0 記録(ログ)をとる

     老若男女を問わず、ビギナーはメモをとらない。
     だから、ものを考えることができない。
     思考は、たとえば紙と脳の間を往復するところに生じるのだ。

     メモをとらないと勿論、書名や請求記号の記憶も不正確になる。
     そして、どういう訳か、覚えの悪い者ほどメモを取らない。

     レファレンス・カウンターで聞いたばかりのNDCを間違えて、「おまえの言った書棚へ行ったが、探している本はなかった」と怒って戻ってくる人が本当にいる。
     しかし、戻ってくる人はまだ動機づけが高い。
     おそらく少なくない人がもう一度聞きなおす度胸がなくて、本棚の間をさまよう羽目になる。

     知ったばかりの日本十進分類コードは、無味乾燥な数字に過ぎない。
     本棚までたどり着いて、その本の並びを眺め、本を何冊か引きぬいて見て、ようやく覚えるに足りる何かが手に入る。
     覚えておく方が無理なのだ。

     だからメモれ。

     特に数字や固有名詞は必ずメモれ。
     あるはずものがないのは、半分は固有名詞の記憶の不正確さのせいだ。
     人間は、他人が書いたもののタイトルや発表年など、必ず間違える動物だと知れ。

     論文の後ろについた参考文献リスト、あれなどケアレス・ミスの宝庫だ。
     信じ切ってると痛い目にあうぞ。
     データベースその他で確認することを怠るな。
     このことを知っておくだけで、文献調査難民になるケースが1/4は減る。


     それから書いた日時を書き留めることも忘れるな。

     メモしておけば、数日後にも数ヵ月後にも数年後にも、正確に思いだすことができる。
     調査の経験が(どれだけわすかなものであっても)、財産になる。
     
     調べものの記録(ログ)は必ず残すこと。



    1 表を埋める

     公立だろうと学校のだろうと、今時の図書館はネットでも蔵書検索ができる。
     出かける前に調べておかないのは怠慢だ。というより時間がもったいない。

     何の本を見ればいいか分からないのだ、だから図書館へ行くのだ、という声があがるかもしれない。

     そうだとしても、次の項目は書きだしておくべきだ。
     ・何のために探しものしているのか?(目的)
     ・今の自分にわかること/すでに調べたことは何か?(既知のこと)

     さらに、次の2つの項目を加えておくと、この後の作業が便利だ。
     ・見つけたいもの/知りたいことの種類(文献、言葉の情報、事象・事件の情報、人物の情報、歴史・日時の情報、地理・地名の情報)
     ・どこで探すか?(ネット、公立図書館、学校の図書館、……)

     まとめると次のような表になる。調査はこの表の「穴埋め」をしていくことで進んでいく。



    (1)調査の目的
    ~を明らかにするために
    ~を確かめるために
    ~を知るために
    (2)見つけたいもの(文献、言葉の情報、事象・事件の情報、人物の情報、歴史・日時の情報、地理・地名の情報)(3)今までに分かったこと(NDC、タイトル、人名、所蔵……)(4)どこで探す?
     ……  ……  ……  …… 


     書き出すのは、自分にとって明確にする意味がある。
     それから誰かと共有することが可能となる。
     
     既知のことを書き込むことで、何が未知なのか、どうすればその「穴=未知」が埋まるのか、何が知りたいのか、それには何を調べるべきなのかが、少しずつ明らかになっていく。


     知っていることで表を埋めろ。そして知らないことを明らかにしろ。
     


    2.探し方を尋ねる/調べる

     探しているものがどんなものか、ある程度分からないと、実は探しようがない。
     しかし、すっかり分かっているのなら探す必要もない訳で、調べものは既知と未知の「はざかい」で行われる。
     だから、せめて「何が分かっていないのか」だけでもはっきりさせておきたい訳だ。
     「何が分かっていないのか」がある程度分かっていれば、他人も手助けしようがある。

