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    Google v.s. 図書館 「調べる力」を競う 読書猿Classic: between / beyond readers Google v.s. 図書館 「調べる力」を競う 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    のつづき。


    司書:では、役割を決めましょう。あなたには、インターネットでの検索をお願いできますか?
    少女:あ、はい。
    少年:ぼくは冊子体ですか?
    司書:そうです。逆の方がいいですか?
    少年:かまいません。
    司書:では、さっそく取りかかってもらいましょう。


    Q1.山田詠美の作品に関する書評をできるだけたくさん見たい。


    司書:まず、何をしますか?
    少女:あまり思いつきません。……「山田詠美 書評」と入力してGoogleで検索する、というのはダメですか?
    司書:そんなことはありません。やってみましょう。

    google_icon.jpg
    G-A1-1.「山田詠美 書評」でググる

    少女:約 29,100 件……。
    司書:1分間に1件、毎日8時間読むとすると61日ほどかかりますね。
    少女:うーん、現実的じゃないですね。
    司書:どうしますか?
    少女:すみません。少し考えます。
    司書:わかりました。その間に彼の方を見てましょう。

    少年:ネット検索は使っちゃいけないんですよね?
    司書:ええ、できれば。
    少年:……じゃあ、まず山田詠美のデビューした年を……たしか1985年だったと思うけど。
    司書:それも調べて下さい。
    少年:うーん、ネットだとすぐなんだけど……じゃあ、『新訂現代日本人名録』を使ってデビュー年を確認します。そうしたら、デビューの年の分から1年ずつ『書評年報 文学・芸術・児童編』を見ていきます。これには書名索引、書評者名索引の他に、書評された著訳編者の索引がありますから。これで主要新聞および雑誌数十紙誌に掲載された書評をリストアップできます。
    司書:しかし『書評年報』は2000年版で惜しくも終刊しています。
    少年:2001年以降は、『出版ニュース』(月3回発行)に掲載される「新聞・雑誌書評リスト」の一年分の累積版が『出版年鑑』資料・名簿編に載りますから、それを見ます。
    司書:ここまでは良いでしょう。しかし、ここからが難問です。
    少女:どうしてですか?
    司書:『書評年報』というレファレンスは、どの新聞のいつの日のものに、あるいはどの雑誌の何年何月号に、誰が書いたどんな書評があるかを一度に調査することができるのですが……。
    少女:すごい。
    司書:しかし書評そのものが載っている訳ではありません。
    少年:新聞なら、大抵の図書館に縮刷版があるんだけど。
    少女:雑誌はないの?
    少年:あるけど、ふつうの公立図書館だと、そう何年も保存してないんだ。新聞も本紙そのものは廃棄されるけど、縮刷版だとかマイクロフィルムみたいに保存用のものがある。だけど雑誌は……。
    司書:所蔵している他の図書館に複写を依頼することもあります。ただ、今回のような場合、その量が問題になってくるのです。あるひとつの書物の書評を集めるというのであれば、せいぜい数十件でおさまるでしょう。しかし25年間、四半世紀の間、執筆活動を続けて来た作家の書評すべてとなると、かなりのものになるでしょう。
    少女:あの、ひょっとしたら……。
    司書:はい、なんでしょう?
    少女:最初に作品リストみたいなものを調べてからの方がよかったんじゃ……。
    司書:そのとおりです。それから、これは今回の課題を越えることになりますが、これを調べてどうしようというのか、その目的を依頼者に問い尋ねることも必要でしょう。彼の必要や知的好奇心を満たすのに、もっと別のアプローチがあり得るかもしれません。こうした量のかさむことが予想される調べもので、依頼者がそのことに気付いていない場合はなおさらです。
    少女:そうなんですか?
    司書:不思議に思われるかもしれませんが、何を調べたいのかを小出しにする方がおられるのです。いいえ、ほとんどの方がそうされると言った方が正確かもしれません。目的をぼやかした方が、断られにくいようにお感じなるのかもしれません。たとえば、ニューヨークタイムスのある記事を探している方は、多くの場合最初は「英字新聞はおいてないか?」と質問されます。ございますと答えると「ニューヨークタイムスはあるか?」、これにもございますと答えると「**年頃の記事が見たいんだがあるだろうか?」。すぐに気付かれるように、私たちの方からまず「何をお探しですか?」、そして「お知りになりたいのは何でしょう?」と質問すべきなのです。探している当のものがなくとも、目的を知っていれば、代わりになるものや、その目的にもっと適したものを提案することができます。


