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     今日は縮刷版として再登場したこの書物について書く。


    縮刷版 社会学文献事典縮刷版 社会学文献事典
    見田 宗介,上野 千鶴子,内田 隆三,佐藤 健二,吉見 俊哉,大澤 真幸

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    理由1 社会学系ブックガイドの決定版である
     
     社会学および社会学へ影響を与えた周辺領域(哲学、歴史学、言語学、教育学、心理学、文芸批評等)の基本書をカバーした事典である。

     用語や概念についての辞典はいくつもあるが、この分野の文献に焦点を合わせた事典には類書がない。
     いや、正確に言えば、1998年に出たこの『社会学文献事典』の成功によって、同じ弘文堂から『精神医学文献事典』(2003)、『日本史文献事典』(2003)、『文化人類学文献事典』(2004)、『宗教学文献事典』(2007)という弟書たちが誕生した。

     ブックガイドといえば、紙面の制約からせいぜい2〜3百字程度の紹介文のものが多い。あまり少ない字数だと紹介よりも惹句(おすすめ)にしかならず、その内容を伝えて読み手に判断させるところまで到達しないが、この本は違う。
     事典という性質を活かして、1冊にまとめたものとしては、紹介冊数と紹介文量を充実させ、どちらも疎かにしないぎりぎりのところでバランスを取っている。

     加えて以下のような長所からこれを上回るものは当分出ないと思われる、人文・社会系では最強のブックガイドである。



    理由2 1冊で千冊の内容を知ることができる

     1000冊の内訳は、社会学の画期となった主要な古典100冊、プラス重要文献900冊。
     主要な古典100冊については見開き2ページ(2段組)=3,200文字、重要文献は1/2ページ=800文字をつかって、理論構成と要約、加えて影響や現代的意義などを紹介+解題する。

     選書も、主要文献100冊の目次をそのまま読むべき古典リストとして使えるほどのこの分野の骨格を形成する大定番のラインナップ。
     重要文献900冊の方も王道路線。これが150冊くらいだと独断と偏見がきつく出るが、これくらいあるとそうした弊害はかなり緩和される。むしろ、手薄の分野に自分の関心と接する未知だったり未見だったりする文献が見つかるぐらいの規模となっている。


    (この手の本が嫌いな人へ)
     自分のような生来の横着者ですら、10代の頃にはこの手の概要紹介本を「なんかズルい」と思って敬遠していた。
     今は使えるものはどんどん使えばいい、と考えている。
     概要を読む事は、その書物を読むことの代わりにはならない。
     しかし、その書物と出会う機会にはなる。
     そしてよい解題は、読書の際の〈手すり〉になる。読む足取りがおぼつかなくても先に進む助けになる。
     読むこと、そして理解することはあなたにしかできないが、そのための助けを得ることは恥ずべきでない。むしろ忌避することは読書回避の言い訳とみなしてもいいくらいだ。

     世の中には、予断を抱かず古典にぶち当たれ、という人がいる。
     しかし人は誰しも何事かを知っている。我々は白紙ではない。予断を抱かずにはおれないのだ。
     ならば、予断を都合の良いようにデザインすべきである。
     概要を知ることは、思った以上の効果がある。
     そもそも前提や文脈(コンテクスト)が分からないと文章は分かるものではない。
     難しい本をすらすら読んでいる(かに見える)人は、それまでに読んだ(たくさんの)本の知識を駆使して読んでいるのである。

    (参考記事)




    理由3 著者自身・訳者自身が解題を担当
     
     中には著者や訳者が亡くなっていたり、他の理由で別の人が担当しているものもあるが、基本的には紹介する書物が邦書なら書いた著者本人、翻訳書なら訳した訳者本人が解題を担当していて、考えられる限り最高に贅沢な執筆陣である。
     例を挙げると、土居健郎『甘えの構造』を土居健郎が、加藤周一『雑種文化』を加藤周一が、宇沢弘文『自動車の社会的費用』を宇沢弘文が、宇井純『公害原論』を宇井純が、木村敏『自覚の精神病理』を木村敏が、河合隼雄『昔話と日本人の心』を河合隼雄が、中根千枝『タテ社会の人間関係』を中根千枝が、梅棹忠夫『文明の生態史観』を梅棹忠夫が、解説するという豪華さである。

