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     ラテン語は死語である。
     
     ネイティブ・スピーカーははるか昔に消え失せた。
     いまでも公用語にしているのは、わずかにバチカン市国くらいしかない(ただし実際の使用は公文書やミサなどに限られ、実務的にはイタリア語が使われている)。
     ヨーロッパ諸国では、第二次世界大戦前までは中等教育課程でラテン語必修だったが、今では選択科目として存続するだけである。
     
     しかしもちろん、欧米の文化の基層の一部をなしているのは確かで、生物の学名や解剖学用語の他にも、ラテン語の言葉が引用句としてとして使われたり、国や団体のモットーになったりすることも少なくない(Fluctuat nec mergitur.「たゆたえど沈まず」(パリ市民のモットー)、→アメリカの主要大学のモットー)。
     
     欧米では、とにかくも選択科目としてであれ、その気になれば中学くらいで学ぶことができる。
     日本だと、大学でもないとまずラテン語の学ぶコースはないし、ニーズが小さいこともあって、毎年開講しないケースやそもそも学校によってはそれもなかったりする。
     
     英米で中学生が使う教科書、たとえばCambridge Latin Courseなんかを見ると、日本のラテン語教本よりむしろ、はじめて英語を学ぶ中学一年の教科書に近い。
     ひょっとすると日本では大学生にならないと学ばないせいでテキストが格調高くなっているのかもしれない(いや、あるわけないか)。
     
     このCambridge Latin Courseという教科書は、活用表をまとめた表なんて出てこない。
     ごく簡単な単語をうまくつかって、中学生が喜びそうなひどい物語を進めていき、いつのまにか、同じ単語が繰り返し登場して、とにかく読ませていやでもアタマに残る構成になっている。
     活用を覚えろと言われて挫折したヘタレな人にも強くお勧めできる。
     日本語訳もあるのだが、知る人ぞ知る名著で、古書店でも高値がつく。
     
     この教科書の物語に出てくるカエキリウス一家は、ジャック&ベティのような見るからにフィクションではなく、歴史上の人物ほどのビックネームではないが、紀元79年8月24日に噴火したヴェスヴィオ火山の火山灰の下から発掘された家や帳簿なんかから、その暮らし向き、間取り、家族構成、収入、友人関係その他がつぶさに分かっている、古代ローマの植民都市ポンペイに実在した家族なのである(表紙はそのカエキリウスさんの頭像である)。
     
     
     話がそれた。

     先程は「欧米では」と十把一絡で扱ったが、ラテン語に対するスタンスは国や地域、その歴史などによって、かなりの温度差がある。
     たとえばハンガリーは、ドイツ語圏から支配されていた時代に、ハンガリー語を禁じられ、ドイツ語を強制されるのに抗してラテン語を公用語にしたことがある。
     そのせいか、進学系のギムナジウムでは今でもラテン語必修である。
     ハンガリー人の伝記には、ギムナジウムでのラテン語教育の話がいろいろ出てくる。たとえばフォン・ノイマンは、自分の知的基盤を形成したものとして、それを懐かしげに振り返ってる。月曜から土曜まで毎日一時間、これを8年間ずっと叩き込まれた、という。
     
     ラテン語を学ぶとなれば、我々はどうしてもゴリゴリのハードな古典的詰め込み授業を想像してしまう。
     得意であった者はそれを誇らしく、苦手だった者は憎らしく語るから、ますますそんな気になってくる。
     だが長い伝統をもつハンガリーのラテン語教育は、少し様子が違っていたことを、これもハンガリー出身の航空工学者(カルマン渦列で有名)セオドア・フォン・カルマンは報告している。



    ststephen-budapest.jpg

    EGO SUM VIA VERITAS ET VITA
    St. Stephen Church, Budapest, Hungary


     「ラテン語の授業では、文法から始めるのではなく、街を回って、銅像や教会や博物館などで使用されているラテン語の銘を模写してくるように言われた。」
     
     「そうして集めた句をクラスに持ちかえり、先生がどんな言葉を知っているのか尋ねたものだ。」
     
     「それから、先生は同じ言葉が違った形になっていることに気がついたかどうか尋ね、どうして形が違うのだろうかと疑問を発した。他の単語との関連で、異なる形をとっているからである。」
     
     「こうした訓練を積み重ねることで、自然にラテン語の語彙が豊富になり、ラテン語の変化における基礎的なルールを導きだすことができた。」
    (マルクス・ジョルジュ『異星人伝説―20世紀を創ったハンガリー人』)

     街が静かに抱える古の言葉たち、街中に散らばる古典語で刻まれたモットーを集めて、初学者を拒みがちな変化形の複雑なルールを鮮やかに発見させていく。

     
     今ではこうした授業はめずらしくないのかもしれないけど、日本の古典語コースでの例は寡聞にして知らない。




    ANONYMUS.jpg

    ANONYMUS = GLORIOSISSIMI BELA REGIS NOTRIA
    Vajdahunyad Castle City Park, Budapest, Hungary



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