    library_icon.jpg
    L-A1.
    (1)『新訂現代日本人名録』(日外アソシエーツ)で「山田詠美」を調べ、デビューの年(1985年)を確認。
    (2-1)『書評年報 文学・芸術・児童編』(書評年報刊行会)を1985年分から見ていく。
    ……新聞、一般紙、週刊誌、季刊誌(合わせて約100誌)に収録された書評の書誌データを収録。各年版ごとに書名索引、書評者名索引、著訳編者名索引から検索できる。1971~2000年をカバー。他に人文・社会・自然編あり。
    (2-2)2001年以降は『出版年鑑』資料・名簿編にある主要全国紙と文芸誌および週刊誌から収集した「新聞・雑誌書評リスト」を見る。
    (3)集めた書評のリストから、掲載紙などを探す。今いる図書館になければ、所蔵館を探し複写依頼などを行う。

    google_icon.jpg
    G-A1
    (1)「山田詠美 作品リスト」でググる。→「山田 詠美 作品一覧: 紀伊國屋書店BookWeb」(全131件)等が見つかる。
    (2)「(作品名) 山田詠美 書評」、たとえば「タイニ-スト-リ-ズ 山田詠美 書評」ででググる(→61件)。



    Q2.「不撓不屈」という言葉の出典は?


    司書:今回はあなたからどうぞ。
    少年:漢語なので、とりあえず『大漢和辞典』(大修館書店)を引きます。出典が分かったら『中国学芸大事典』(大修館書店)を見て収録資料を調べます。
    司書:では、お願いします。……あなたはどうしますか?
    少女:……なんだか、すごいですね。
    司書:『大漢和辞典』と『中国学芸大事典』は、どちらもこの分野では定番といえる本です。言葉の出典を尋ねる人は実に多いものですから、その解決方法はルーチン化しているところがあるのです。しかし尋ねる人にとっては、はじめての問題です。「不撓不屈」という言葉はご存知ですか?
    少女:読み方くらいなら……。「ふとうふくつ」ですよね?
    司書:そのとおりです。
    少女:googleで検索してみます。……約 38,200 件。
    司書:しかし、今の場合は、すべてを見る必要はありません。
    少女:はい。「四字熟語データバンク」というところに「不撓不屈(ふとうふくつ)の意味や語源、英訳などを一覧で掲載。」とあるので見てみます。

    * 意 味: どんな困難に出会ってもけっして心がくじけないこと。
    * 解 説: 「撓」はたわむ意。「不屈不撓(ふくつふとう)」とも言う。
    * 出 典: 『漢書』
    http://www.sanabo.com/words/archives/2000/08/post_586.html

