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     このエントリーは、経済学を人文科学のひとつにしている人(バカ)がいる、という「驚き」から書かれた。

     少し弁護しておくと、人間、自分と近い立場については細かく分けて見るが、自分から遠くなるほど「いっしょくた」に見えるものである。
     たとえば理系の人にとっては「文系」はすべからく同じに見えるのかもしれない(逆に文系からは「理系」はすべからく同じに見えるのかもしれない)。

     まあ、しかし最初から、そう決めつけるのはあまりに失礼だ。
     事実、個人的に意見を交わすことのある「理系の人」は、人文科学や社会科学についても実に多くの知識と見識を持ち合わせている。
     では「経済学を人文科学のひとつ」として扱う人間が、特別に知識に欠けアタマが悪く、新聞の論説記事はもとより4コママンガのオチもわからないというのだろうか(論説記事の方はしばしばオチがないけれど)?


     とりあえず分割図を描いてみた。

    分割図

    (1)理系/文系の区分……茶色の実線
    (2)humanities と the science (あるいはartsとsciences)という区分……青色の二重線
    (3)本質主義(essentialism)と構成主義(constructivism)の区分……赤い点線

     ぶっちゃけて言えば、理系/文系の区分は「日本だけ」である。

     humanities(ヒューマニティ)とscience(サイエンス)が「文系/理系」の訳語とされることがあるけれど、分割図のとおり、まるで違う。
     この辺がわからない人が、冒頭に述べたような「勘違い」をやらかすのだが、以前のエントリー(『日本の社会科学を批判する―OECD調査団報告』)で書いた通り、「社会科学」を科学扱いして来なかった発展途上国developing countryとしての事情があるので、その人個人だけを責めるのも酷である。

     後発国として、手っ取り早い産業化と近代国家づくりが求められた日本では、西洋諸国からの技術移転を担う人材と、同じく制度移転を担う人材とを速やかに育成することが高等教育の第一目標に据えられた。
     そのため、高等教育は大きく「文科系」と「理科系」とに分けられ、文科系の中心は伝統的に法学部が担うことになった。
     制度づくりが「文科系」に握られたので「理科系」は冷や飯食い、というフォークロアが生まれる素地もここにある。
     こうしたシステムが一応できあがったところに輸入されはじめた「社会科学」のほとんど、心理学も人類学も言語学も社会学も----ヒューマニティーズを思わせる「人文科学」として文学部におさめられたのである。当然、「役になんか立たないもの」として。なんというガラパゴス!


     さて、本質主義(essentialism)と構成主義(constructivism)の区分のところは、もう少し解説がいる。
     わかりやすいのは、研究対象が「意思を持ってる」かどうかで区分するやり方である。
     自然科学の対象は、社会科学の対象=ヒトのように、研究者や政策立案者の意図を予期したり逆らったり利用したり裏をかいたりしない。ファインマンは逆の立場からこの点に触れて「物理学が教えてくれることは、自然には、人間の都合に付き合ってやる義理は無い、ということである」とか言っている。
     しかし、この点は、社会科学者にほんとに理解されてるのかというと、実は怪しい(だから経済学でも、ルーカス批判みたいのが、改めてなされなくてはならなかった)。社会科学者は、そこまですれておらす、もっとナイーブなことが多い。


     だからもう少し違う角度で、社会科学のナイーブさも浮き立つように光を当ててみる。

     いきなりだが、『人文書のすすめ』なる本を見ると、たとえばR.ドーキンス著・日高敏隆他訳『利己的な遺伝子 増補新装版』(紀伊國屋書店)なんかが入っていたりする。
    (『人文書のすすめ』を発行している人文会http://www.jinbunkai.comでは、自サイトで「基本図書検索」http://www.jinbunkai.com/booksというデータベースを提供している。ここでも『利己的な遺伝子 増補新装版』が(大ジャンル)哲学・思想(中ジャンル)科学哲学として、「人文書」に入れられていることがわかる。

     ちなみに『利己的な遺伝子 増補新装版』を、OPACなどで図書館の所蔵図書として調べると、日本十進分類法(NDC)では4類 自然科学の中の、460(生物科学. 一般生物学)とか467(遺伝学)とか、467.2あたりに分類されていることがわかる。
     まあ、誰がどう考えたって「科学哲学」ではない。

     もうひとつ。古代ギリシア哲学の研究者が、たとえば『プラトンと現代社会』という本を書いていたとする。
     たかだか古代ギリシア哲学の研究者でしかない人物が、時事放談でも床屋政談でもなく、何故、専門研究者として「現代社会」を論じることができる(許される)かといえば、「昔っから/どこであろうと人間(の本質)は変わらない」というのが、人文科学(ヒューマニティーズ)の基本的前提であるからである。

     という訳で、「人間の本質」に言及する生物学系(社会生物学から「脳科学」まで)の学説は、人文科学と親和性が高い。そうした分野の啓蒙書が「人文書」として扱われるのも、理由が無い訳ではない。
     この「自然科学の人文化」については、別に取り上げようと思う。


     対して、社会科学(ソーシャル・サイエンス)は、「社会(条件)が変われば、人間は変わる」ことを基本的前提とする。
     たとえば「革命」なるものが可能だと信じられるのは、この前提を信じればこそ、である。制度改革が有効だと信じるのも同様である。ね、ナイーブでしょ?


