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     フェリックス・クラインをして「理論と応用とを兼備した多面的な天才、真に独創的な研究家、科学上の革命家」と呼ばしめたアルキメデスについて、世に最も知られた逸話は、シラクサの王ヒエロン2世の王冠の金の純度を見分けた、この話だろう。
     
    Hiero_small.gif


    「ヒエロン王が職人に純金の塊を与えて王冠をつくらせたところ、その王冠には金をいくらか抜き取って銀が混ぜてあるという告発があった。この問題の解決を頼まれたアルキメデスは、ある日、湯がいっぱい入った浴槽につかったとき、浴槽につかった自分の身体と同体積の湯があふれ出し、体重も軽くなることを発見して、喜びのあまり「ヘライカ、ヘライカ(みつけた、みつけた)」と叫びながら裸で街を走ったという。これは、王冠と同じ重さの純金、純銀、それに金と銀を混ぜたという王冠を、水を張った同じ容器にそれぞれ入れて、あふれ出る水の量で王冠の不正を見破ったわけで、「アルキメデスの原理」として知られ、彼の著作『浮体』第1巻の説明に当てはまる。」
    (平田寛 執筆「アルキメデス」『日本大百科全書』 →yahoo百科事典; 下線による強調は引用者による)


     
     例によって、この黄金の冠の話は、現存するアルキメデスの著作には見つけられない。

     この話の最も古い出典は、紀元前1世紀のローマの建築技術者ウィトルウィウスの著作『建築書(建築十書 De Architetura libri decem )』である。



    9.アルキメデスはまことに種々さまざまの驚くべきことをたくさん発見したが、私がいま説明しようとしていることは、それらすべての中でもとりわけ限りない巧みさを示すもののように思われる。ヒエロンはシラクサで王権を大いに伸ばし、万事がうまく運んだので、黄金の冠を不滅の神々への捧げ物として、ある神殿に奉納することを思い定めたとき、王は材料持ちで制作することを契約し、請負者に金の重量を正確に測って渡した。指定されたときに彼は非常に細かに手作りされた作品を王の認証を得るためにもってきたが、冠の重量は前もって定められたように正確になっているように思われた。

    10.あとになってから、その冠の製作中に金が抜き去られて、等量の銀が混入されているという知らせが入ってきた。ヒエロンは自分がばかにされてたことに対して怒ったが、この泥棒を捕らえる口実がみつからないので、アルキメデスに、自分のためこのことに考慮をめぐらしてくれるように依頼した。アルキメデスはこの問題について思いをめぐらしているとき、たまたま浴場にいき、そこで浴槽に浸かったときに、その中に浸った彼の身体の容量だけ水が浴槽からあふれでるということに気づいた。このことが、この問題を解明する理を示しているので、彼は躊躇するどころか喜びのあまり浴槽からとびだして、家に向かって裸のまま駆けだし、自分の求めていたことが発見されたことを大声で告げた。すなわち、彼は走りながら、くりかえしくりかえしギリシャ語で、「ΕΥΡΗΚΑ・ΕΥΡΗΚΑ)」(私は発見した、私は発見した)と叫んだのであった。

    11. それから、その発見に従って、彼は冠の重量に等しい同じ重量の塊を二つ、一つは金を、もう一つは銀で作ったと言われる。これができあがると、彼は大きな容器に上縁まで水をいっぱいに満たし、その中に銀の塊を沈めた。容器の中に沈められた銀の塊と同じ容量だけ、水があふれでた。そこで塊をとりだして、減ってしまっただけの量を、セクスタリウス(パイントの16 )枡で測定しながら、前と同じように上縁に達するまで、再び注水した。こうして、このことから彼は、銀のどれだけの重量が水のある測度に対応するかを発見したのである。

    12. このテストがなされるや、同様に金の塊を同じく水を満たした容器に沈め、それをとりだして、同じやり方で測定しながら水を加えてみると、水の不足分が前と同じではなく、より少ないことを彼は発見した。そのより少ない容量は、金の塊が同じ重量の銀の塊より容量で小さいだけそれだけ少ない、ということがわかった。そのあとで、容器をまた同様に水で満たしてから、こんどは冠そのものを水に沈めると、冠のばあいには同じ重量の金の塊のばあいよりもいっそう多くの水があふれでることを見出し、このようにして冠のばあいには塊のばあいよりも水がより多く不足するという事実から、彼は銀が金に混入されていることを結論し、請負人が泥棒であることは明らかであると確認したのである。


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     この溢れた湯を見てエウレカ話をプルタルコスもまた取り上げて、伝説は世界中に広まった。
     
     その残響は、現在でも小学校の実験(http://speech.comet.mepage.jp/2007/mint_455.htm)や大手非鉄金属メーカーのサイト(http://www.mmc.co.jp/gold/knowledge/d_room.html#03)などで出会うことができる。
     あとアイザック・ニュートンの代数教本Arithmetica Universailisで、「ニュートン算」の元になった「牧場の草を食う牛の問題」の一つ前にも「ヒエロン王の王冠」の例が出てくる。

    from_newton.jpg
    (Google Bookへのリンク:→ラテン語PROB. X   →英訳PROBLEM X)


