どえらい計算ミスと勘違いしてたので「もとい」ということで。


     だいぶ間が開いたが、数式表示はGoogle Chart APIだけを使って(+が表示されないので%2Bと文字コードで指定してやる必要があるが)、仕切り直す。

    「このあたりの数学を学ぶと、こんなことまでできる」シリーズ第2弾

     前回、中学数学で「搾取の存在」を証明してみる 読書猿Classic: between / beyond readers 中学数学で「搾取の存在」を証明してみる 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加では、一次方程式をやった。一次方程式といえども、裏では無限級数を処理してるところまでやってしまった。


     今回は連立方程式を解く。中学数学の連立方程式は変数が2つしかないものしか、近頃ではやらないらしい。が、気にせず進む。

     行列を使った方がきれいに書けるが、ぐちゃぐちゃ式を書きながら、進んで行くのが目的なので気にしない。まあ、近いうちに行列はやるだろう。ストラング先生も連立方程式の代入法から『線形代数とその応用』をはじめているので、そっちとの接続もいい。

     さて、連立方程式をつかって例ならば、普通に市場均衡を取り上げてもいいのだが、頼みのチャン(『現代経済学の数学基礎』)もアーチボルトもこの辺りは凡庸でつまらない。チャンの本を「クックブック」と貶すSimonにしたって大したことはない。

     せっかくなので「社会財市場」というアイデアで、身近な権力現象を扱ってみる。
     元ネタはColeman, J.S. (1972), "Systems of Social Exchange", Journal of Mathematical Sociology, Vol.2, nNo.2.
     また『権力から読み解く 現代人の社会学・入門』(有斐閣アルマ)に、永田えり子の紹介コラムがある。


    ■社会(的)交換理論

     ホマンズやブラウは、社会活動はすべて一種の交換だと見なすことができると考えた。
     交換は双方が納得して生じるものだから、世の中のやり取りがすべからく「交換」なのであれば、みんなが納得しているはずで、無理矢理何かをさせられたりすることは無いはずである。ぶっちゃけ、世の中から「権力」なんてものは蒸発してしまう。

     交換理論で「権力」を扱うために、ブラウは「服従」というものも交換できる一種の財だと考えた。経済的な財でないかもしれないが、だったら社会的財だとでも呼んでみる。
     これで、なぜ権力の話ができるのか。

     AさんがBさんに何かをあげた(贈与した)としよう。しかしBさんには返すものがない。さて、どうする?

     人類学や社会心理学が教えるように、人間は「もらったら返したくなる」という性質がある。この性質は大変広い範囲で見られ、しかも強力であるために、社会活動を「交換」と見なす無理が通ってしまうのだが、Bさんはなんとかして、何でもいいから、もらったものと等価なものを返したい。

     返すものが何も無い時に、返される社会的財こそが「服従」である。そして「服従」を受ける人こそが権力者であり、権力はこうした社会的財のバランスシートのポジションとして存在する訳だ。


    ■夫婦という社会財市場


     世の中には、様々な「返せない事態」が存在し、またいろんな「社会的財」がある。

     しかしここでは、経済的財として、とりあえず生活に必要ないろんなものを「生活費」を、そして社会的財としては、夫と妻の(それぞれ相手に対する)「服従」だけを考えよう。

     まずは、専業主婦のいる家庭を想定する。
     夫が働いて生活に必要な収入を得ている。妻は収入を得ていない、とする。
    この場合、夫と妻が、それぞれ提供できるモノを、物に限らず、愛情といったものも考慮に入れよう。すると、供給については、次のようにまとめられる。

    供給
         夫の服従  妻の服従  生活物資
    夫     1.0     0.0    1.0
    妻     0.0     1.0    0.0
    –––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
    総供給量  1.0     1.0    1.0

     つまり「夫の服従」を提供できるのは夫だけである。
     「妻の服従」を提供できるのは妻のみである。
     「生活物資」(正確にはそれを買うお金)を提供できるのは、(今回の場合)夫だけである。

