主人公が「宇宙」と呼ぶ、その巨大な図書館は、中央に巨大な換気孔をもつ六角形の閲覧室の積み重ねで成っている。
     
     閲覧室は上下に際限なく同じ部屋が続いている。


     すべての閲覧室の4つの壁には、それぞれ5段の本棚があり、各段に32冊ずつ本が収納されている。


     全ては同じ大きさ、同じページ数の本であり、一冊は410ページ、各ページはどの本も40行×80文字で構成されている。


     全ての本は22文字のアルファベット(小文字)と文字の区切り(空白)、コンマ、ピリオド、の計25文字しか使われていない。


     そして同じ本は二冊とない。
     

     
     LibraryOfBabel.jpg

     


     ここで一生を終える司書たちは、この図書館がこの25文字で表現可能な全ての組合せ、言い換えれば言語で表現可能な一切のもの、を納めていると考えている。


     つまり、今までに書かれた本とこれから書かれる本、それらの本の落丁・乱丁・誤訳版、および不完全な版を指摘した解説書、解説書の偽書、解説書の偽書一覧、それらすべてを記載した目録等が含まれている。




     想像してみよう。
     
     シェークスピアの全仕事はテキストデータにして約5メガバイトである。
     その翻訳が、バベルの図書館に含まれるとしたら、数冊に分かれて収められているだろう。
     一冊の本の文字数はどれも同じだから、大抵の場合、文の途中で途切れ、続きは別の本に、また途中から始まっているだろう。
     もちろん、これは本質的な事ではない。

     …… 

     大抵の場合、途中で切れ、途中から始まるのだから、1冊が何ページからできているかは重要ではない。
     たとえば、バベルの図書館のすべての本をちょうど二分割して、すべてを205ページの本にしても、ただ冊数が増えるだけだ。
     もちろん、これは本質的な事ではない。

     ……

     この考えを進めていけば、バベルの図書館の本をすべてバラして、すべてを1ページからなる本にしたとしても、ただ冊数が増えるだけだ。
     もちろん、これは本質的な事ではない。

     …… 

     この考えを進めていけば、バベルの図書館の本をすべてバラして、すべてを1ページからなる本にした上に、1ページあたりの文字数を半分にしても、ただ冊数が増えるだけだ。
     もちろん、これは本質的な事ではない。

     …… 

     この考えを進めていけば、バベルの図書館の本をすべてバラして、すべてを1ページからなる本にした上に、1ページあたりの文字数を1文字にしても、ただ冊数が増えるだけだ。
     もちろん、これは本質的な事ではない。

     ……





     いや、そうではない。
     


     
     バベルの図書館に、同じ本は二冊とない。
     
     1冊の文字数を1文字にすれば、図書館には25冊の本だけが存在する。
     
     しかしそれでも、すべての書物がここには存在する。
     
     一文字ずつしか読めないが、あらゆる書物の、その続きもまた、この図書館にある25冊の本のいずれかに書かれている。
     
     


     
     


     
     しかし、それはどこに書いてあるのか?

     どこから始まり、どの本に続くのか? 

     ある一節を、たとえば「yehi or」を読むためには、
    yの本の次にeの本を、
    eの次にの本hを、
    hの次にの本iを、
    iの次にの本_(空白)を、
    _(空白)の次にの本oを、
    oの次にの本rを
    読むことを指示するレファレンスが必要であり、このレファレンスの最も簡約な記述は「yehi or」となる。






     つまり元の本である。









    伝奇集 (岩波文庫)伝奇集 (岩波文庫)
    (1993/11/16)
    J.L. ボルヘス

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