     贅沢だからといって必ずしもベストとは限らないが、フォーマットを決めているせいで解題の出来不出来が一目瞭然となっており、信用すべきでない少数の例外はすぐに見分けがつくので問題は少ない。
     一つだけ例を挙げると、クーン『科学革命の構造』について訳者の中山茂が解題を書いているのだが、どうでもいい周辺事情ばかりで紙面を埋めていて、この著作の内容・構成にはほとんど何も触れておらず、他の書についての訳者による解題と比べるとその差は歴然である。
     他には要約と解題を書けというのに思い出話を書いてしまっているお調子者もいるが(山口昌男である、こっちはちょっとおもしろいのが業腹である)、これら例外であり、他はおしなべて一定の水準を維持している。



    理由4 充実した索引が利用価値を高めている

     索引が貧弱だと、100+900冊分の概要を1冊の書物に束ねた威力が半減する(大抵のガイドブックがここのところをさぼっていて、単なる書評の書きっぱなしで終わってる)。
     索引は和文書名、外国語書名、著者名、執筆者名の他に、主題・事項名があり、ひとつの主題について分野横断的に検索できる。
     分野以外に見ておくと嬉しい文献が見つかったり、気付かなかった視点や発想をもたらす意外な書物と出会えたりできる。



    理由5 オマケも気が利いている
     
     オマケだが、解題付の1000冊の他に、26の分野について発表年順に並べた年表式文献リスト(合計3千点以上の文献書誌データ)がついており、そこからさらに本文の関連項目にもアクセスできるすぐれもの。
     本体(100+900冊分の解題)がしっかりしているので、これも意外に役立つ。

     さらに社会学+周辺分野で刊行された講座もの・叢書もの・シリーズ・全集・著作集について、その巻立てや構成、目次の一覧が付いている。
     これまた一見、地味なオマケだが、図書館の検索(OPAC)でも、各巻の内容まで入力しているとは限らないので意外に検索しにくいので心憎いリストである。
     この手の講座ものは、大部の教科書企画が成立しにくい日本の出版事情では、英語の何でも書いてある教科書のカウンターパートをつとめる書籍類である。最新のことは書いていないが、その分野で共有すべき=知っておくべき知識がまとめてある。調べものをする立場から見ると、事典と書誌につづく第3のレファレンス本である。




    理由6 今なら新刊で安く手に入る

     以上のような利点の多い一冊であったが、ただひとつ(というかふたつ)看過できない欠点があった。
     高価なこと(元々は定価で16,000円)、そして長年入手困難だったことである。
     知る人は知る(そして手放さない)せいで、古書の価格も高騰(数万円)していた。


    社会学文献事典―書物の森のガイドブック社会学文献事典―書物の森のガイドブック
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    (↑こちらがオリジナル版)

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    (Amazonマーケットプレイスでの価格推移:クリックで拡大)




     これが古書店で1万円以下の出物があるという話なら、親しい友人にひっそり書き送るだけにしていただろう。
     
     しかしこの本は、すでに自分でどんどん読み進めている中級者よりも、もうこの手の本はゲップが出るほど読んだという〈すれっからし〉さんよりも、今まで読んだことのないような本をこれから読もうとしている人たち(特に近くに先達も本を読む友人も見つけ難い人たち)にこそ手に入れて座右に置いてもらいたい書である。

     これが縮刷版となって、新刊書となって、4千円ちょっとで手に入る価格となって再登場した。

     今だったら、もう誰に遠慮することなく紹介できる。




    (参考記事)


     
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     0(ゼロ)を1にすることは、1を2にしたり2を4にしたりするよりも難しい。
     
     アイデア発想法の多くは、「〜についてのアイデアを出そう」という目的で使うものである。
     テーマが外から与えられる状況下で進化してきたものなので無理もない。