    司書:収穫があったようですね。
    少女:ええ。出典は『漢書』だそうです。今度はこれを検索すればいいですね?
    司書:そうですね。やってみましょう。
    少女:Wikipediaに項目があるみたいです。あとGoogleブックの検索結果と、Amazon.co.jpに漢書〈1〉帝紀 (ちくま学芸文庫): 班 固, 小竹 武夫: 本 というのが。
    司書:Wikipediaを見てみましょう。最後の方まで行くと、邦訳文献というのがありますね。
    少女:はい。これで、どんな本があるかがわかりますね。「全訳」というところに、「改訂版 ちくま学芸文庫 全8巻」とあります。あとはこの本を図書館で探して確認すればいいんですね。……でも、どこに載っているのか、どうやって探すんだろう?
    司書:大切な点に気付きましたね。
    少女:……そうだ。Wikipediaの「漢書」の記事の最後に「ウィキソースに漢書の中国語原文があります。」って。これで探したらどうでしょう?
    司書:そうですね。やってみましょう。
    少女:……章に別れてるんですね。これだと、どこの章に書いてあるか知らないと。
    司書:もう少し詳しい出典情報が必要なようですね。
    少女:もう一度、検索してみます。……なにか、ふりだしに戻ったみたいですね。
    司書:そうではありません。検索する前は「不撓不屈」という言葉が『漢書』に載っていることを知りませんでした。しかし今は知っています。先ほどは「不撓不屈」で検索しましたが、今なら「不撓不屈 漢書」で検索することができます。検索で見つけた言葉を、次の検索語に加えることは、検索エンジンの基本的な使い方にかなったものです。検索エンジンを使って私たちが行っているのは、実は何かを見つけることではなく、逆に篩(ふるい)にかけることなのです。先ほどは「不撓不屈」という検索語をつかって、「不撓不屈」という言葉が載っていないサイトをふるい落としました。今は「不撓不屈」と「漢書」という検索語を使って、両方が載っていないサイトをふるい落とします。
     我々は既知の言葉しか検索語に使うことはできません。ここには、知るためにはあらかじめ知っていなくてはならないという、あらゆる探しものが持たざるを得ない逆説性のひとつの側面があります。しかし、ふるい落とした末に残ったサイトを読むことで、既知の検索語からはじめて、既知でない何かを知ることができるのです。
    少女:「漢書 不撓不屈」で検索したら、「出典『漢書』叙伝」と書いてあるところがありました。叙伝のところを開いて、検索してみます。

    少女:あれ? 検索してもないみたい。「敍傳 上」にも、「敍傳 下」の方にも。
    少年:……何してるの?
    少女:「不撓不屈」って言葉、『漢書』叙伝にあるのが分かったから、原文のどこにあるか確かめようと思って。でも、見つからないの。
    少年:ウィキソース? うーん、漢文の検索は、オススメじゃない。面倒なんだ。
    少女:どういうこと?
    少年:まず文字が違う。簡体字と繁体字。日本の今使われてる表記は、原文と違う文字を当ててることもある。あとテクストにもいろいろあって、原文といっても同じじゃない。
    少女:うーん。
    少年:……どうしても、っていうなら、まだGoogleで探した方がいい。
    少女:どうするの?
    少年:いまのウィキソースの中からさがすなら「不撓不屈 site:zh.wikisource.org」とする。
    少女:44 件。でも『漢書』はないみたいね。
    少年:じゃあ今度は世界中から探す。日本語サイト以外を探したいから、検索語に「-は」を加える。
    少女:それ何?
    少年:おまじない。助詞はどんな文章にも出て来て、出現率も30~40%と一番高い。「が」でも「に」でもいいんだけど、「は」が入っているサイトは日本語サイトだとして、「-は」で「は」が入っていないサイトだけを残す。
    少女:「不撓不屈 漢書 -は」でいいのね?
    少年:あと「日本語のページを検索」じゃなくて、「ウェブ全体から検索」を選んで。
    少女:いろいろ出たけど、どれを見る?
    少年:これ。「不橈(撓)不詘(屈)」って文字のバリエーションを教えてくれてる。

    ◆孟子公孫丑上:「公孫丑問曰:『不動心,有道乎?』孟子曰:『有,北宮黝之養勇也,不膚撓,不目逃。』」
    ◆ 《漢書》敘傳下:「 樂昌篤實, 不撓不屈。」
    ◆東漢‧班固《漢書‧敘傳下》:「樂昌篤實,不橈(撓)不詘(屈)。」