     
     図書館には、レファレンス・カウンターという探しものを支援してくれる専門の係がいるところがある。
     探しものを代行してくれるのではない。支援だ。

     レファレンス・カウンターには、ぜひさっきの表を持ち込もう。
     当然だが、相手用と自分用の2つを用意すること。

     「何が知りたいのか?」「目的は何なのか?」「どこまで分かっているのか?」という調査の三大前提をモレとダブリなしに伝えるのは結構手間がかかる。
     ビギナーはこいつを甘く見てる。伝わって当然だと思ってる。
     だからうまく伝わらないとなると、すぐにイライラする。

     しかし口頭だけで説明しようとすると、慣れた人間でもないかぎり、はじめて留守番電話に不意打ちされた人類のように、あわあわと伝えるべきことの半分も言い終えられない。

     自分で表を埋めてみると、調べものを手伝ってもらえるよう誰かに伝えることの面倒くささが実感できる。
     そして作った表は、相手に伝える格好の説明資料になる。
     表がうまくできてなくても、心意気は伝わる。これは大切なところだ。
     
     丁寧に自分の意向を伝え(そのために自分ができる努力を惜しまず)、
     そして相手が差し出してくれたものをきちんと受け取る(メモを忘れるな)、
     そうした人間は味方を得る。少なくともその確率は高まる。

     コミュニケーションとは、こういうことをいうのだ。


     レファレンス・カウンターは大いに利用していい。
     使えば使うほど、あなたの探しものの経験値は高まる。レベル・アップもはやくなる。

     これはなにもレファレンス・カウンターにいるのが《探しもののプロ》であるから、ばかりではない(急いで付け加えるがプロも失敗する。初歩的なミスもする)。
     探しものを誰かに手伝ってもらうために必要なコミュニケーションが、調査のスキルに直結しているのだ。
     だからこれはトレーニングと思ってやった方が良い。
     ただし、ここまで書いて来たことから明らかだが、相応の準備をしてからレファレンス・カウンターに乗り込まないと鍛錬にならない。

     すれっからしと教えてちゃんに、世界は微笑まない。

     誰かにきちんと伝えられるまで、探しものが明確化されたならば、道を半ばまで来たものと考えていいだろう。



    3.繰り返す


     しかし探しものを明確にするために、別の探しものがしばしば必要になる。
     「調査のための調査」「「調査のための調査」のための調査」「「「調査のための調査」のための調査」のための調査」……と、探しものはどうしても「入れ子」になる。
     ものを知らないうちは、その「入れ子」が相当深くなる。

     めまいがするほどだ。

     いくらかものを知っている人は、その「入れ子」を何度も体験して来て、そのために山の五合目あたりから調査を開始できる。
     
     自分がやる調べものと比べると、楽そうだし成果も上がってる。
     ああ、うらやましいと思うだろう。

     だが、あなたと「もの知り」の間には、死にたくなるほどの差はない。

     打ちのめされる度に、こうつぶやこう。
    「いやいやいやいやいや、紙一重だ」

     どんな「もの知り」だって、常識にも達しない超基本的なことを知らずに恥をかいた「黒歴史」の一束を抱えている。

     疑うなら、あなたの近くにいる「先生」と呼ばれる人に聞いてみるといい。
     あなたが真面目に尋ねて、相手がまともな人間なら、きちんと教えてくれるだろう。
     

     調べものの「入れ子」に対抗するには、こちらも繰り返すしかない。
     調べて、調べて、調べるのだ(ただし自分を見失わぬよう、記録(ログ)は取っておくこと)。

     調べる度に「わからないこと」が増えていく経験は不快なものだが、何事かを知るという体験は、その「坂」を越えたところにある。

     しかし吉報もある。
     10回も繰り返せば、その「苦痛」は半分以下になっているだろう。
     


    4.大事なことなので、もういちど
     
     たとえばレポートの課題が出たとする。
     ヘミングウェイについて調べて書けという。
     ネットからのコピペに辟易している教員はこう付け加える。「大学の研究紀要を調べて書くように」。もっとひどいのになると「図書館で調べろ」とだけ指示する者もいる。

