協力し合えばトータルではより大きな利益が得られるのに、目先の利益に目がくらんで(?)非協力的な行動をしてしまう。
     いわゆる社会的ジレンマである。

     さて、この社会的ジレンマを越えて、協力し合うためには、参加者がみんな「かしこい利己主義者」であればいい、とされてきた。
     「かしこい利己主義者」は何しろ「かしこい」ので、トータルな利益には相互協力が必要であることを理解する。
     加えて、他の参加者も「かしこい利己主義者」であることもわかるので、つまり他の参加者も「かしこい」以上トータルな利益には相互協力が必要であることを理解するだろうと、予測する。

     しかし、世の中「かしこい利己主義者」ばかりではない。
     もっと悪いことに、「かしこい利己主義者」の中に「バカ」が混じってることで、「バカ」が一人勝ちする場合だってあるのである。
     ああ、だったら、そんな「バカ」になりてえ(笑)! 
     だって「かしこい」人の計算って、すごい入れ子になっていて大変そうだし。それに世の中の協力行動が、そんなしちめんどくさい計算の結果だとは思えない。

     それでも人間はなんとかやってきてる。
     集団でない人間なんて弱いもんだ。
     だったら、人間は進化の過程で、社会的ジレンマを回避する能力を身につけているのではないか? と考えた人たちは、協力行動のためのモジュールが人間にはあるのではないかと考えた。
     なぜモジュールかと言えば、人間の知的能力をたくさん投入してもできるかもしれないが、もっと自動処理になってるはずだという予想からである。

     協力行動のためのモジュールは、協力を壊す「バカ」を(しちめんどくさい計算抜きで)協力を壊す「バカ」を見抜く、そんなモジュールを含むものだろう。
     進化心理学者のコスミデスは、これを「裏切り者探索モジュール」と呼ぶ。
     これによって、協力できそうな人が見分けられるなら、基本的には協力する/協力できない人には非協力的対応する、というパターンでいけそうだ。
     つまり、非協力的な人はつまはじきにすることで、めんどくさい合理計算抜きで、協力行動からの高い利得が得られる。

     しかし、これを「つまはじき」にされる側から見るとどうだろう?
     たとえば、いわゆる「権威主義的パーソナリティ」な人は、他人を信頼しない(できない)ばかりか、人間関係を支配・服従という「力の論理」で見る傾向があるらしい。
     進んで協力することを「おひとよし」として排除し、自分が非協力行動を取るばかりでなく、他人が協力的な態度を取っているのをみるとますますつけあがって、協力的な人間を搾取するような一層の非協力的行動に走るらしい。

     「かしこい利己主義者」の間の協力は、この手の「権威主義的利己主義者」が混じると、途端に非協力行動がはびこるという弱さがある。するとどうなるか?
     「裏切り者探索モジュール」は、「権威主義的利己主義者」をつまはじきにするかもしれない。

     するとどうなるだろう?

     「権威主義的利己主義者」は、非協力行動で応じられる可能性が高いことになるから、「人間は本質的に非協力的なんだ」という信念を持つかも知れない。
     「裏切り者探索モジュール」を備えた人間世界のなかに生きる「権威主義的利己主義者」にとっては、その信念=人生観は、当人にとって間違ってはいない。
     うう、世間の風が身にしみるぜ。
     「権威主義的利己主義者」の非協力的な「生き方」は、一種のナッシュ均衡である。
     だから抜け出すのが難しいだけでなく、抜け出す理由が見あたらない。
     
     機会費用(うしなったもの)は小さくないけれど。



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