不躾なことを言えば、誰かが読んだ本なんて興味がないのだ。
     だから「釣った魚」じゃなく、その「釣り竿」の方をよこしてくれ。

     そのようなことを長らく考えていた。

     もっとも「釣り竿」=本の見つけ方、出会い方、探し方について、自分でも書き始めたのは、随分最近になってからなのだが。


     実は、本の「釣り竿」について書くのなら、真っ先に紹介すべきだった本がある。
     
     あの『日本書誌の書誌』や『日本の参考図書』と並べられるべき仕事であり、いや後で述べる理由から、その両書よりも先に紹介すべきだと考えられる書物である。

     ところが、たとえば『情報源としてのレファレンスブックス』のような版を重ねたこの方面の案内書は、この本をとりあげていない。

     何故だろう? 

     ようやく、その答えが思いついた。

     これは、レファレンス・カウンターの内側にいる者よりむしろ、その外側にいる者こそが手にすべきレファレンスブックなのだ。

     
     世の中には、参考図書(レファレンスブック)と呼ばれる書物がある。

     その中に事項を集成した辞典、事典はその一種である。こちらの方が一般に親しまれている。
     辞典、事典でないレファレンスブックの代表的なものが、書誌である。
     書誌は、索引と同様に、他の文献への案内や指示を任務としている。我々を一次文献に導いてくれる二次文献である。
     書物についての情報、書物の体裁・内容・成立の事情、またこれらについての記述を書誌というが、レファレンスブックとしての書誌は、特定の主題について編集された文献リストをいう。書物についてのリンク集のようなものだ。

     よくできたリンク集が検索の手間を省かせ、時には独力では出会えなかったサイトへと導いてくれるように、書誌もまた書物について同様のことをしてくれる。書物には、そのコンテンツまでを網羅的に検索できる検索エンジンはないから、書誌にはサイトにおけるリンク集以上の価値がある。

     さて、世にある数多の本を、それぞれの主題から切り取った様々な書誌が存在することは想像に難くない。
     それらの書誌を探すために、「書誌」を主題にした、つまり書誌という書誌をリストアップした書誌が存在する。すなわち我々を二次文献へ導いてくれる三次文献である

     天野敬太郎『日本書誌の書誌』を、そのような本の代表として取り上げても咎は生じないだろう。
     天野敬太郎については別に書くかもしれない(随分前につぶやいた「マッド・ヒューマニスト/人文学における「狂」の系譜」の第一回目に登場させようと思っていたのだけれど、すご過ぎて、未だ書けそうにない)。

     世の中に完全な書誌はない。
     書誌作成者はそれを知りながら、しかしその主題についての完全な書誌を目指す。そのテーマに関するすべての書物を挙げ尽くそうという、狂おしいばかりの情熱なくしては、書誌はそもそも企てられさえしない。こうした情熱に駆動されているからこそ、書誌は、素人が逆立ちしてもたどり着かないような文献を、その懐に抱くことができるのだ。

     書誌の書誌である、この『日本書誌の書誌』には、その青い炎のように涼やかにさえ見える情熱が倍加されている。

    日本書誌の書誌 (主題編3) (文圃文献類従 (9))日本書誌の書誌 (主題編3) (文圃文献類従 (9))
    (2006/09)
    天野 敬太郎

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    日本書誌の書誌〈総載編〉 (1973年)

    日本書誌の書誌〈主題編 1〉 (1981年)

    日本書誌の書誌〈主題編 2〉―芸術・芸能・語学・文学

    日本書誌の書誌〈人物編 1〉芸術・芸能・語学・文学


     書誌といっても、一冊の書物をなすものばかりではない。自分の関心から、いくらかの書物についてリストを作ればそれが書誌なのだから、世に書物の種が尽きぬように、書誌の数など限りがあるものではない。ごく限定された人間にだけが目にし得る、全部で10部しか刷られない私家本の書誌など、いくらもある。
     しかし、そういう見逃しても良さそうなものまで、天野の目から逃れるものなどないのだろうかと驚嘆せざるを得ない、『日本書誌の書誌』はそんな本なのだ。地方のどうでもいい歌詠み仲間たちのつくった同人誌に、ほんの数ページのった書誌だとか、正直言ってそんなものない方がいいんじゃないかというものまで、天野の手は逃さない。