    (「成語:不屈不撓」 http://www.bookstrg.com/Readstory.asp?Code=SS200819

    少女:「フトウ」の「トウ」手篇じゃなくて木篇なんだ。あと「クツ」の方にも言篇がついてる。
    少年:今度はこれで探そう。「不橈不詘 漢書 -は」
    少女:あ! さっきのウィキソースの『漢書』が出てきたわ。
    少年:ウィキソースの『漢書』だけに絞り込むよ。「不橈不詘 inurl:zh.wikisource.org/zh/漢書/」
    少女:「敍傳」じゃないのね。それに「不橈不詘」とひと揃いじゃない。
    少年:じゃあもう一度、ネット全体で探す。原文を見つけたいから、今度はもっと長めの検索語を使う。さっきのサイトに「樂昌篤實,不橈不詘」とあったから、それを使おう。
    少女:あ、これ! 「漢書: 傳: 敘傳: 敘傳下- 樂昌篤實,不橈不詘,遘閔既多,是用廢黜 」だって。

    《敘傳下》

    82 敘傳下:
    樂昌篤實,不橈不詘,遘閔既多,是用廢黜。武陽殷勤,輔導副君,既忠且謀,饗茲舊勳。高武守正,因用濟身。述王商、史丹、傅喜傳第五十二。
    http://ctext.org


    少年:「中國哲學書電子化計劃」って、中国の哲学書なんかを電子化してるところみたいだ。左側に儒家とか墨家とかメニューがある。史書>漢書>傳>敘傳下にあったみたいだね。検索窓もあるから、ここから検索するといいみたいだ。あと、メニューの一番上に「簡體」というのがある。クリックすると、
    少女:文字が変わった?
    少年:簡体字に切り替わったんだ。このサイト便利だ。覚えとこう。

    82 叙传下:
    乐昌笃实,不桡不诎,遘闵既多,是用废黜。武阳殷勤,辅导副君,既忠且谋,飨兹旧勋。高武守正,因用济身。述王商、史丹、傅喜传第五十二。


    library_icon.jpg
    L-A2.
    (1)『大漢和辞典』(大修館書店)で引き、出典を確認する。
    (2)出典が分かったら『中国学芸大事典』(大修館書店)を見て収録資料を調べる。
    (3)小竹武夫訳 『漢書』 (筑摩書房、1977-1978)を見て確認する。

    google_icon.jpg
    G-A2-0.
    「不撓不屈 出典」でググると、
    「「不撓不屈」という言葉の出典元を知りたい。また、該当部分の解釈(日本語)を知りたい。 | レファレンス協同データベース」
    http://crd.ndl.go.jp/GENERAL/servlet/detail.reference?id=1000023700

    というページが見つかる。これを見れば正解及び回答プロセスが分かる。

    G-A2-1.
    本文参照

    G-A2-2.
    (1)Chinese Text Project(http://ctext.org/ 本文で最後に登場した「中國哲學書電子化計劃」の英語フロントページ)を開いて、左下の検索窓に「不橈不詘」と入れると(「不撓不屈」ではダメ)、原文を検索してくれる。



    Q3.漱石の『三四郎』に「十六武蔵ぐらいの大きさの薄い円盤」という表現があるが、いったいどれくらいの大きさか?


    司書:漱石の『三四郎』は、お読みになりましたか?
    少女:はい。でも「十六武蔵」って覚えてません。
    司書:では確認しておきましょう。ネットでまず『三四郎』の原文を探してみて下さい。
    少女:はい。えーと、「三四郎」で検索して……。最初の2つはWikipediaとあるから、これかしら? 
    少年:……最初から「三四郎 十六武蔵」でいいのに。
    司書:おほん。
    少年:……。
    司書:見つかりましたか?
    少女:はい。ここですね。

