点の辞書引き


     知らない単語だけを辞書で引くことは、ある本だけを見に/借りに図書館に行くことと対応している。


    線の辞書引き

     たどる辞書引き。

     定義や例文の中の単語を更に引いていく。あるいは関連のある単語を追いかけて引く。

     辞書は(理想的には)閉じている。
     つまり辞書に登場する言葉は、すべて辞書の内で説明される。

     理想の辞書においては、たどる辞書引きは、辞書の外へと出ることがない。
     一冊の辞書のなかで、どこまでもたどり続けることができる。


    面の辞書引き

     しかし現実の辞書には破綻がある。
     
     追跡の手がかりがどこかで途切れるだけではない。
     巡り巡って、また最初の場所に戻って来れるとは限らない。

     そればかりか、ある項目と別の項目の記述同士が食い違い矛盾し合う場合がある。

     このことを発見する人は、辞書の中に張り巡らされた「つながり」をどことん追い続けたのだ。
     そこは、線の辞書引きの果てに行き着くかもしれない場所だ。

     そこに至れば、人はもうその辞書の中だけにとどまることはできない。

     辞書の中に、その外へと開く《裂け目》が、今やそこかしこに見つかるだろう。




    点の読書

     その一冊を読む読書。
     
     かけがえのない一冊であって、他の書物と取り替えることなど思いもつかない。

     だから図書館には、その本を借りるために何百人の待ちができる。
     
     どの本を読むのか、どう選ぶのかは、次の課題である。
     本を探し選ぶことは、「一冊の本」の外にあることだから。

     「点の読書」では、その人が読む本は互いにつながっていない。

     たとえば誰かに教えられた本だけを読んでいくのは「点の読書」ということになる。


    線の読書


     たどる読書。

     知識は、そして書物というものは、他の知識/書物と切り離されては存在できない。

     知識は他の知識に依拠したり、他の知識の前提となったりと互いにつながり合っている。

     書物にしても同じことで、一冊の書物は、無数の他の書物を前提としているし、これからの書物に前提を与えもする。
     引用/参照関係が明示されることも明示されないこともあるが、明示される場合でも参考文献としてあげられるものは、書物が持つつながりのごく一部でしかない。

     書物を読むことはもともと、一冊の書物にとどまらないものだ。
     たとえば、書物のある箇所に疑問を感じたら、あなたの読書は一冊の本の外へ誘われている。
     その誘いに応じれば、否応なく一冊の本を越えて読むことになる。


     そのことに気づくと、人は独りで読み始める。


     1冊1冊をあてがってくれる指導者や案内人を離れて、書物の中にばらまかれた手がかりを頼りに〈次の書物〉へと進む。

     そして図書館は「線の読書」を支援するために存在する。


    面の読書

     知識の網目を編み上げていく読書。

     書物たちが取り結んでいる関係を離れて、読む人自身が抱えるものに従って、今まで出合ったこともない書物同士、知識同士を突き合せていく。

     出会い、ぶつかり合い、切断され、つながれる。

     書物の秩序に従うのではなく、読み手が書物や知識の間の関係を織り上げていく。
     

     ここにおいて人は、書物を読むのではない。世界を読むのだ。



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