    半時間で108のアイデアを生む/後処理をにらんだブレイン・ライティングの工夫その他 読書猿Classic: between / beyond readers 半時間で108のアイデアを生む/後処理をにらんだブレイン・ライティングの工夫その他 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
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    アイデアが降りてこないあなたを神様に助けさせる7つの道具 読書猿Classic: between / beyond readers アイデアが降りてこないあなたを神様に助けさせる7つの道具 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

     
     問題は、何をするかも、どっちへ進むかも、決まってない場合である。

     以前は、昔書いたメモや文章を読み返すか、辞書や書物をランダムに開くか、散歩など他のことをするかしながら、何か思いつくまで待つくらいしかしてなかった。

    発明王はここまでやる→エジソンのすごいノート 読書猿Classic: between / beyond readers 発明王はここまでやる→エジソンのすごいノート 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


     しかし少し前に紹介した、まだうまく言葉にならないものを捕まえるための方法にTAE(Thinking At the Edge)がある。これを使うともう少し組織的かつルーティン的に「0(ゼロ)からはじめる」ことに取り組める。
     
     何を書くかは身体に尋ねる-言葉にならないところから理論を立ち上げるThinking At the Edgeという方法 読書猿Classic: between / beyond readers 何を書くかは身体に尋ねる-言葉にならないところから理論を立ち上げるThinking At the Edgeという方法 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
     
     最初はTAEをフルセットに近い形でやっていたのだが、どんどん手を抜くようになって、最近は以下の簡易な方法に落ち着いている。


     なお、この方法は、
    書くのに必要なすべてのものー野田のフロー(流れ)図と創作系記事まとめ 読書猿Classic: between / beyond readers 書くのに必要なすべてのものー野田のフロー(流れ)図と創作系記事まとめ 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    で触れた

    a.コモンセンスを獲得する全方位読書〜A.書きたいもの/書く動機
    の中の
    ・精神に逆目を立ててくれるような、苦手な分野、嫌いな作家の本を手に取る

     とくに好きでもない書物、どうしても好きになれない作品は、あなたが何を書きたいのかを教えてくれる可能性が高い。
     「いやいやいや、そうじゃないだろ!」と思わず叫んだ箇所、どうしても納得できない部分に突き当たったなら、それこそがあなたが書きたいと思う何かであり、少なくともその方向を示す断片である。
     自分を広げる読書の中で、とくに自分が「否」と叫びたくなるものを読む中で、自分が本当は何を書きたいのかを発見する。

    を手続化・方法化したものである。

     
     
    1.自分を炎上させる言葉からはじめる

     最初に「呼び水となる1文」を用意する。
     この「呼び水となる1文」は、書けるなら自分で書いてもいい。
     しかし自分で書けるくらいだったら、0(ゼロ)からはじめることにはならない。
     
     ここは言葉が出てくるきっかけになりさえすれば、何でもかまわない。
     名言名句や「うまいこという」と自分が感心するようなフレーズよりもむしろ、カチンとくる(腹が立つ)ものとか、「これはひどい」と思うような1文を選んだ方が、言葉(文句)が出て来やすい。
     
     一言で言えば「自分を炎上させる言葉を選ぶ」といった感じである
     
    ※では、実際に巷で炎上を引き起こしている発言がベストかといえばそうではなくて、文脈から切り離して持ってくると何てことはないフレーズであることが多く(状況×発言者×言葉遣い×内容の合わせ技が炎上発言を成り立たせるほとんどすべてであり、内容だけの比重を考えると案外軽いことが分かる)、あまり自分を炎上させてはくれないようである。
     
     
     ネットで何か書いている人なら、自分を批判するコメントの類をストックしておく。
     書いても仕方がないと思いながらも思わず反論してしまいたくなるようなのが、最も言葉が湧き出てくる。
     他の人宛の言葉でも、思わず噛みつきたくなるような言葉なら、同様に使える。
     
     「自分を炎上させる言葉」は、自分の価値観やものの見方と食い違うものであることが多い。
     お手軽なのは、たとえば思想信条の違う/対立する人たちが書いたものから探すことである。
     
     その発言の内部で〈食い違い〉を含む矛盾した文も「それが本当は正しいとしたらどういうことか?」という問いとセットにすると、呼び水となる言葉として使える。「本当は正しいとしたら」を持ち続けるのが少し労力がいるが、これができるなら、禅の公案のようなものも使えるようになる。