     隣に田村という小説家がすわっていた。この男は自分のインスピレーションは原稿の催促以外になんにもないと答えたので、大笑いになった。田村は、それから改まって、野々宮さんに、光線に圧力があるものか、あれば、どうして試験するかと聞きだした。野々宮さんの答はおもしろかった。――
     雲母か何かで、十六武蔵ぐらいの大きさの薄い円盤を作って、水晶の糸で釣るして、真空のうちに置いて、この円盤の面へ弧光燈の光を直角にあてると、この円盤が光に圧されて動く。と言うのである。

    http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/794_14946.html


    少女:こんな実験の話だったなんて。
    司書:ええ。「光線の圧力」についての実験は『三四郎』の中で重要なエピソードです。2章の最初で、主人公は郷里の母からの手紙に促されて理科大学に野々宮氏を訪ねます。そのとき見せられるのがこの実験です。その後、実験室から出て池のはたで思いを巡らせている主人公は、ヒロインと出会います。
    少女:美禰子と。そういえば、そんな感じでした。実験の説明は、正直よく分からなかったです。
    司書:この実験を漱石に紹介した寺田寅彦は、一度聞いただけで見たことのない実験がかなりリアルに描かれていると書いていますが。寅彦は、漱石の弟子で物理学者、野々宮氏のモデルだと言われています。
    少女:そうなんですか。
    少年:ぼくは十六武蔵を調べて来ます。
    司書:ええ。何を見ますか?
    少年:まず百科事典を。あとゲームか玩具関係の専門事典……には、どんなものがあるか知りませんから、『日本の参考図書』と『邦語文献を対象とする参考調査便覧』を見て、事典を探します。
    司書:なるほど。ひとつ言ってもいいですか?
    少年:何ですか?
    司書:私なら、最初から『漱石全集』の索引を使って「十六武蔵」を探します。現代人にはあまり知られていないこの言葉に、全集編集者ならおそらく注釈をつけているでしょうから。これだと原文の確認と目的の探索が一度に済みます。
    少年:……。


    library_icon.jpg
    L-A3-1.
    (1)百科事典で「十六武蔵」を調べる。
    →室内遊戯、盤の上で駒を動かして対戦する遊びであることがわかる。
    (2)『日本の参考図書』や『邦語文献を対象とする参考調査便覧』で専門事典を調べる。
    →斎藤良輔『日本人形玩具辞典』(東京堂出版、1997)などが見つかる。
    (3)専門事典で「十六武蔵」を調べる。

    L-A3-2.
    (1)『漱石全集』(岩波書店、1993-2004)の総索引(第28巻)を使って「十六武蔵」を探す。
    →(『我が輩は猫である』(第1巻)、『三四郎』(第5巻)に出てくることがわかる)
    (2)『三四郎』の「十六武蔵」のところについた注釈を見る。


    google_icon.jpg
    G-A3.
    (1)「"十六武蔵"」でググる。
    →紹介したサイトで遊び方などがみつかる。
    (2)「"十六武蔵"」で画像検索。
    →映像を見ることもでき、大まかな大きさは分かる。
    (3)「"十六武蔵"」で動画検索。
    →実際に遊んでいる映像があれば、さらによく分かるのだが、該当のものは見つからなかった。



    Q4.第二次グラッドストン内閣の時代に、ニューヨークからロンドンへ行くには、どんな経路で、運賃はいくらだったか?

