ベストセラーにもなった大野晋「日本語練習帳」の中で、著者の大野も一押しのトレーニング法が、この〈縮約〉である。
     学生から「あの縮約の授業が一番役に立った」と言われたものでもある。
     
     文章がよく読めるようになりたい、達意の文章が書けるようになりたいと思う人にはきっと役立つだろう。


     「日本語練習帳」では、1400字程度の社説を400字に縮約する課題があげられている。

     具体例は後ほど見るとして、まずは6つのルールを示そう。
    (以下、引用。=>以下はこのブログの中の人のコメント


    1.縮約とは、要約することや要点を取ることではなく、地図で縮尺というように、文章全体を縮尺して、まとめること。

     =>要約ではないので言い換え(パラフレーズ)はしない。出てきた言葉を、その順番通り、その言葉通りに使用する。

    2.1行20字詰20行の原稿用紙を使い、最後の1行あるいは2行の空白を作ってもいけない。つまり、ぴったり20行にわたる文章にまとめる。

     =>箇条書きではいけない。400字でひとつの文章としてまとまって読めるものつくること。

    3.400字から1字はみだしてもいけない。
    4.句点(。 )、読点(、)は1字文取る。
    5.全文を段落なしに書き続けてはいけない。途中に段落をつけ、改行すること。
    6.題目は字数外とする。


     =>字数制限など条件がタイトに見えるかもしれないが、その方が、繰り返しやったときに上達がわかりやすい。あと原稿用紙の使い方をマスターしてもらいたいという意向も含んでいる。



     このトレーニングは、文意の内容、構造、語句選択、その他細部に至るまで、読み取る力を養うのに、これ以上にないほどの威力を発揮する。

     ルールに制約されたアウトプット(縮約すること)が課されるからこそ、大雑把な読みは叩き直される。
     目だけ追うだけでは、なんとなく内容を理解するだけでは、また大事なところに線を引く程度では、縮約するには足りない。
     
     まず余分な部分や、要点を支えていない部分がどこなのか、実によく分かるようになる。

     端的にそして誤解なく伝えるには、無駄のない筋の通った文をつくるには、何が不要であり何が必要なのか、構成から語句、句読点の付け方のレベルまで、実感できるようになる。

     要約と異なり言い換え(パラフレーズ)しなくてもいいので、自分の中から言葉が出にくい人でも、取り組むことができるのも長所だろう。

     当然ながら文章の意味を正確に読み取らなければ、縮約はできない。
     面倒がらず、辞典や事典をつかうことを大野は勧めている。


     「社説の文章の縮約を30回すると有効だと思います。ええっ?30回も?と思うでしょう。ところが、続けていくと途中から目が鋭くなって、肝心のところが読み取りやすくなり、かなり書けるようになります」(大野晋「日本語練習帳」)

     社説は毎日出てくるから、1日1回やれば30日で達成できる。夏休みにもってこいだろう。



    社説へのリンク

      朝日新聞  読売新聞  毎日新聞  日本経済新聞  産経新聞  

      地方紙など各社社説へのリンク
       http://www.ne.jp/asahi/sec/eto/paperhtml/editorial.html







    日本語練習帳 (岩波新書)日本語練習帳
    (岩波新書)

    (1999/01/20)
    大野 晋

    商品詳細を見る
    「この縮約という作業は「読む側」に立っての作業です。
    ところが、この作業は裏返すと「書く側」の心がけを示唆する作業になる。」
    (大野晋「日本語練習帳」)



     くりかえし400字の縮約を作っていると「もっと縮められるのでは?」と思えるようになる。
     趣旨を変えずに自分で短く書き換える、要約ができるようになったサインだ。
     つまり、自分のために使える読み書き能力がついてきたのだ。