     こうして溢れ出た悪感情まみれの言葉は、以下の数ステップの間に濾過/蒸留されて、アイデアに精製される。

     「自分を炎上させる言葉」に、書くのを辞めたくなるような言葉を選ぶのは、その善用であり供養である。



    2.沸き起こる言葉を手を止めず書き出す

     自分の中から言葉が湧き上がる〈呼び水となる1文〉を選んだはずなので、その1文を目にして出てくる言葉をとにかく書き留めていく。
     
     そのまま外に出すわけではないので、手を止めたり、書いたことを反省したりはしない。
     うまい表現にはならず、まともな文にもならないかもしれませんが、単語であっても、時にはうなり声であっても、とにかく書き出す。
     外には出せないような罵詈雑言や汚い言葉も書き留める。
     同じような言葉が繰り返し出てきても構わないので、そのまま書き出ていく。
     
     この段階ではそれほど時間を使いたくないので、あまりたくさん書かなくてもいい。
     言葉が途切れて来たら、次のステップへ進む。
     


    3.書き出した〈ぶつくさ〉に線を引く


     2.で書き出した言葉の羅列を読み返します。
     
     「これは、さっきのと似てる」「また同じ事を言ってる」というところに線を引いたり囲んだり印をつけたりしていく。
     重要そうと思えるところにも、線を引いたり囲んだり印をつけたりしていく。
     

     そして線・囲み・印をついた部分から、テーマや方向性とすべきキーワードを拾い出す。
     

     ここまで来れば、今後の調べものやアイデア出しのテーマや方向性、少なくともその候補ぐらいは手に入る。
     
    yobimizu.png
     

     
    4.拾い上げた項目を交差Crossingさせる


     3.で拾えたのはせいぜい思いつきだが、さらに掘り下げるにはもう1ステップ加える。


     線・囲み・印をついた部分から、なるべく異なるものを3つくらい選ぶ。
     3つの項目を拾った場合は、3×3のマス目を埋めることになる。
     
     3つ以上選んでもかまいませんが、拾い上げる項目が増えると、交差表は大きくなり埋めるマス目の数は急激に増えて時間がかかるようになる。
     より複雑なものや大物を狙うなら3つより多めを、そうでないなら3つだけを拾うことにして先に進む。
     中の人の現有能力では、手間対効果を考えると3×3ぐらいがちょうど良いようである。

     こうして選んだ3つ(以上)の項目をつかって下のような交差表をつくる。
     左端と上端に並んだ項目を掛け合わせてマス目を埋めていく。
     
     
    tubuyaki-cross.png

     

     これはTAEで出てくるパターン交差の流用である。
     
     交差させる項目はできるだけ異なるものを選んだ。
     いわば思いつきの中の極端なもの同士を掛け合わせることで、思いつきに含まれているがはっきりとは現れていないものを現前化させる試みである。
     
     これは自分のつぶやきのそれぞれを、異なる角度から見なおしてみることでもある。 
     個々の思いつきには、その内容と共に、その内容を支える前提や視点が(多くは暗黙的・陰伏的に)含まれている。
     異なる思いつきを掛け合わせることは、異なる内容と前提・視点を強引に組み合わせることで、暗黙的・陰伏的だった部分を表面に浮かび上がらせる。
     
     また 自分を炎上させる言葉に惹起させられて出てきたつぶやきは、勢いはあるかわりに冷静さに欠け視野がせまいものになりがちである。
     異なる前提・視点と結び合わせることは、視野を広げ、冷静さを取り戻すプロセスでもある。
     
     
     どのように「掛け合わせ」て何を書き込むかは自由であり、異なる項目を結び付けようとするだけで(特にそれぞれの項目が大きく異なっている場合には)言葉が浮かんでくることも珍しくない。
     しかし一応のガイドライン(導きの質問)としては次のようなものがある。

    ・〈左端の項目〉と〈上端の項目〉は、どこが似ているか?
    ・〈左端の項目〉と〈上端の項目〉は、どこが異なるか?
    ・〈左端の項目〉の視点から見て〈上端の項目〉はどう見える?
    ・・〈左端の項目〉と主張する人は、〈上端の項目〉をどう思うか?
    ・〈左端の項目〉の中の何が、〈上端の項目〉を問いとした時の、答えになっているか?
    ・〈左端の項目〉と掛けて〈上端の項目〉と解く、その心は?

