和音の基本は、「五度」である。周波数にして1.5倍の音を重ねる。
     たとえばC(ド)にG(ソ)を重ねる。

     これを繰り返すとC→G→D→A→E→B→F#→C#→Ab→Eb→Bb→F→Cと12回で一巡する。

     たとえば中国音階はこの「五度」の旋回として作られている。
     「五度」旋回の螺旋を描いてみよう。
     ちょうど7オクターブ高いCと、「五度」の螺旋は交わる。
     12の「五度」と、7オクターブは重なり合うわけだ。

     一方、オクターブは、倍数を基本とする。
     Cと1オクターブ高いCは、周波数にして2倍違う。
     
     そして1.5と2は通約しない。
     「五度」の系列とオクターブの系列は、数学的基盤で繋がることがない。
     7オクターブ高い音は、周波数にして2の7乗=128倍の音である。
     しかし12の「五度」は、厳密には1.5の12乗=129.75倍である。
     この両者の比1.0136が、「ピタゴラスのコンマ」と云われる、和音の原理とオクターブの原理のギャップである。

     中国音階は、オクターブに固執せず、「五度」の旋回による十二の音に基づいた調性を定めた。
     その結果、Cと(最後にもどってくる7オクターブ高い)Cとは、正確に倍数の関係にない、互いに正確にはアイデンティファイできない音となった。

     古代ギリシャでも、「五度」旋回の終わりとオクターブの終わりが重ならないために、様々な折り合いの付け方、様々な旋法があった(イオニア、ドリア、フリギア、リディア、ミクソリディア、ロクリア)。

     これら「純正律」(「五度」の調和音を重んじた仕方)に対して、「五度」旋回の終わりとオクターブの終わりがぴったり重ね合う仕方が現れた。
     「ピタゴラスのコンマ」の小数部分を12等分し、それぞれオクターブ内の各12音から差し引く。
     この結果、「五度」は正確に1.5倍でなく、1.4983倍に「変換」される。つまり「五度」の方をオクターブに合うように切り詰めた(圧縮した)のである。

     音階はもはや「五度」とオクターブの間でどこか「たるんで」いるものではなくなった。かくて音階空間は均質化され、かつて相互に移行不能であったあらゆる調に転調が可能となった。

     移調、転回、逆行、拡大といった音楽的操作は、実のところ「楽譜」を一つのグラフ(図形)=幾何学的対象とみるところの、平行移動、対称変換、アフィン変換、相似変換といった幾何学的変換に対応している。

     これはつまり、デカルト幾何の先駆である近代記譜法によって、すでに「(均質空間での)幾何学的表現」を手にしていた音楽が、ようやく「幾何学的本質」を獲得できるような(その表現空間と同じく)「均質空間」に引き移されたということだ。

     この純正律より「低い」、引き縮められた「均質な」音階空間を平均律Gleichstufige Stimmungと呼ぶ。




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