     『日本の参考図書』については、何度か触れたことがある。

    日本の参考図書日本の参考図書
    (2002/09)
    日本図書館協会日本の参考図書編集委員会

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     書誌に限らず、辞書・事典を含めた参考図書のうち代表的なものを、日本十進分類に基づき分類した「参考図書の参考図書」である。

     
     さて、いま三次文献、レファレンスのレファレンスで、代表的なものを2つあげたが、これらは基本的にライブラリアンのツールである。
     日本十進分類といったが、あらゆる書物、あらゆる知へのゲートウェイとして、それらへの案内・参照を体系立てて格納したものが、今挙げたレファレンスのレファレンスだ。
     原理的には、誰のどんな知的好奇心がたずねてきても対応できるようにライブラリアンは備えなければならない。だからこそ、そうしたすべての知についての分類体系が必要だし、そうした体系に基づき参考図書を配した書物が必要なのだ。

     しかし我々は、一般の図書館ユーザーは、自分の関心のある書物、広げて関心のある分野の書物たち(への書誌)だけを手に取ればいいのであって、すべての知に手を広げる必要はない。

     一ユーザーとして『日本の参考図書』を広げたとしよう。
     例えば、あなたは今、宮沢賢治についての本を探している。
     この時、『日本の参考図書』のどのページを開くべきだろうか?
     この本の分類体系に沿って、いわばトップダウンに、今の場合ならば、文学→日本文学→文学者→近代へと、より大きなカテゴリーからより小さなカテゴリーへと降りていく。
     わかりやすさのために簡単にいえば、これがレファレンスを使う者(レファレンサー)の思考過程だ。あるいは、これこそレファレンス・ワークと呼ばれているものの骨法だ。
     しかし、分類体系に親しんでいない一ユーザーなれば、体系を順に降りてくることなどせずに、まずは索引に当たるだろう。我々は本を探しているのだから書名索引は使えない※。
     『日本の参考図書』には、あと事項索引がある。だが、事項索引になければ?
     その時は分類体系に戻り、自分が探しているものがどのカテゴリーの下位項目なのかに思いめぐらせる必要がある。

    >※実際はテーマをタイトルにした本は少なくないから書名索引は強力な武器になる。逆に、写っているもの(被写体)とてんで関係のないタイトルがつけられることの多い写真集などは、レファレンサー泣かせである。この方面で先鞭を付けたのが『写真集全情報45‐90』(日外アソシエーツ)だった。15000の写真集・写真関連書籍を集め、それらを被写体について分類してある。後続書に『画集写真集 全情報91/96』『画集写真集全情報1997-2001』『画集写真集全情報2002‐2006』がある。

     
     ここまできて、片山喜八郎・太田映子共編『邦語文献を対象とする参考調査便覧』(書誌研究の会)について話すことができる。
     『邦語文献を対象とする参考調査便覧』もまた、ライブラリアンのツールであり、NDCに基づき周到に分類統制されている。
     扱うのは書誌はもちろん、ほとんどあらゆるレファレンス関連書籍、すなわち、解題、研究史、書誌、物品目録、巻末・章末参考文献、年譜、年表、年鑑、年報、白書、統計、人名事典、団体・機関名簿、辞典、事典、索引、便覧、総覧、ハンドブック、雑誌目録、総目次、総索引、AV資料、図鑑、図版、地図などである。

     では、何が違うのか?

     いつにもまして長い枕から想像がつくように、『邦語文献を対象とする参考調査便覧』では、分類体系を降りていく必要がない。恐ろしい数(3万!)の主題語索引があって、探したい事項をひけば、ほぼダイレクトに必要な個所へ到達できる。
     これだけのキーワード検索を用意しながら、編者は索くよりも、NDCを頼りにこのレファレンスを読んでいくことを推奨しているが(確かにそれはレファレンサーの頭脳を強靭たらしめることだろう)、そう申し添える必要を感じるほどの主題語索引と言うこともできる。

     1986年に刊行された初版にして、これだけの書物であった。
     現行版は、元々CD-ROMで提供される予定で、これに一覧性を補う目的でキーワード一覧の別刷りがつくというものだったが、求める声に押されて書籍版(CD-ROMの補遺版付き)も提供されている。詳しくは書誌研究の会のページをご覧あれhttp://www.cc9.ne.jp/~shoshi/sankou.html
     ぜひとも、図書館で手に取り、書誌やその他参考図書を使って書物の森に遊ぶ愉楽に浸っていただきたい。






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