     このトレーニングをやっている最中でも、自分が書いた文章についても、縮約をやってみるといい。
     頭にあること浮かぶことをとにかく書き出した殴り書きでも、自分ではほとんど完成品に思えた文章でも、それに対して縮約を行ってみる。
     文章の中の、無駄な部分、不足した部分、筋から外れた部分があからさまになる。
     そしてまた書きなおす。

     この脳と紙の間での往復が、考えることに他ならない。

     これ自体が日本語のトレーニングになるのと同時に、自分が言うべきことの核を掘り出すことになるから、表現は簡潔に、そして思考は強靭になる。


     何をどうすればいいかについては、実例を見るのがわかりやすいだろう。
     では、以下で縮約の実践例を示そう。


    全国高校NIE研究大会で報告された菅原晃教諭の縮約例
    http://www.doshin-nie.com/shimen/detail/20090427/01.html


    (元の社説)…読みやすいように1行あけしてある。


    聖火リレ- なぜ抗議はやまぬのか

     北京五輪の聖火リレーが通過する世界各地で激しい抗議行動が起きている。

     チベット騒乱に強圧的な対応をとる中国への憤りの表明だ。

     暴力的に聖火を止めようとする行為は慎まなければならない。しかし、なぜこうした動きが広がり続けるのかを中国政府は重く受け止める必要がある。

     聖火リレーが行われたロンドンやパリなどでは、妨害した市民や人権活動家が相次いで拘束された。

     パリでは警察官三千人が動員され、聖火は厳戒下に置かれた。抗議から守るため聖火は四度も消され、途中からバスで運ばれた。

     欧州では五カ国の首脳らが開会式への不参加を決めた。

     米議会の一部でもブッシュ大統領に不参加を求めるなど、国際的な波紋が広がっている。

     三月に中国チベット自治区で起きた騒乱は、周辺の青海省、四川省、甘粛省に飛び火した。

     中国の治安部隊が鎮圧し、チベット亡命政府によれば、多数が殺されたという。

     中国は抗議行動を「少数のチベット独立勢力による破壊行為」として一方的に非難しているが、それでは各国の理解は得られまい。

     自由と人権、民主主義は、国際社会が尊重する普遍的な価値だ。

     北京が五輪開催地に選ばれたのは、そうした価値を大切にすることを世界に示してほしい-との期待があったからにほかならない。

     だが今の中国の姿勢は、それからほど遠いのではないか民主化運動を武力弾圧した一九八九年の天安門事件を思い起こさせる。

     経済の躍進で国際的な存在感を高めた中国は、五輪開催国にふさわしいといわれるようなふるまいをみせるべきだろう

     まずは、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ十四世が求めている対話に応じることだ。これ以上死傷者を出してはならない。

     非暴力主義を貫くダライ・ラマは妨害行為をやめるよう呼びかけ、五輪開催を支持している。独立は求めず、高度の自治を要求している。

     であれば、中国は対話を拒む理由などないはずだ

     はがゆいのは福田康夫首相の姿勢だ。首相「声高に批判したり北京五輪と関連付けることは適当かどうかよく考えないといけない」と述べ、慎重姿勢に終始している。

     五月の胡錦濤国家主席の来日を控え、日中関係に水を差したくないと考えているのならそれは違う。

     言いにくいこともはっきりと言う。そういう率直な議論ができてこそ真の隣人といえるのではないか

    (2008年4月9日 北海道新聞)




     この縮約者は、上記社説のうち、最終的には赤字下線部分を抜き出して、以下の縮約をつくった。
     
     実際には、
    (1)抜き出して、
    (2)縮約をつくり(文章にしてみて)、
    (3)読んでチェックする、
    (4)過不足を考えて(1)に戻ってやり直し、
    というのを繰り返して、ここに行き着いたと言うべきだろう。


    (縮約の例) 
    ……1行20字詰20行の原稿用紙で20行を使い切る(ルール2)。
    段落をつくらなくてはならない(ルール5)ので、総文字数は400字未満となる。

     
     
                      
     
                     
     
    姿
              
     
                    
     姿
           




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