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     日本の都市の大部分が、洪水時の河川水位よりも低いところに分布している。

    H15kokudo2-7-1-2.jpg

    出典:平成15年度国土交通白書 図表II-7-1-2 地盤の大半が洪水時の水位より低い日本の都市
    http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h15/hakusho/h16/html/F2071110.html



     その結果、洪水時の河川水位よりも低い地域は国土の10%にすぎないのに、そこに人口の51%、資産の75%が位置している。

    suigai-1-shiryou_2.jpg


    出典:平成18年8月29日「大規模水害対策に関する専門調査会」第1回会合
    配布資料2「大規模水害に係る諸状況について」http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/suigai/1/shiryou_2.pdf



     しかし「都市の大部分が、洪水時の河川水位よりも低いところ」に分布しているのは、いたしかたのないところが大きい。

     なぜなら、日本の平野の大部分は、沖積平野であるからである。
     沖積平野は、河川の氾濫によってできた平野に他ならない。
     日本で平地に暮らす人の多くは、洪水に遭うというより、洪水の跡の上に住まっているのである。

     
     しかし、一方では、人々が行ってきた「治水」が、ますます川の水位の高さを上げていった経緯もある。

     日本では、中国伝来の治水思想が長い間、有力であった。
     これは、一定の水嵩(みずかさ)以上に水位が上昇すれば、堤間にこれを蓄えるか、または堤内地へ意図的に溢出(いっしゅつ)させる築堤方式である。特定の村落や耕地あるいは城下を洪水から守るために、周囲に堤を設ける輪中などの方法がとられ、河川はその堤外を自由に流下させ、河川を堤防の間に閉じ込めようとはしない考え方であり、この思想に立つ治水工事を、川の水位の低きに保とうとすることから「低水(ていすい)工事」と呼ぶ。
     これに対して、連続堤を築き、洪水により水位が上がった際も河川を堤間に閉じ込めようとする治水工事を、「高水(こうすい)工事」と呼ぶ。

     徳川家康が日本最大の関東平野に入り、この平野を作った、洪水の度に流れを変える荒ぶる河川たち、利根(とね)川や荒川の治水を手がけることになる。
     この治水工事を監督した伊奈氏は、遊水池や二重堤など低水工事の手法も用いながらも、連続堤を築くなど高水工事の手法も取り入れていった。ここでようやく、日本の治水技術は高水工事へと力強く踏み出すこととなる。
     高水工事への転換は、高く強い堤防を可能とする護岸や水制の技術の発展に加えて、和算の発達によって築堤の体積や、上面と底面の割合などの計算が可能となったためといわれる。

     和算はやがて、それ自体を趣味とする人々が現れ、それに伴い、従来の和算家が「無用の無用」といって退けたような、ただ繁雑なだけの「解かせないためだけの難問」が増えていったが、元来は、上記のような技術を支える思考技術の面を強く持っていたのである。

     江戸時代を通じて、開墾や人口増加による市街地の拡大により、もはや洪水時には「水を逃がす」余地が狭まり、工事技術の向上とあいまって、「川除(かわよけ、水防の意味)とは堤を切らさぬ備え」という、連続した高堤の中に河川を閉じ込め洪水もその中に治めるようにする、高水工事の思想が定着していく。

     高水工法への移行は、社会の発展に伴う必然であったが、この結果として、河川は急流となり、土砂は河床にたまり、河床は高くなった。これを防ぐためには、ますます堤防を高く強いものにする必要が生まれた。河川を治するための工事が、ますます工事の必要を呼ぶという、近代のダムを用いる治水にも通じる、悪循環が始まっていた。


     幸田露伴は、川の水位の上昇が地下水の水位をあげ、これにより木の根が浅くなり、大風によって木が倒れることが多くなった事態を、その背景と共に指摘している(「望樹記」大正9年発表、『ちくま日本文学全集27 幸田露伴』『書物の王国 5 植物』他に収録 )。

     市街が東京湾へ向かって拡張し、埋め立てられた土地が増え、河の堤防はますます高くなる。あるいは橋や中州ができると、それだけ河の水面は高くなる。河の水面が上がると、地下水の水位が上がる。木の根は、本来水に浸からぬように伸びるものだ。高い木ほど、より深く根を伸ばして支えなければならないのは道理であり、従って、地下水の高いところ、水の近いところには高い木は生えない。地下水が上がると、木が根を下ろす土が薄くなることと同じになる。



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