当人(たち)にとっては「問題解決への努力」に思えることが、むしろ逆に問題の存続を支えていることが、ままある。

     そういった「問題」は、ただ「存在」しているのではなく、繰り返し再生産されることで「存続」している。
     「問題解決への努力」に思えることが、問題の再生産過程の一部になっているのである。
     つまり努力すればするほど、その問題は強固に居座りつづけるのだ。

     この逆説的な「問題」は、人が思うほど特別なものではない。
     我々のすぐ近くにいつでも転がっている。
     その意味では、平凡で普通の事態だ。


     身近な、私たちの「身」に起こる例をあげよう。
     
     たとえば、「不眠症」と呼ばれるのものは、その呼ばれ方とは異なり、「眠れない」という病ではない。
     本人の眠ろうと努める努力が、本人を余計に興奮させ、覚醒させるという「悪循環」をそう呼んでいるのだ。

     そして、ひとつの渦が、より小さな渦を伴うように、こうした悪循環は派生的な悪循環を生み出し、派生的悪循環は、元の悪循環をより抜け出し難いものにする。

     再び「不眠症」の例に戻るなら、眠ろうとする努力がいつも裏切られることが、本人に失望や自己嫌悪や怒りといった感情を惹起させ、余計に本人を覚醒させるというプロセスがある。

     では、眠ろうという努力を止めれば、問題は解決するだろうか? 
     もしそれだけで抜け出せるなら、悪循環は容易に解けるだろう。
     実際は、「努力を止める」という裏口にも、別の悪循環へのトラップが口を開けている。

     「努力を止める」ということは、具体的には何を「する」ことだろうか?
     「何もしない」ことは案外難しい。そして、この課題を「難題」と認めた途端、「何もしない」ことを目指す努力、「努力しない」ことを努める努力が、始まってしまう。
     「なにもしない」ではなく、覚醒と両立しない何かを課題にする必要がありそうだ。


     たとえば、できるだけ骨が折れてくだらない無意味な課題を「処方」する「過重課題」と呼ばれるものがある。

     ミルトン・エリクソンは、手ごわい不眠症を長年わずらっている男に、ベッドに入りある時刻まで眠れなかったら、起きてきて一晩中、床を磨くことを「処方」した。
     男は3晩目に根を上げて、倒れるように眠り込んだ。

     エリクソンの弟子といっていいジェイ・ヘイリーは、別の不眠症の男に、ベッドに入って、一晩中じっと目を開けていること(瞬きすら禁じる)を「処方」した。

     彼らの「処方」は、結局は守ることができない指示になっている。
     そして、指示に従わない(従えない)ことが、すなわち問題の解決(少なくも悪循環からの出口)に他ならないところがポイントである。
     パラドクス的な状況を、別のパラドクスを「処方」することで、組み変えている、とも言えるだろう。

     「私に従うな」という命令が、いずれにせよ、従うことができないことを思いだそう。
     もし命令に従おうとすれば、命令に反しなければならない。
     もし命令に逆らおうとすれば、それは命令どおりということになる。


     もうひとつ別の介入例を。

     病的でない一時的な「ふるえ」は、これを止めようとすることで、筋肉を緊張させ、余計に「ふるえ」を引き起こしてしまう。
     解決の努力が、ここでも問題の一部となっている。

     この種の悪循環に対する「処方」のひとつは、「症状処方」と呼ばれる。
     何故なら、問題になっている当の「症状」を指示する処方だからだ。
     
     今の例で言えば、「ふるえ」という症状を抑えることができない悪循環を組みかえるのに、症状を持っている人に対して
    「もっと、ふるえてください。もっと大きく、もっと速く」
    という指示が出される。

     指示通りに、より「ふるえる」ことができれば、それは「ふるえ」をコントロールできたことになる。
     実際、より「ふるえる」ことができた場合には、しばらく「ふるえて」もらった後、「もういいですよ」と声をかけると、ふるえが止まる。 

     また、指示に反しても、それは「ふるえない」ということだから、症状は収まったことになる。




    アンコモンセラピー―ミルトン・エリクソンのひらいた世界アンコモンセラピー―ミルトン・エリクソンのひらいた世界
    (2000/12)
    ジェイ ヘイリー

    商品詳細を見る


    戦略的心理療法―ミルトン・エリクソン心理療法のエッセンス戦略的心理療法―ミルトン・エリクソン心理療法のエッセンス
    (1986/10)
    高石 昇ジェイ ヘイリー

    商品詳細を見る


    家族内パラドックス (サイコブックス)家族内パラドックス (サイコブックス)
    (1987/10)
    長谷川 啓三

    商品詳細を見る
    関連記事
    Secret

    TrackBackURL
    →http://readingmonkey.blog45.fc2.com/tb.php/316-daaae185