     交差シートのマス目は必ずしもすべて埋める必要はない。
     交差する中で「これは!」というものが出てくれば、目的は達したので先に進んで構わない。 
     ただ、作りかけの交差シートは保存しておこう。
     いつか空いているマス目を埋めようとすることで、今は気付かず思いつかなかったアイデアが浮かぶことが結構ある。


    (参考文献)
    TAEによる文章表現ワークブック―エッセイ、自己PR、小論文、研究レポート…、人に伝わる自分の言葉をつかむ25ステップTAEによる文章表現ワークブック―エッセイ、自己PR、小論文、研究レポート…、人に伝わる自分の言葉をつかむ25ステップ
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    問:本が読めません。1冊の本を最後まで読めなくて挫折してしまいます。


    答:挫折してもいいです。とにかく読み始めたことが大切です。本当に読めない人は最初からあきらめて本を開きもしません。



    問:挫折した本はあきらめた方がいいですか?


    答:あきらめなくていいです。他の本を読んでから再び読んでみると、案外読めたりするものです。読める本を何冊か読むだけでも随分ちがいます。



    問:どうしたら挫折せずに最後まで読めるようになりますか?


    答:挫折せず読める、読みやすい本を選びましょう。最初は易しく薄い本がよいです。ちなみに、誰かがあなたに勧めてくる本は、あなたの読書レベルより少し上のことが多いです。



    問:どうしておすすめ本はレベルが少し上になるんですか?


    答:あなたに本を薦めてくれるような善意の人は、あなたの読書力を実際よりも高く見積もる傾向があるからです。それから、あまり易しい本を勧めてしまうと「バカにすんな!」と相手の怒りをかうことがあるので、おすすめ本のレベルは上方修正されがちです。
     ちなみに「あなたに本を薦めてくれるような人」の中には、あなた自身も含まれます。つまり〈背伸びした〉本を、自分でも選んでしまうのです。



    問:〈背伸びした〉本を読むのはダメですか?


    答:ダメじゃありません。背伸びした読書は否定されるべきではありません。自分を賢く見せたい知的スノビズム(関西でいうところの「ええかっこしい」)は文化の森の下草です。視野に入ると鬱陶しいですが、無ければ文化の森が枯れてしまいます。
     読めもしないような本を買う人がいなくなれば、書物の世界は今よりずっとさびしいものなるでしょう。
     そして、背伸びした読書をしようとしない人は、結局のところ、どんな読書もしないでしょう。

     
     
    問:どうやって読みやすい本を見つけたらいいですか?


    答:一番簡単なのは、誰かが勧めた(あるいは自分が読みたい)〈少しレベルが上の本〉を持って、図書館のレファレンスカウンターに行き、「これより分かりやすい本はありませんか?」と尋ねることです。
     何冊かそうして質問していると、やさしい本の見つけ方が分かってきます。
     やさしい本を見つけるスキルは、読書生活を続ける上で、一生の財産になります。

     

    問:ほかに読みやすい本を見つける方法はありますか?


    答:まだ読書に慣れていない人たちのために書かれた本があります。子ども向けの本です。図書館なら児童書コーナーで見つけることができるでしょう。



    問:ある本が自分のレベルに合っているかどうか知る方法はありますか?


    答:簡単なやり方に「5本指テスト」というのがあります。もともとは子どもたちが本を選ぶときに使われる方法ですが、日本語の本だけでなく、外国語の本を選ぶときにも役立ちます。


    (1)読もうと思っている本を手に取り、真ん中あたりのページを開く。絵やイラストがないページがいい。
    (2)開いたところを1ページだけ最初から読む。手を握っておくのを忘れずに。
    (3)読んでいる間に知らない単語に出会う度に1本ずつ指を伸ばそう。
    (4)1ページ読み終わらないうちに、指が5本とも開いたら、そのまま手を振ってバイバイしよう。その本は君には難しすぎる。
    (5)指が1本も開かず、1ページを最後まで読み終えたら、握りこぶしをおでこにつけて考えよう。その本は、今の君にはやさしすぎるかもしれない。
    (6)(4)でも(5)でもないなら、それはまさに君のための本だ!

