外国語の勉強で「わからない単語」に出会ったら辞書を引く、なんてことは当たり前で疑う余地もないと思うだろう。

     けれど単語を覚える(語彙習得)という点からすれば、「わからない単語」に出会ったら辞書を引く、というのは,実はあまり役に立たない。
     辞書を引けば、簡単に「日本語での意味」がわかる。
     しかし、簡単に「わかってしまった」単語は、定着しないのだ。
     そして、かなり多くの学習者が、「辞書は日本語訳だけを調べるツール」としてしか認識していない。


     単語を覚えるなら、初見の段階では、もっとアタマに負荷をかけることをした方が良い。いわゆる「深い処理」という奴だ。

     そして、その後の復習は、高速で思い出すのが効果的だ。フラッシュ・カードはこのために用いる。
     復習の間隔は、次第に開けていくといい。次の日、一週間後、一ヶ月後……といった風にだ。これをspaced repetition、あるいはspaced rehearsal, expanding rehearsal, graduated intervals, repetition spacing, repetition scheduling, spaced retrieval and expanded retrieval などと言う(http://en.wikipedia.org/wiki/Spaced_repetition)。


     さて、問題は、初見の段階でやるといい「深い処理」の方である。

     効果の高い方法は、それだけ負荷も高い。
     一言で言えば、めんどうくさい。
     当たり前だが、簡単にすませる方法よりも時間がかかる。
     だが、本当なら、かけた時間×定着度、という尺度で「時間がかかる」かどうかは判断すべきだろう。さっさと「覚えた気」になっても、身に付いてないなら、節約した時間の意味は無いからだ。

     できるだけ「めんどうくさい」やり方から、いくつか並べてみる。


    (1)巨大な単語カードをつくる

     巨大といっても,畳1枚分も必要ない。
     B5かA4サイズのルーズリーフで十分だ。

     ルーズリーフの表に、バカみたいなデカイ字で、出会ったばかりの単語(ほかに熟語や慣用句などの表現でも同じ手が使える)のスペルを書く。表はこれだけでいい。

     裏には、その単語について、あらゆる情報を書く、描く。
     辞書の情報をできるだけ、写し取る。これまで「捨てて来た」辞書の情報がいかに多いかが分かり、しかも記憶の定着にも役立つ。
     発音とアクセントは必須。
     意味は日本語でいい。慣れない言語だと、頭の中の辞書=メンタル・レキシコンは母語のネットワークを頼りに成長するからだ。
     品詞もわざわざ書く。
     例文ももちろん書く(これはできたら、当該の単語の部分は(   )であけておくといい)
     メンタル・レキシコンを成長させるために、訳語(日本語の意味)から、連想するコトバ、類義語を日本語で良いから書いておく。
     自己関与が高いほど、単語の定着度は高い。辞書から例文を選んだら、その主語/目的語を自分に置き換えて、例文を改変して書く。
     辞書の絵、ピクチャー・ディクショナリの絵、ネットで探した写真なども、カードの裏に描く/貼る。絵のうまい/ヘタにかかわらず、自分で絵を描くと、ほぼ一発で、その単語は覚えられる。当然、時間はかかるし、めんどうだが、そこがよい。

     カードの形態なので、復習時は、フラッシュ・カードとして使える。
     カードを見て、一瞬で日本語の意味を声に出して言う。
     間違えたカードは、別に集めておいて、復習する。箱を《昨日》《先週》《先月》と用意しておくと、spaced repetitionがやりやすい。

    (2)自分でテストをつくる


     お仕着せのテストよりも、自分で作った方が自己関与が高い分、効果も高い。
     が、もちろん時間は余計にかかるし、めんどうくさい。
     
     せっかく辞書があるのだから、辞書の例文をつかって、覚えたい単語を虫食いにして。写す。
     これで穴埋めテストができあがる。

     さらに、辞書の例文をつかって、逆に覚えたい単語、熟語・慣用句表現だけを残して、他を虫食いにしたリバース・バージョンもつくる。
     虫食いを埋める形で、自分のことについて書く。これも自己関与が高い分、効果も高い。
     英作文の軽いトレーニングにもなる。

     同じ例文をテスト・バージョンとリバース・バージョンの2回、使い回せるのがミソである。


    (3)作った自作テストを他人と交換して解く

     どういう訳か、自作テストを自分で解くよりも効果が高いことが分かっている。
     この程度の人間関係でもあった方が、パフォーマンスが高い。
     かように、ヒトの認知機構は、社会的/対人的な関係がらみの情報に、最適化されているらしい。





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