言うまでもなく、年表は、辞書・事典と同じくレファレンス・ブックである。

     通読するものではないが、必要になる度に必要な箇所を開いて調べるための本である。

     
     だから、年表には索引が要る。

     なぜなら知りたい出来事が何年に起きたのかすべて記憶している人はいない(いても、その人には年表は必要ない)からだ。
     同じ理由で、ただ年表に登場する固有名詞を、五十音順なりアルファベット順なりに、並べただけの索引は、索引の名に値しない。知りたい出来事や人物の固有名詞を、すべて正確に覚えているとは限らないからだ。
     
     つまり、索引は、知りたいことが頭に浮かんだ時に、思い浮かべるだろう普通の言葉の下に、個々の項目が集められている必要がある。

     
     しかし世の中には時々、信じ難いことが起こる。
     たとえば「編集工学」といったことを言う人が、索引のない年表をつくるなんていうのもそうだ。

     年表をなめるな。索引を甘く見るな。できないんだったら手を出すな。

     
     比べるのも失礼だが、手本として『武江年表』を招聘する。

     祖父・父・自身の3代で『江戸名所図絵』をまとめた斎藤月岑が著わし、これに『嬉遊笑覧』の喜多村筠庭が補正を加え、さらに『名人忌辰録』の関根只誠、『日本小説年表』の朝倉無声らが書き加えを行っている。

     江戸時代の江戸という街とそこに起こった出来事について、江戸の地理の沿革から、風俗の変遷、事物起源、巷談(うわさ)、異聞(珍しい話)など百般にわたり、おそろしく細かいことまで載っている年表だ。
     そして(当たり前だが)索引も完備している。

     たとえば、「火事と喧嘩は江戸の花」なんていうが、江戸はいったい何度火事にみまわれたのだろうか。

     これには10秒で答えが得られる。

     索引の「火災」の項に、慶長6(西暦1601)年から慶応3(西暦1867)年まで、あわせて141回の火災がまとめられていて(ここがポイントだ)、それぞれのページが指示されている。

     では江戸及びその近郊を襲った洪水は? 答え47回。
     
     日食は? 9回。
     
     麻疹の流行は13回。米価高籐は22回、米価下落は2回。
     他にも、江戸には何度か甘露が降ったり、白い花が降ったりしている。

     そして火事の回数を上回ること数倍、索引でもっとも場所を占めるのは800回を超える「御開帳」である。いや、そっちじゃないぞ。
     江戸近郊はもとより、上方から、遠国から、秘蔵の仏像などが、江戸の街に運ばれて来て、一種の展覧会が催された。むろん賽銭を集めるのである。しかも祭好きの江戸っ子のこと、有り難い仏様の上京にかこつけて、神輿を持ち出し景気をつけて、ばか騒ぎすることも忘れない。この「御開帳」は、時代を経るほど、増えていく。

     『武江年表』の索引は、他にも、さまざまな事物や事件があったことを、著名人のさりげないエピソード、狐のしでかす悪事から金玉女(こんなタイトルだが、ちょっといい話)まで、さまざまな奇譚をも教えてくれる。




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