    あなたに最適な本を選ぶ「5本指テスト」と「ゴルディロックス・テスト」 読書猿Classic: between / beyond readers あなたに最適な本を選ぶ「5本指テスト」と「ゴルディロックス・テスト」 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加





    問:やさしい本ばかり読んでいてもダメじゃないですか?


    答:ダメじゃないです。やさしい本を読むことも、読書の経験値を積むことになります。
     それから、やさしい本は、それに満足できない場合も、次の本を読む動機付けを与えてくれます。
     やさしい本をつくるためには、やさしく解き語るだけでなく、やさしく説明できない事項を省くことも必要です。なので、やさしい本には必ず、書いてないことや、「詳しいことは他の本に譲った」というところがあります。
     そのために、やさしい本は、知的好奇心をかきててながら、しかしそれを満足させないことで、次の本へと(ときには本の外へと)誘ってくれます。



    問:本は最後まで読まなきゃいけませんか?


    答:最後まで通して読むのも一つの読み方です。しかし他にも本の読み方はたくさんあります。

     たとえば必要なところだけ拾い読みするのも、一つの読み方です。
     同じ分野の本を続けて読んでいると、どの本にも共通して書いてあることがあるのに気づきます。また同じことが書いてあることに気づくと、読み飛ばすなりして自然とその部分は足早に通り過ぎることになります。ある本にしか書いてないような独自の部分は、20%くらいじゃないでしょうか。もっと少ない5〜10%くらいしか独自の部分がないの本もたくさんあります。拾い読み(それから飛ばし読み)は、思われているよりずっと用いられるべき読書法です。



    問:本を読む時間がありません


    答:時間はあったりなかったりするものではなく、割り当てるものです。

     本を読むことを生業にしている人以外は、〈余り時間〉に読むしかありません。
     こういう場合によく引き合いに出される魏の薫遇の言葉で「書を読むは当に三余を以てすべし。冬は歳の余なり。夜は日の余なり。陰雨は時の余なり」というのがあります。一年の〈余り〉である農事が忙しくない冬、日の〈余り〉である仕事を終えた夜、時の〈余り〉である外の仕事ができない雨のとき、の3つを〈三余〉といって、そうした〈余り時間〉に本を読むべきだというのです。
     ライフスタイルによって様々でしょうが、毎日ある〈余り時間〉を読書の時間に確保することからはじめましょう。
     例えば、行きの通勤/通学、昼食中、帰りの通勤/通学、入浴中を確保すると〈四余〉になります。
     この際、余り時間のそれぞれに分野やテーマを固定して、1冊終わったらまた同じ分野/テーマの本を読み続けることにすると効果が実感しやすいです。たとえば行きの通勤通学中は毎日、他に読みたい本があっても、必ずあるテーマ(たとえば経済学)の本を読むのに予約し確保しておくのです。そしてある経済学書を読み終わったら、行きの通勤通学中にはやはり別の経済学書を読むのを続けます。



    問:難しい本を読むにはどうしたらよいですか?


    答:難しい本を読むのに1対1が厳しいなら、できるかぎりの援軍を呼びましょう。

     まず、読もうとする難しい本に関連したやさしい本(入門書や解説書など)を、できるだけ多く探しておきましょう。これらは必ず繰り返し役に立ちます。

    よし、もう一度→ムリ目な難解書を読む5つの方法 読書猿Classic: between / beyond readers よし、もう一度→ムリ目な難解書を読む5つの方法 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


     次に、できれば一緒に読む人を見つけましょう。ちゃんとした誰かを道連れにすると挫折しにくいです。つまり読書会です。一人で考えるより複数人で考えた方が分かる可能性は高まります。また他の人に説明しようとすると、より詳しく深く読むことにもなります。

    難しい本を最後まで読むのに人間が昔からやってきたこと 読書猿Classic: between / beyond readers 難しい本を最後まで読むのに人間が昔からやってきたこと 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


