旧石器時代の人類について考えよう。 
     何かの拍子に、出生率が死亡率を上回ったとする。何かの原因で死亡率の方が下がったという方がありそうな話だが、結果は同じ、人口は増加する。
     食料など生活に必要な物資の供給が一定だと仮定すれば*1、人口の増加は、一人当たりの生活物資の減少につながる。つまり生活水準の低下につながる。
     その結果として、死亡率を引き上げられる。今度は死亡率が出生率を上回り、人口は減少に転じる。
     人口の減少は、生活水準の回復、すなわち一人当たりの生活物資の増加をもたらすだろう。
     これは先ほどとは逆に、死亡率の減少につながるが、人口が増加するほどまで死亡率が減少すれば、最初に述べたのと同じプロセスが生じる。

     まとめると、

     出生率>死亡率 →人口増加 →人当たりの生活物資の減少(生活水準の低下)→死亡率の上昇 

     出生率<死亡率 →人口減少 →人当たりの生活物資の増加(生活水準の上昇)→死亡率の低下

     出生率と死亡率のギャップは、人口の増減を通じて生活水準の低下・上昇させ、ギャップを埋める結果をもたらす。
     したがって、食料など生活に必要な物資の供給が一定な状況では、死亡率は、長期には、人口の増加も減少ももたらさない水準、つまり出生率と同じ水準に維持される。
     当然のことだが、そこでは長期的に見て人口は一定である。
     
     生態系の中で、狩猟または採集で生活物資を得るすべての動物について、上の人口原則は妥当する。
     ある生物にとっての生活資材(エサ)は、別の生物に他ならない。
     エサとなる生物の数が一定であり、エサとする側の捕獲方法が同じならば、一定確率で得られるエサの平均的な量も、もちろん一定であるからだ。
     こうして生活に必要な物資の供給が一定な状況が生まれ、食物連鎖に連なるあらゆる生物の個体数は、出生率と死亡率が一致する水準に向かう。
     個々の生物数について成立した(部分)マルサス均衡は、食物連鎖を通じて連関し合い、あらゆる生物において一般マルサス均衡が成立する。すべての生物の数は周期的に変動はしても、長期に見れば、出生率と死亡率が一致する水準、つまり人口の変化率がゼロとなる水準に向かう。

     この法則が当てはまらない唯一の種がヒトである、と我々は考えてきた。
     しかし、超長期の各種の統計データは、人類がマルサス均衡(マルサスの罠)を抜け出たのは、西暦で1800年以降のことに過ぎないことを教える。
     つまり旧石器時代からジェーン・オースティンの時代まで、単位労働時間あたりの食料生産量は、増加しなかった。
     技術の進歩が無かった訳ではない。しかし、その効果は人口の増加に吸収されて、生活水準を高める事は無かった。このように時として人口の増加は生じたが、生活水準の低下を通じて元の人口に引き戻された。
     人類を、つかの間にであれ豊かにできたのは、ただ人口の減少だけであり、それは普通、災難の形でやってきた。
     とりわけ大規模なものは疫病のパンデミックであった。

     歴史家カーライルは経済学を「陰気な科学」と呼んだが、それは経済学の性質というより、人類という種が置かれてきた状況であった。経済学者に限らずヒトは終始ハラペコであり、それは将来に渡っても変わらないことが歴史が教える教訓であった。

     今日、地球は、人類という生物の増殖によるパンデミックに襲われている。
     しかし人口増加は、すべての地域で等しく生じたのではない。一部の際限なき人口増加に対して、その他のヒトは人口一定の均衡から離れ、際限のなく減少するという状態に置かれている。 


    *1 「生活に必要な物資の供給が一定」という強い仮定がなくても、マルサスが指摘したように、人口増加が物資の供給量を上回りさえすれば、つまりマルサスやリカードが当然の前提としたように収穫逓減の法則が成り立ちさえすれば、上記の状態は生じる。
     人にとって食料生産を主要な手段で在り続けた農業は、ある耕地面積が与えられれば、労働量を増やすほどには、収穫は増えない。
     人口が2倍になった、じゃあ働き手を2倍にしようとやっても、収穫は2倍とはならない。労働量が増加すればするほど、収穫の増え方は次第に減って行く。その結果、人口の増加は、食料生産の増加量を上回って行く。


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