     
     
     しかしウィトルウィウスのこの記述には、古くから疑問が呈されてきた。
     

    (1)アルキメデスなのに梃子をつかってない

    (2)アルキメデスなのに大したことない(っていうかアホすぎる)
     
    (3)実際にはこの程度では水はあふれない


     (1)(2)についてはともかく、(3)については実験によって確かめることができる。
     アルキメデスに関する他の伝説、たとえば船を焼き払ったアルキメデスのソーラーレイ・システムは何度か大掛かりな実験が行われている。
     しかし今は純金の王冠を用意する暇がない(資金もない)から、かんたんな計算によってこれに代えることにしよう。
     
     古代ギリシア時代のもので、これまで発見された最大最重の冠は、アレクサンドロス3世(大王)の父、マケドニア王ピリッポス2世の墓に埋葬されていた、313の葉と68のどんぐりをあしらった純金製のオークの冠で、直径は18.5 cm,重量は714 gのものである。
     
     oakcrown.jpg

     
     ヒエロン王の王冠がこれと同等のものだったとして、純金の密度19.32g/cm3、714 gの王冠に容積は714/19.32=36.96cm3。これを王冠の入る直径20cmの水を張った容器に入れたとすると、水面は36.96/(102*π)=0.118cmだけ上がる。これは同じ重さの純金を水に入れても同様である。

     さて、いま疑われる請負者が、たとえば重量で30% の銀を混入したと仮定すると、銀の密度は10.50g/cm3であるから、王冠の体積は(0.7*714)/19.32+(0.3*714)/10.50=46.27cm3となる。したがって偽の王冠を水に入れると、水面は36.96/(102*π)=0.147cmだけ上がる。

     その差0.147-0.118=0.029cm=0.29mmに過ぎない。この程度の差では、表面張力や,物体を水からとりだすときに物体表面に付着する水などによる誤差が無視できない。

     
     金は比重が大きいので、このやり方で見分けるのはよい方法ではない。
     あふれた水の量で見分ける方法は、もっと軽くて重さのわりに嵩の高いもの向きの方法だといえる。
     
     
     
     では、アルキメデスは王冠の詐欺を見分けられなかったのか?
     
     もう一度、平田寛執筆の「アルキメデス」の項目を読むと、この王冠の鑑定の挿話は「アルキメデスの原理」と結び付けられている。
     しかしアルキメデスの原理は、流体中の物体が、物体がおしのけた流体の重さと同じ大きさの浮力を受けるという原理であり、比重に関するものでない。
     
     そしてアルキメデスの原理を用いた方法ならば、わずかな密度の違いを検出することができる。
     まず天秤を用意し、その一方に問題の王冠をつるし、もう一方に王冠と同じ重量の純金をつるして釣り合わせる。

    ScaleCrown.gif

     そして、このままつるされた王冠と金塊を水に浸す。
     もし王冠に銀が混ざっていないなら、水の中に入れても、天秤は釣り合ったままである。
     もし王冠に銀が混ざっていたならば、王冠の方は体積46.27cm3分の水の重量46.27g分軽くなり、純金の金塊はその重量36.96cm3の水の重量36.96g分軽くなることから、天秤は金塊が吊された側に傾き、請負者のウソは露見する。

    ScaleCrownTilted.gif
     
     アルキメデスにふさわしい方法であり(たとえば彼は球の体積を導くのに、彼は天秤の片方に円柱を、もう片方に球と円錐を吊るして釣り合うことを使っている。→『方法』命題2)、世界初の科学学会「怠け者の会」を主宰したデッラ・ポルタがその主著『自然魔術』(1558年)ので、アルキメデス大好きのガリレオ・ガリレイも La Bilancetta(1586) という小論文で、ウィトルウィウスを批判し、アルキメデスは本当はこうしたやり方を使ったのだと推測している。
     

     なお、溢れた水を測るための教育用器具に「ユリーカ缶」(Eureka can、またdisplacement canともいう)なるものがある。
     教育の現場では、溢れた水を測るだけでなく(これは溢れた水の量でなく、溢れた水の重さを測るため)、バネ秤に物体を吊るしたまま水に浸け、その際の重さの変化も同時に測定する(そして重さの変化=浮力の働きと、溢れた水の重さが同じであることを確認する)。

    erureka_can.jpg   erureka_can_use.jpg








    (参考)

    ・The Golden Crown
    http://www.math.nyu.edu/~crorres/Archimedes/Crown/CrownIntro.html


    ニューヨーク大学のChris Rorresによるアルキメデスホームページ内の、この話題について、各原典資料の抜粋などを含む、ほとんど何も付け加えることのない解説サイト。




    ・Galileo and the Scientific Revolution

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    Laura Fermi、Gilberto Bernardini 他

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    Laura Fermi、Gilberto Bernardiniによるガリレオ入門。
    Basic Books(1961)を、Dover社がお安く再販。Google Bookにデータ提供もしているので、この話題についての該当箇所(p.22〜)は以下から見ることができる。





    天秤の魔術師 アルキメデスの数学天秤の魔術師 アルキメデスの数学
    (2009/12/23)
    林 栄治、斎藤 憲 他

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