    少女:こんなこと、分かるんですか?
    少年:……分かるよ。先生、グラッドストン内閣を調べて来ます。
    司書:どうしますか?
    少年:百科事典と人名事典でグラッドストンの項目を見ます。あとは……その後、考えます。
    少女:……探し方、思いついてないんですね。
    司書:気になりますか。
    少女:はい。……あの、私、全然気にしてないので、その。
    司書:やさしいですね。しかし、あれはいけません。
    少女:すみません。
    司書:あなたが謝ることではありません。ですが、あなたに免じて、私から折れることにしましょう。さて、ウィリアム・エワート・グラッドストンは、19世紀イギリス自由主義を代表する政治家のひとりです。『世界大百科事典』(平凡社)によると、彼の第二次内閣は1880年から1885年にかけて、ということです。
    少女:はい。
    司書:思い出されたかもしれませんが、1880年というのは、アフガニスタンで従軍していたドクター・ワトスンがロンドンに帰って来た年にあたります。戦線で負傷したドクターは軍の輸送船で送還され、1880年11月26日にポーツマスに到着します。ポーツマス・ハーバー駅からはL&SW(ロンドン・アンド・サウスウエスタン鉄道)でロンドンに向かいました。物語に記述はありませんが、L&SWのロンドンでの終着はウォータールー駅です。ここから滞在先となるストランド・ストリートのプライベート・ホテルへ、これも物語にはありませんが、旅の荷物を抱えたドクターは辻馬車を使ったでしょう。彼がたどった道筋を確かめたいと思ったら、シャーロック・ホームズの物語が始まる年のロンドンを詳しく知る必要があります。さて私たちは何を調べればよいでしょう? ロンドンに行かれたことは?
    少女:ありません。
    司書:では、これからロンドンへ行くとしたら何をご覧になりますか?
    少女:ロンドンへ旅行にいくのだから……ガイドブックですか?
    司書:すばらしい。
    少女:えっ?これが「答え」ですか?
    司書:そうです。彼を助けてあげて下さい。
    少女:あ、はい。行ってきます。

    少女:あ、いた。
    少年:図書館を走ったら怒られるよ。
    少女:そうだった。ちがうの、思いついたわ。
    少年:何を?
    少女:知らない街へいくとしたら何を見る?
    少年:何って……。
    少女:グラッドストンって、シャーロック・ホームズの時代のイギリスの首相だって。
    少年:ホームズ……ロンドン……漱石?……ロンドン塔……そうか、ベデカー!
    少女:ベデカーって?
    少年:ドイツ人。そうじゃなくて、この場合は彼が出版した旅行案内書(ガイドブック)のこと。
    少女:ひょっとしてホームズの時代の?
    少年:もっと古くからある。いまでも旅行案内の代名詞に使われるほどなんだ。漱石もロンドン留学時代(1900-1902年)に使ってた。東北大学附属図書館に、漱石の旧蔵書および自筆資料からなる「漱石文庫」というのがあるんだけど、そこにロンドン時代に彼が使ってたベデカーがある。ロンドン塔のところに書き込みがあったりして……。
    少女:旅行ガイドなら、当然ロンドンへの行き方も書いてあるね!
    少年:あとは所蔵してるかだけど……。
    少女:そう、そうよね。あるかしら?
    少年:見ないと分からないけど、ちょっと難しいと思う。思うけど、これで間違ってないはずなんだ。何か手があるはず……。
    少女:うん。
    少年:……そうか。あの、頼みがあるんだけど。
    少女:なあに?
    少年:検索。多分あるはず。
    少女:わからないけど、じゃあ、先生のところに戻るね。

    少女:戻りました。検索したいんですけど。
    司書:早かったですね。もうわかったのですか?
    少年:多分。いえ、これでいいはずです。
    少女:何を探すの?
    少年:もちろんベデカーだよ。「Baedeker London」でgoogle書籍検索を。あ、「日本語のページを検索」じゃなくて「ウェブ全体から検索」で。
    少女:うん。

    Baedeker London
    Baedeker Staff - 1996 - 283 ページ - プレビューは利用できません

    少女:これ?
    少年:もっと下の方。

    Baedeker's London and It's Environs 1900: A Handbook for Travellers

    少女:これじゃない?
    少年:復刻版だ。もっと下。これだ。

    London and its environs, including excursions to Brighton, the ...
    Karl Baedeker (Firm), Karl Baedeker - 1881 - 364 ページ - 全文表示

    少女:すごい1881年だって。全文表示できるの?
    少年:目次を見よう。これだ。2ページの「2. Routes to and from London Arrival」。
    少女:「Routes to England from the United State of America and Canada」ってある!








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