     さて、このときの夫と妻は、どれだけの「予算」を持っていることに相当するのだろうか。それを知るに、それぞれの「財」がいくらで「売れるか(交換されるか)」を知る必要があるが、今のところ不明である。
     方程式をつくるには、不明なものは、何か名前をつけて、変数とすればいい。
     価格のことなのでPriceの頭文字をとり、pで価格変数を表す。
     いま、「財」は3種類あるから、pに数字を添えて、以下のように表すことにする。


      夫の服従  妻の服従  生活物資
    価格          

     これで、夫と妻は、どれだけの「予算」が未知数まじりだが、以下の通り、数式で表現できる。


    夫の元手   ・・・(1)
    妻の元手  ・・・(2)

     次に、夫と妻は、それぞれ、何をどれくらい欲しているかを考えよう。
     次の表は、夫と妻が欲しているものの割合を示している。

    需要
       夫の服従  妻の服従  生活物資
    夫  0.0     0.7    0.3  
    妻  0.3     0.0    0.7

     つまり予算が1なら、夫は70%(0.7)を妻の服従に、30%(0.3)を物品に配分する、という意味である。
     
     夫の予算はだったから、この場合、夫は、を「妻の服従」に、を「生活物資」に費やす。妻も同様である。

     見方を変えて、今度は、それぞれの「財」に支出される額を考えよう。
     たとえば「夫の服従」について言えば、

    夫は

    妻はだけ支出する。
     夫の服従に支出される合計額はである。
     先ほど「夫の服従」の価格をとしたが、「夫の服従」の総供給量は1.0だったので、「夫の服従に支出される合計額」はと等しい。つまり、

    「夫の服従に支出される合計額」   ・・・(3)

    同様に、「妻の服従」「生活物資」についても同じことが言えて、

    「妻の服従に支出される合計額」   ・・・(4)

    「生活物資に支出される合計額」   ・・・(5)


     各「財」の値段を数式で表せたので、そもそも夫と妻は合計でどれだけの財を持っていたかを計算してみる。

     式(1)、(2)に、それぞれ式(3)(4)(5)を代入すると、
    夫の元手
      ・・・(1)





    妻の元手
     ・・・(2)



    とすると








    具体的には、夫の財合計額の方が多く、権力者である。


    ■「カカア天下」は可能か?

     では、生活物資を夫に頼る専業主婦は「夫婦内権力者」となることは不可能なのだろうか?

     否、「社会的財」もまた「社会財市場」での需要と供給のバランスで価格(交換比率)が決まる。
     ぶっちゃけ夫がより多く「妻の服従」を望むのなら、話が変わって来る。

    供給は先ほどと変わらない、としよう。

    供給
         夫の服従  妻の服従  生活物資
    夫     1.0     0.0    1.0
    妻     0.0     1.0    0.0
    –––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
    総供給量  1.0     1.0    1.0

    価格             


    予算制約
    夫の元手   ・・・(1)

    妻の元手  ・・・(2)


    需要を変えてみる。
     夫の服従  妻の服従 生活物資
    夫  0.0     1.0    0.0  
    妻  0.3     0.3    0.4  

    「夫の服従に支出される合計額」   ・・・(3)’

    「妻の服従に支出される合計額」   ・・・(4)’

    「生活物資に支出される合計額」   ・・・(5)’


     式(1)、(2)に、それぞれ式(3)’(4)’(5)’を代入すると、
    夫の元手
      ・・・(1)





    妻の元手
     ・・・(2)




    とすると









     この場合、妻の妻の財合計額の方が夫の財合計額よりも多く、妻の方が権力がある、と言える。

     つまり、夫がより多く「妻の服従」を望んだために、「妻の服従」の価格が上がり、妻の財合計が夫を超えたのである。
     より多くの「服従」を相手に求めることで、夫は逆に「権力の座」から転げ落ちたのだ。

     「服従型支配」が社会交換を通して実現する一例である。


     この数式をつかった議論は、「妻の(夫の)服従」を「妻の(夫の)愛情」に置き換えても、そのまま成立する。
     当然、妻が生活物資を稼いで来るパターンも考察可能だ。

     今回、数値例で示した供給と需要の有り様をパラメータにして、妻が(夫が)より多くの権力(の元になる資源)を持つための条件を定式化することもできる。





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