「引っ込み思案で対人スキルが身に付けられない人が先に進むためのただ一つの方法」 というエントリーで、エクスポージャという方法を紹介した。

     エクスポージャは不安障害だけでなく、強迫性障害に極めて効果が高いことがRCTを用いた数多くの効果研究からわかっている。近年では、強迫スペクトラム障害(OCSD)が、うつへの適用も行われている。(専門的な情報が欲しい人は、たとえばE&RPで検索すると良い)。
     しかし、本人から強い抵抗に合うことも多い。

    「いまでもこんなに怖いのに、恐怖に直面して、しかもしばらくそのままでいるなんて!
    そんなことにでもなったら、
    (1)恐怖のあまり死んでしまう!
    (2)ストレスでおかしくなって(社会的に死んで)しまう!
    (3)確実に何かとんでもないことが起きる!」
    などなど。

     いくつか確認しておこう。

     恐怖を感じない人間、不安を持たない人間はいない。仮にいたとしても、そんな者になる必要は微塵もない。
     
     すべての恐怖や不安を払拭しなければならない、ということはない。ある恐怖や不安に「打ち勝つ」というのですら、大げさすぎる。

     必要なのはただ、その恐怖や不安と一定時間(恐怖や不安のレベルが十分に下がってくるまでの時間)、顔をそらさず「同席」することだけだ。

     次のはアクセプタンス・コミットメント・セラピーで用いられるアネクドート(治療的比喩を含む小話)である。
     気ざわりな来客があっても、そのことを不愉快に思っても、あなたは大声で泣きだしたり、その客に殴りかかったり、トイレに閉じこもったりしないだろう。その客が帰ってしまうまで、最低限の紳士的な対応をするだろう。
     恐怖や不安に対しても、同じようにすることをお薦めする。

     簡単なことだとは言わない。しかし絶対に不可能なことだとも言えない。

     する/しないは、もちろん本人の自由だ。

     もし、「できない!」「無理だ!」「恐ろしいことが起きる!」といった自分の中の「つぶやき」に心を占拠されそうになったら、耳に入ってくる一番遠い音または一番小さな音に、あるいは、踏み占める足のうらの感覚に、頬にあたる風の冷たさに、意識を移してみるといい。これは、素振りのように、普段から心がけて練習できる。最初のうちは間に合わず、我を失ってしまうだろうが、何度か失敗しているうちにできるようになる。


     あるいは一度、その恐怖や不安で、自分が得ているものと失っているものを「フランクリンの表」にまとめてみるといい。
     紙に縦に線を引いて左右に分け、左側に「得ているもの」を、右側に「失っているもの」を思いつく限り書き出すだけのものだが、一望できるように「損益」をまとめてみると、それが自分にとって取るに足りぬものか、それとも重大事かが分かる。

     この表を作ること自体に、苦痛を覚える人もいる。それはその人が、恐怖・不安がもたらす損益を考えることからも回避してきたことを示している。回避のための回避は、このように何重にもなる。


     この二つは、ひょっとすると役に立つかもしれない技法だが、すべてを解決する訳ではもちろんない。

     もっとシュガー・コーティングされたライフ・ハックが存在するかもしれないし、これから生みだされるかもしれない。
     けれども、何にもまして、ライフ・ハックは自らを助けるものしか助けない。
     やらない人に効くライフ・ハックはない。
     それは杖にはなっても、あなたの代わりに歩いてくれるわけではない。


     回避につけるクスリはない。なぜなら、どんなクスリも回避することが可能だからだ。
     うまいセラピストは、回避を予測し、妨害することに長けているが、それでも限界がある。なんとなれば、そのセラピストのところへ行かないことが可能だからだ。
     「誰かの手を借りる」ことも含めて、自分でやるしかない。それ以外には方法がない。

     信じられないかもしれないが、こうした「回避についての回避」について書いた部分だけを読み飛ばす人も実際に存在するのだ。何度「やり方」を教えても、「その重要さはわかったから、具体的なやり方を教えてくれ」と繰り返し聞いてくる人もいる。指示しても、肝心の部分だけを「ど忘れ」する人もいる。

     恐怖で死んだ人はいない。
     しかし恐怖することについて恐怖すること、不安になることを不安がることのために、人生の多くを台無しにする人は少なくない。


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