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     ヨーロッパ中世以降18世紀まで、絵画や彫刻は、「読み書きのできない(ラテン語ができない、ということ)」庶民にもわかるメディアであり、「ずぶの素人」であっても、それが何を描いたものかは、誰もが承知していることだった。

     そうした前提が崩れ、芸術作品がテーマ(主題)を掘り出して来た聖書やギリシア神話、それらより一般的ではないはないが、よく典拠となった『黄金伝説』、聖書『外典』は、読んだ人自体数えるほどになってしまい、多くの人々にとって、その絵画や彫刻が「何を描いているか」は、わからないものなってしまった。それを正当化するかのように「芸術作品は判じ物ではない」という、まことしやかな美学・芸術論が俗流にも広がり出した。

     しばらくして再び風向きが変わった。1930年代になるとアビ・ヴァールブルグという天才が現れ、彼自身はその学識を少しの断片と「図書館」という形でしか残さなかったが、彼の影響を受けた一群の学者たちが育ち、再びテーマ(主題)が芸術作品を見る際に欠かせないものとなった。その中のひとり、エルヴァン・パノフスキーが、彼の時代で最大の美術史であったことは、広く認められることである。

     ヴァールブルグの衣鉢を(そして「図書館」を)継ぐロンドンのウォーバーグ研究所やパノフスキーが築き上げたプリンストン大学美術史学科がなした知的貢献は膨大であるけれど、我々はそれらを美術館に担いで出掛ける訳にもいかない。我々はただ、18世紀までの「ずぶの素人」と同じように、彼らが当然にして承知していたことを我々も知った上で、芸術作品を眺めたいのだ。

     そのための仕事は、アマチュアの国イギリスの、アマチュア美術史家によって完成された。ブックデザインと出版を生業とするジェイムズ・ホールは、余暇を音楽と美術の鑑賞に費やして来た人だが、長年にわたる美術館通いから、信頼のおける美術図像事典の必要を痛感し、「ないのなら作ろう」と7年の歳月をかけ、ウォーバーグ研究所やパノフスキーの仕事は無論のこと、その後も進んだ美術史研究について周到な調査・研究を行い、この書Hall's Dictionary of Subject and Symbolsを完成させた。

     この方面に明るくない人であれば、この事典は、あなたの絵の見方を根本的に変えてしまうだろう。

    search4ways.png


     たとえば羽の着いた男に導かれ、自分の手から魚を下げた男が「何者」かを(たとえ《タイトル」という重要な情報が欠けていたとしても)、たちどころにして、この書は教えてくれる。

     あなたが聖書外典に精通しているなら、この絵のシーンはトビト書の一シーンであり、羽の着いた男は大天使ラファエルで、導かれるのは盲目の父親が遠方の友人に貸した金を回収するために旅をしている少年トビアスであり、やがて物語が進むと、この魚の肝がくすりとなって父親の視力を回復させることを思い出すかもしれない。
     しかし、そんなことがわかる人は、少ない。


     この辞書があると、探索は以下のように進む。

     たとえば、「自分の手から魚を下げた男」の「魚」に注目しよう。
     この辞書で「魚」を引けば、西洋美術における「魚」の象徴的意味の解説だけでなく(多くの象徴事典、図像事典は、ここまでである)、西洋美術に描かれていて「魚」が登場する物語とその筋を列挙してくれている。この中で「天使に付き添われ、魚を携えている人物」は「トビアス」その人だとわかる。
     あるいは、羽を付けた男(天使である)の足下にいる「犬」に注目することもできる。「犬」の項目にも、その象徴的意味に加えて、トビアスと天使に随行した犬について触れられている。
     さらに詳しいことは「トビアス」の項目を、そしてそこでも分かる天使の素性(大天使ラファエル)から、「ラファエル」の項目を引くと、「守護霊として代表的な天使、特に若者の庇護者として知られる」とあり、「美術においては、なによりもまず、若者トビアスの伴侶として描かれることが多い」と書かれている。

     


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    J・ホール

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    (内容は同じの旧版)西洋美術解読事典―絵画・彫刻における主題と象徴


    (上の原著)
    Hall's Dictionary of Subjects and Symbols in ArtHall's Dictionary of Subjects and Symbols in Art
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    James A. Hall

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