     ただし、人文科学が本質主義寄り、社会科学が構築主義寄りだとしても、両者の線引きは、今日では「氏か育ちか」的な様相を呈する。
     双子研究のような、定量的に一定の結論が出せるアプローチがあれば話はわかりやすいのかもしれないが、学問は生き物なので、事情は刻々と変化してる。
     例えば、さまざまな古典研究は、かなり昔から社会的背景を問うアプローチを取り入れている(でも、最初はちょっとした衝撃を与えるほど越境的だったのだ)。
     また社会科学から臨床系の学問では、これまたかなり以前から物語(論)的転回Narrative Shiftなどが意識されるようになった。それが「どう在るか」ではなく、「どのように位置づけるか」という人々の「解釈」(あるいは「語り」)を、相手にしなくてはならなくなったのだ。そうした「解釈」ないし「語り」は、社会から素材を得て、社会的やりとりの中で生み出され変調されたりする、要するに(社会的に)構築されるものである。
     自然科学に近くて、分かりやすい例を探すのが難しくないのは医学の分野だが、モノ(器官)の異常として疾病を治癒することと、ヒトとして治る(あるいはよりましに生きる/QOLを高める)こととは、ダイレクトにはつながらない。
     人生をどう意味付けるかが、免疫系を通じて、モノ(器官)の異常がなおることにも関係してくるのだから、話はややこしい。

     ややこしいのがキライな方は、冒頭の分割図ですっきりしてください。
     ややこしくっても大丈夫な方用には、これまた別に書く予定。






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    はてなブックマークのコメントに、あまりに悲惨なのがあったので、とりあえず「社会科学」の具をリストにしておく。といっても、Wikipediaからのコピペだが(笑)。

    http://en.wikipedia.org/wiki/Social_science
    から

    # 2 Branches(社会科学の諸分野) 
      * 2.1 Anthropology (人類学)
      * 2.2 Economics (経済学)
      * 2.3 Education (教育学)
      * 2.4 Geography (地理学)
      * 2.5 History (歴史学)
      * 2.6 Law (法学)
      * 2.7 Linguistics (言語学)
      * 2.8 Political science (政治学)
         o 2.8.1 Public administration(行政学)
      * 2.9 Psychology (心理学)
      * 2.10 Sociology (社会学)
      * 2.11 Further fields (考古学、エリア・スタディーズ、行動科学、コミュニケーション・スタディーズ等)

    あと、http://en.wikipedia.org/wiki/Fields_of_science なども参照。
    といっても、リンク先なんて読まないヒトが多いようなので、こちらもコピペ。

     * 1 Natural sciences
       o 1.1 Physical Sciences
        + 1.1.1 Chemistry
        + 1.1.2 Physics
        + 1.1.3 Astronomy
        + 1.1.4 Earth sciences
        + 1.1.5 Environmental sciences
       o 1.2 Life Sciences / Biology
     * 2 Formal sciences
       o 2.1 Computer sciences
       o 2.2 Mathematics
       o 2.3 Systems science
     * 3 Social sciences
       o 3.1 Anthropology
       o 3.2 Economics
       o 3.3 Psychology
       o 3.4 Geography
       o 3.5 Philosophy
       o 3.6 Political science
       o 3.7 Sociology
     * 4 Applied sciences
       o 4.1 Agronomy
       o 4.2 Architecture
       o 4.3 Cognitive sciences
       o 4.4 Education
       o 4.5 Engineering
       o 4.6 Health sciences
       o 4.7 Management
       o 4.8 Military Science

    さらに悲惨な事になってるので、上のほとんど日本語訳といっていいリスト(ウィキペディア「学問の一覧」)からもコピペ。「応用科学・専門職」の部分が泣かせます。

      * 1 人文科学
         o 1.1 哲学
         o 1.2 宗教学
         o 1.3 文学
         o 1.4 歴史学
         o 1.5 芸術
      * 2 社会科学
         o 2.1 地域研究
         o 2.2 地理学
         o 2.3 人類学・考古学
         o 2.4 言語学・言語
         o 2.5 心理学
         o 2.6 社会学
         o 2.7 法学
         o 2.8 政治学
         o 2.9 行政学
         o 2.10 経済学
         o 2.11 ビジネス・商学・経営学
      * 3 形式科学
         o 3.1 数学
         o 3.2 計算機科学
         o 3.3 システム科学
      * 4 自然科学
         o 4.1 地球科学
         o 4.2 宇宙科学・天文学
         o 4.3 物理学
         o 4.4 化学
         o 4.5 生命科学・生物学
      * 5 応用科学・専門職
         o 5.1 図書館情報学
         o 5.2 応用芸術・デザイン
         o 5.3 建築学
         o 5.4 工学
         o 5.5 交通科学
         o 5.6 軍事学
         o 5.7 軍学
         o 5.8 農学
         o 5.9 医学・看護学
         o 5.10 薬学
         o 5.11 歯学
         o 5.12 社会福祉学
         o 5.13 家政学
         o 5.14 教育学
         o 5.15 メディア研究・ジャーナリズム
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