あー、忙しい、忙しい。

    「お忙しくってなによりでございます」

     だれだい、あんたは?

    「はじめまして。時間貯蓄銀行より参りました」

     なんだい、それは? 時間でも貸してくれるのかい?

    「ええ、もちろんです。ただし、最初に預時していただかないといけません」

     帰っておくれ。預ける時間なんかないよ。あー、忙しい、忙しい。

    「みなさん、そうおっしゃいます。しかし、一日をつぶさに調べれば、5分や10分の端(はした)時間を、どなたも持ち余していらっしゃるもの」

     ないったら、ないよ! さあ、帰った、帰った!

    「なるほど。そういった寸分を惜しむ方には、我々どもタイム・コンサルティングを行っております。たとえば、この1日を26時間にするコースなど、いかがでしょう?」

     なんだって? 1日は24時間と昔から決まってるんだ。寝言を言ってるんじゃないよ。

    「確かに。しかし誰かが決めたやり方に、そのまま盲従していては、時間は増えません」

     一理ある。2分間だけ聞こうじゃないか。要点を言ってくれ。

    「さすが、お目が高い。我々は、昔から決められたとおりにではなく、1時間を55分とすることを提案いたします。1時間でやってきたことを5分だけ短縮して55分でやってしまう。それほど無理な話ではないでしょう。1時間を55分といたしますと、一日は26時間となる勘定に」

     待ちなさい。今は1日24時間×60分で1440分だ。あんたのプランだと26時間×55分=1430分になる。この余った10分はどうする?

    「さすが計算高い。いえいえ、誉め言葉でございます。その10分を我々時間貯蓄銀行に預金していただきたく存じます。お客様には1日につき2時間の時間が増えます。我々は、そこから生れる、ほんの端(はした)時間をお預かりしようと、ええ、そういう訳でございます。なにしろ世界中どこでも時間市場は、現物、先物、ともにかつてない買い手市場でございます。利息につきましても、このくらいには……」

     おお!

    「しかも複利でございますから、毎日10分ずつ積み立ててていただきますと、ほら、このとおり!」

     すごい、時の蔵が立つんじゃないか? 一生のうちに使いきれるかな?

    「いえいえ、そのための時間貯蓄銀行でございます」
    と灰色の男は慇懃に答えた。




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    ミヒャエル・エンデ

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