まだアメリカ独立戦争が始まってなかった1772年、ベンジャミン・フランクリン(危険な雷実験を敢行し避雷針を発明、サマータイムなどを発明したが、特許は取得せず、利益をいきなり社会に還元した)が、イギリスの友人である化学者ジョセフ・プリーストリ(酸素の発見者、消しゴムや炭酸水の発明者でもある)に手紙を書き送り、そのなかで勧めた「心の代数」(Moral Algebra)、といってもピンと来ないかもしれない。

     だが、以下の説明を見れば、おそらく聞いたことがあるか見たことがあるではないだろうか? 中には既に使っている人もいるに違いない。

    1.まず紙の真中に縦の線を一本引こう。準備はこれだけである

    2.そして、いま決定したい事項について、賛成する理由を線の左側に、反対する理由を線の右側に、それぞれ書いていく。
     フランクリンは、この作業に時間をかけるよう勧めている。「数日に渡り,折に触れては、賛成の側、反対の側それぞれに、理由を追加していくようにと。

    3.一通り出尽くしたところで、今度は個々の(賛成・反対)理由について、重要度(重み)をつけていく。そして(ここが「心の代数」という由縁だが)、ひとつの賛成理由とひとつの反対理由を、場合によってはひとつの理由と複数の理由を(同じ重みのプラス、マイナスが異なるものとして)相殺していくのである。

    4.やがて(数日後)どちらの側にも変化がなくなったところで、残された項目によって、賛成か反対か(たとえばある計画を実行するか否か)について決定を下すことができる。

    サマータイムの導入
    賛成の理由反対の理由
    照明使用時間の減少→エネルギー消費の減少
    帰宅時間が明るい→安全の向上
    余暇の増大→レジャー産業の繁栄
    切替えのコスト
    余暇の増大→レジャー産業の繁栄→エネルギー消費の増大


     この表は、merit and demerit table(功罪表、損益比較表)という名前で,今日でも,意思決定法の解説書に登場する。

     また、うつ病や不安障害に効果があることがわかっている認知療法でも用いられる。

     どんな行動・思考・感情にも、両面(よい面とわるい面)があるが、ひとの思考はどちらか一方の面に片寄ることが多い。
     いま問題になっている行動・思考・感情について、メリットとデメリットを書き出してみることは有益である。

    課題を先延ばしにしている
    そのメリットそのデメリット
    ・他の好きなことをする時間ができる。
    ・大変そうな課題をやって苦しまなくて済む。
    ・締め切りが近付くと落ち着かなくなる。
    ・「いつもにげてばかりだ」と自己嫌悪に陥る


     自分を苛(さいな)んでいるむ感情が、一方では自分(のどこか一部)を守っていることに気付くかもしれない。
     行動に二の足を踏むとき、よい面だけを見ていると「なぜできないんだ?」と自分を責め立て苦しめることになりがちだが、自分が躊躇する理由を「発見」できれば、考えが変わって来る可能性があらう。
     このようにフランクリンの表は、物事の両面を見るのに役に立つ。行動・思考・感情が板挟みになったり身動きとれなくなった状態を脱する手助けともなる訳だ。


    エクセルでのフォーマットをダウンロード → b_s.xls 



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