはなし (ピーターラビットの絵本 1)
    ビアトリクス・ポター,Beatrix Potter,いしい ももこ

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    ビアトリクス・ポター(1866~1943)。イギリスの絵本作家。ピーターラビットのおはなし』にはじまるピーターラビットシリーズの発行部数は全世界で1億5000万部を超える。




    “貴殿はご自身の小説を、秀逸とはいえ、はなはだ余分な枝葉末節で埋めてしまわれた。”

    ボヴァリー夫人 (新潮文庫)ボヴァリー夫人 (新潮文庫)
    フローベール,生島 遼一

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    ギュスターヴ・フローベール (1821~1880)。フランスの小説家。精緻な客観描写や自由間接話法を多用した細かな心理描写によって描き出した処女作『ボヴァリー婦人』は写実主義文学の礎となり、現代文学への画期となった。




    “ねえ、きみ、わしは首から上が死んじまってるかもしれんが、いくらない知恵を絞ってみても、ある男が眠りにつく前にいかにして寝返りを打ったかを描くのになぜ30頁も必要なのかさっぱりわからんよ。”

    失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」 (光文社古典新訳文庫)失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」 (光文社古典新訳文庫)
    マルセル プルースト,Marcel Proust,高遠 弘美

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    マルセル・プルースト(1871~1922)。フランスの小説家。30代から死の直前まで大作『失われた時を求めて』を書き続けた。その複雑かつ重層的な叙述と物語構成はその後の文学の流れに決定的な影響を与え、この作品によってプルーストは、ジョイス、カフカとともに20世紀を代表する作家として位置づけられている。




    “書き出しはおもしろかった。これは第二の『ロリータ』だぞ、とわたしはがぜん興味をそそられた。この複雑な文体は、われわれが考えていた以上にナボコフの影響力が大きいことを示しているじゃないか、と。悲しいかな、書き出しは完全に誤解を招くものであり、そのあとに続くのは、ウィットに富む、というよりむしろいかがわしい下品なサイエンス・フィクションだった。”

    やぎ少年ジャイルズ (1)やぎ少年ジャイルズ (1)
    ジョン・バース,渋谷 雄三郎,上村 宗平

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    ジョン・バース(1930~)。アメリカの小説家。入念なパロディー,緻密なプロットなどきわめて意識的な手法を用いる実験的な作品を発表。『やぎ少年ジャイルズ』は、『酔いどれ草の仲買人』とともに代表作の一つ。




    “精神科医に話すべきことがらを(実際そうしているかもしれないが)綿密な小説に仕立てあげたもので、素晴らしく筆の冴えたところも幾らかはあるが、進歩的なフロイト派を自負するわたしでさえ圧倒的な不快感に襲われた。一般読者は吐き気をもよおすに違いない。売れる見込みもなく、高まりつつある名声に計りしれない害を及ぼすだけだろう。 総じて不道徳きわまりない話である。忌まわしき現実と、とんでもない空想が曖昧に交錯する。しばしば狂った神経症的白昼夢となり、とりわけ追跡の部分で、話の筋まで混乱する。結末はぞっとするような自己破壊。わたしがもっとも当惑するのは、作者がこれを発表したがっているという事実である。この本をいま出版するいかなる根拠も思い浮かばない。わたしはこれを千年間、石の下に埋めておくことを勧告する。

    ロリータ (新潮文庫)ロリータ (新潮文庫)
    ウラジーミル ナボコフ,若島 正

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    ウラジーミル・ナボコフ(1899~1977)。ロシア生れのヨーロッパとアメリカで活動した作家。1945年アメリカに帰化。コーネル大学等でロシア文学・ヨーロッパ文学を講ずるかたわら、英語で創作活動を続ける。1955年に小説『ロリータ』の出版により国際的に著名な作家となり、59年スイスのモントルーに移住し、生涯執筆活動に専念した。