ソクラテス:ところで立場を代えて、こんどは逆に、相手が自分の敵であろ
    うと、他のだれであろうと…[中略むにゃむにゃ]…またもしその敵が…[中略むにゃむにゃ]…またもし彼が…[ずっと略むにゃむにゃ]…ぼくの考えでは…[後略むにゃむにゃ]…。

    カリクレス:ちょっと聞くが、カレイポン、いったい、ソクラテスは、こういうことをまじめになっていっているのだろうかね、それとも冗談なのかね?


     これが『ゴルギアス』でカリクレスの登場する場面です。
     ここまでで既に『ゴルギアス』は既に半分くらい終わっているのです。
     ソクラテスは年寄りのソフィストの大物ゴルギアスをさんざんやっつけます。
     そこに、そばで聞いていたカリクレスは、同じくそばにいたカレイポンにこう問いかけたわけです。
     ソクラテスに、ではなくて。
     よくこういう人はいます。
     他の人が気持ちよく大問題を論じていると、「ところで今日の夕食はなんだっけ?」と聞くような人です。
     ところが相手はソクラテスです。
     カリクレスのはぐらかしは、そのまんまソクラテスの罠にはまったのと同じことになるのです。
     そこで今度はカリクレスが大演説をぶつはめになります。
     

    「……ソクラテスよ、まったくあなたという人は、真実を追及すると称しながら、そういうところへ話をもっていって、月並な考えで俗耳につけ入ろうとする人なのだ。あなたの議論で言われていたことがらは、自然本来の根拠に基づいている立派なことなのではなく、ただ法律習慣の上で美風とされているだけなのだから。……」
     

     ソクラテスは秩序の人です。しかしカリクレスは、ソクラテスの言うような秩序というのは自然のものではなくて、人間の作った制度にすぎないと言うのです。そして、

     「そもそも法の制定者というのは、思うに、世の大多数を占めるそういう力
    の弱い人間どもなのだ。だから彼等が法を制定して、これは賞賛すべきこと、これは非難すべきことなどときめて、褒めたりとがめたりしているのは、要するに、自分たちの身の上を心配し、自分たちの利益をはかろうという目的からにほからない。つまり、彼等は、人間たちのなかでも力のすぐれた人たち、自分の権利の優位を主張するだけの能力をもった人たちをおどかして……」


     これが、ニーチェの感動したカリクレスの、力の思想です。自然本来では力が強い方が優位に立つ。ところが法制度の成立によって力の弱いものが集団で力を抑圧する。

     「しかしながら、私は思う。十分な天性を授かった人間がひとたびあらわれるならば、彼はこれらすべての束縛を身からふりはらい、ずたずたに引き割き、くぐり抜けて、自由の身となり、われわれがきめて書いておいたさまざまの規則も、数々の術策も呪文も、また、いっさいの自然に反する法律も、すべてこれを足下に踏みにじって立ち上がり、われわれの奴隷であった男は、突如、君主となって現われる。自然の正義が燦然と輝き出るのは、このときだ。」

     「かくて、ものごとの実相は以上述べたとおりであるが、あなたもいいかげんにもう哲学から足を洗って、もっと人間の重大事に向かうならば、この真相がわかるようになるだろう。というのは、哲学は……人間をだめにしてしまうものだ。
     ほかでもない、せっかくすぐれた素質にめぐまれていたとしても、その年ごろをすぎてもなお哲学をやっていると、ひとかどの立派な人物となって名をあげるためにぜひ心得ておかねばならないことがらを何ひとつ知らぬ人間になりはてること必定だからだ。」

     「いい年をしてまだ哲学にうつつを抜かしていて、いっこうそこから足を洗わぬような男を見ると、そんな男は、ソクラテス、ぶんなぐってやらねばならないと思うのだ。」


     いいぞ!カリクレス(笑)。まるで中上健次のようです(笑)。
     しかしソクラテスも負けてはいません。

    ソクラテス:では、はたして彼は、よりすぐれた人間だからという理由で、そこにある食べものをわれわれ他の者よりも余計にとるべきだろうか。それとも……。カリクレス、そうはならないかね、君は?

    カリクレス:あなたの話に出てくるのは、食べ物だとか、飲み物だとか、医者だとか、くだらぬものばかりだ。わたしはそんなものについて話しているのではない。

    ソ:だが、君が「より優れた人」と言うのは「より思慮のある人」のことではないのかね。これは認めるかね、認めないかね?

    カ:それは、たしかに認める。

    ソ:それなら、より優れた人はより多くもつべきだということは?

    カ:いかにも認めるが、それは食べ物や飲み物のことではない。

    ソ:わかった。君が言うのは着物のことだろう?(笑)





     私はここで2分間たっぷり笑いました(笑)。





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