     こうして学生とおぼしき若者が図書館にやってくる。
    「あの、大学の研究紀要はありますか?」
     いや、待て待て。0.から、せめて1.からこの記事を読み返して来てくれ。
    「あの、レポートでヘミングウェイのことを調べて書かないといけないんです(目的)。ネットで調べようと思ったんですが、先生は大学の研究紀要を調べろと言っていて(既知)」



    (1)調査の目的
    ~を明らかにするために
    ~を確かめるために
    ~を知るために
    (2)見つけたいもの(文献、言葉の情報、事象・事件の情報、人物の情報、歴史・日時の情報、地理・地名の情報)(3)今までに分かったこと(NDC、タイトル、人名、所蔵……)(4)どこで探す?
    レポートでヘミングウェイのことを調べて書くために(人物の情報)ヘミングウェイのこと大学の研究紀要を調べろby先生図書館?


     なるほど。ネットでは何を見ました?
    「ウィキペディア」
     お約束。googleで「ヘミングウェイ」と検索して、一番最初に出て来ますしね。ところで『研究紀要』って何だかわかりますか?
    「いいえ」
     お約束。ウィキペディアでこれも検索しておきましょう。(ウィキペディア「紀要」(研究紀要 から転送 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%94%E7%A9%B6%E7%B4%80%E8%A6%81))。「紀要(きよう、英: bulletin, memoirs)は、大学(短期大学を含む)などの教育機関や各種の研究所・博物館などが定期的に発行する学術雑誌のことである。/大学(短期大学を除く)の場合、各学部・研究科ごとに紀要を発行することがあり、毎年数多くの紀要が発行されている。内容は、論文のほか、場合によっては研究ノート、教職員や大学院生等の活動状況彙報などが載せられている」。ほかに紀要の入手方法や、研究紀要データベース(名古屋大学附属図書館)へのリンクがあります。ネットでもNII電子図書館→CiNii http://ci.nii.ac.jp/ から検索できるし、論文の全文が入手できることがある、と書いてあります。
    「へえ」
     ……。さっきの表に「研究紀要」のことを書き足しておきますか。



    (1)調査の目的
    ~を明らかにするために
    ~を確かめるために
    ~を知るために
    (2)見つけたいもの(文献、言葉の情報、事象・事件の情報、人物の情報、歴史・日時の情報、地理・地名の情報)(3)今までに分かったこと(NDC、タイトル、人名、所蔵……)(4)どこで探す?
    レポートでヘミングウェイのことを調べて書くために(人物の情報)ヘミングウェイのこと大学の研究紀要を調べろby先生図書館?
    「大学の研究紀要を調べろ」という指示を理解するために(言葉の情報)「研究紀要」の意味ウィキペディア
    大学の研究紀要を調べるために研究紀要の入手方法ウィキペディア「紀要」の中に少し記述あり、だがよく分からない図書館のレファレンス・カウンター


     あとは学術系のことを調べるときにgoogleで使える「おまじない」をひとつ。
    「?」
     「書誌」という言葉を加える。今の例だと「ヘミングウェイ 書誌」でググる。http://www.google.co.jp/search?q=%E3%83%98%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%80%80%E6%9B%B8%E8%AA%8C&lr=lang_ja ああ、いいのが見つかりました。一番上の「愛淑大図 パスファインダー アーネスト・ヘミングウェイ」http://www2.aasa.ac.jp/org/lib/j/netresource_j/pf/pf_hemi_j.html を見ると、ヘミングウェイについての探しものの仕方がかなり具体的に書いてある。検索結果に登場する他のサイトも有用。


     指示はメモれ。
    (指示をメモしないとトンチンカンな思い込みのまま、見当違いの努力で時間を消耗する)。

     与えられた指示は「既知のこと」として表に書き込む。
    (このためには指示をメモする必要がある。これをやっておくことで、指示を理解するために調べることができる。うろ覚えではそれもできない。表が埋められない場合は、指示を確認すること)。
     
     分からない言葉はまず調べろ。

     学術系の検索に「(探したいもの)+書誌」でgoogle検索。
     くずサイトが検索結果にたくさん出てくる場合に、特に有用。


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