     さて、難しい本が難しい理由は、大きく分けて4つあります。(1)言葉や概念の意味が分からない、(2)前提や背景が分からない、(3)本の内容に矛盾や不整合がある、(4)本の内容と自分の考えの間に隔たり・不整合がある、の4つです。

    本を読んで分からないのは何故か?読書の4つのつまずきと克服したとき見えるもの 読書猿Classic: between / beyond readers 本を読んで分からないのは何故か?読書の4つのつまずきと克服したとき見えるもの 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

     入門書や解説書は、(1)言葉や概念の意味が分からないや(2)前提や背景が分からないことについて、ヒントや手掛りを提供してくれます。(3)本の内容に矛盾や不整合がある場合も、あらかじめ注意やアドバイスをくれるかもしれません。
     1冊ですべての問題に対処できなくても、他の入門書や解説書が役に立つことがあります。もちろん自分の頭もかなり働かせなくてはならないでしょう。
     これが本を読むということです。

     もうひとつだけ重要なアプローチがあります。やり過ごすことです。
     難しい箇所や理解し難い部分に出くわしたとして、他のどんな本を読んでも誰に聞いても、やっぱり解決しないことがあります。
     そんな場合は、その部分を飛ばして先に進みましょう。飛ばして先に進むことで、後になって解決する、ということも結構あります。
     慣れないうちは生真面目すぎて、分からないから飛ばすというのに抵抗を覚えるものですが、100%理解できる書物なんて誰にとっても存在しません。存在したとしても、それはもう、その人にとって読む価値がない書物です。
     むしろ分からない部分を残したものこそ、あなたにとって大切な書物になる可能性があります。



    問:本の内容と自分の考えの間に隔たり・不整合があるの場合は、どうしたらいいですか?


    答:a.本の方を否定するか、b.自分の考えの方を変えるか、c.そのどちらもやる、つまり自分か本かの二者選択を越えて、書物と自分の再解釈や再構成に取り組むか、いずれかです。3つめのものは、本を読む目的の中で最終的なものです。本と自分の間の埋めがたい不整合を乗り越える中から、読書から得られる最善のものがもたらされます。
     何か読むたびにガラガラと自分が変わってしまっては大変ですが、せっかく本を読んでもまったく何も変わらないというのも勿体無い話です。




    問:周りに本を読む人が居なくて、本を読んでいると馬鹿にされます


    答:逆境ですが塞翁が馬、周りに話すに足りる人が居ないのですから、読書にのめり込むには好都合です。

     「同じ書を読む人は遠くにいる」という言葉があります。
     一冊の本があなたの手元にあるということは、同じ本があなたの知らない人たちのところにも届いているということです。
     どれほど孤独な読書家も、この本を読むのは自分だけではないことを知っています。
     私が読んだものを他の誰かも読むかもしれないからこそ、書物は私だけに働きかけるのではなく、社会的にも力を持ち得えます。一冊の書物が開くこの可能性のひろがりを、ここでは読書圏(Reading Sphere)と呼びましょう
     読書圏は、同じ書物を読む人たちの間に結ばれるかもしれない潜在的な関係性、あるいは関係の可能性です。
     本を読む人ならば、〈世界を変えた書物〉のような例外はあるにせよ、この関係性は多くの場合実現せず、可能性のまま立ち消えることを体験として知っています。
     しかし可能性はゼロではありません。
     だからこそ、「最近ある本を読んだ」と言うかわりに、人は書物の題名や著者名を口にするのです。過去、現在、未来に同じ書物を誰かが読むことを、そしてそんな彼らにいつか出会えるかもしれないと期待して。
     インターネットが日常と化した現在では、同じ書物を読んだ人と出会うことは、以前よりずっと容易になりました。
     私達は、書評であれ感想であれ評論であれ批判であれつぶやきであれ、読んだ人の声を介して、書物に導かれています。存在すら知らなかった書物を教えられることもあれば、忘れるほど昔に読んだことを思い出させることもあります。
     読み終えたら、いいえ、読み始めさえしたら、そのことを言葉にしてみましょう。



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