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     ブースという人は、「科学的貧困調査」を始めた人で、近代社会政策の父、いわば貧乏の神様である。

     ブースが登場するまでの19世紀の代表的な「貧困観」というのは、「貧困は個人の責任であり、社会の側に責任は無く」むしろ「無差別な救済は貧民を堕落化する」というものだった。
     「普通の人たち」を自認してる中産階級下層の人たちが言いそうなことに思えるが、この考えは、相手の真のニーズに対し無頓着で、与える者の慈善心を満足させることに腐心していたそれまでの慈善事業(何だか自分探しや自己実現のためにボランティアに走る人みたいだ)に、反省を促し改革を訴えた、当時としては一定の意義を持つものだった。この反省・改革から、ソーシャルワークや、家族を支援するケースワーカーが生まれた。

     それなりに進歩だった、新救貧法(1834年)や、ニーズを強調しそれまで恣意的・無秩序に行われた慈善の組織化を目指した慈善組織協会(1869年)も、「貧困は個人の責任」という貧困観を保ち続けた。そして貧困は社会問題となったが、相変わらず「見えないもの」だった。

     切り裂きジャックの事件は、だから社会政策史上の画期となった。
     
     なんとなれば、この猟奇事件は、人々(つまり自分を「市民」と呼ぶことができるほどの経済的余裕と政治的力を持った人たち)に、貧困と犯罪の集中するイーストエンドを再発見させたからだ。

     ブースの調査もまた地理的だった。
     報告書の下になった調査でつくられた「貧困地図」には、Lowest classからUpper-middle and Upper classesまで、色では黒から黄色まで、ロンドンの家を一件一件色分けしてある。
     100年前のものとはいえ、こんなものをどうどう展示してあるのは、日本の感覚だと驚きである。
     
     切り裂きジャックが跋扈したBrickLien付近は、本当に辺り一面真っ青(Poorest!!)に塗り込められていたり、ジャックロンドンが書いたbowは、表通りはまだ真っ赤(middle class!)だったり、すごぶる具体的である。

     貧困は地理的に偏在すること、それが都市問題として現れることを、これ以上のコトバが入らないくらい示している。
     偏在するので、貧困は見えにくいものとなる。
     けれども都市のような密集したところでは、(これはMuseum of London掲示の解説文にあったものだけど)indifference between the rich and the poorなものとして、たとえば伝染病として発現する(あるいは犯罪として)。
     ほんとは無差別ではないのだけれど(伝染病罹患率も犯罪遭遇率も、貧困層ほど高い)、そこまでいって初めて「都市問題」として浮上する。

     ブースは調査をまとめ
     1.ロンドンの全人口の約3分の1が「貧困線」(=週賃金21シリング)以下の生活を送っていること。
     2.貧困の原因は、飲酒・浪費等の「習慣の問題=個人の責任」ではなく、賃金などの「雇用の問題」が疾病・多子などの「環境の問題」に起因し、特に前者が大きく作用していること。
     3.貧困と密住は相関すること、などを明らかにした。ブースは、貧困をカラーリングして「目に見えるもの」にしただけでなく、その仕組みの一端をあばき、「社会政策」の必要を示して見せた。

     このブース地図、ロンドン博物館のミュージアムショップで20£で買える
    (A2版の地図4枚に解説付き)。実はアマゾンでも買えたのだが(ISBN: 0902087207)、今は無理のようだ。


     ところが、どっこい、ブースたちが拠点としたロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのホームページには、この地図が拡大縮小機能付きで掲載されていて、しかも便利この上ないことに、現在の詳細地図の当該場所が、自動的に同時に表示される。(しかもブースの調査ノートの当該ページの映像ともリンク付きである)。

    Charles Booth Online Archive
    http://booth.lse.ac.uk/
    (Poverty maps of London: 「Browse」か 「Search」をクリック)


    「地図を片手に」というには少々大きいが、日本では憚られて視野の外に置かれがちな都市のリアリティの一側面をつぶさに見ながら、町歩きができる都市はそう多くない。
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