1年は52週ある。

     ぴあ(株)でサラリーマンをしながら、盛田隆二は週末ごとに原稿用紙で10枚書いて(単純計算だと1年で500枚以上になる)、毎年1作の長編小説を完成させた。
     1年は決して長くはないが、それくらいの時間ではある。


     1年は8760時間ある。
     その半分を生き延びることに費やすと4380時間残る。
     残りをすべて学ぶことに費やせる人を(フルタイムの)「学生」というのだが、10000-hour ruleという都市伝説を信じるなら、2年と少しあれば〈専門家〉になれることになる。


     1年は365日ある。

     はかどる日もあれば、サボりたくなる日もあるだろう。
     1年に4380時間というインテンシブな行軍は無理でも、平均で1日10ページ読むことができれば、1年足らずで3000ページを読むことができる。

     たかだか3000ページと言うなかれ。

     たとえば、

    物理学

    ファインマン物理学〈1〉力学ファインマン物理学 全5巻
    (1986)
    ファインマン



    1日10ページ読めば1年足らずでファインマン物理学全5巻を完読することができる。

     このように考えることは、52週=8760時間=365日に自家製のスケール(ものさし)をあてて、1年という時間を取り扱う手がかりになる。
     
     平凡な我々が、何事かをなし得るとしたら、(忍者を例えにすると)麻を植えて毎日それを飛び越えるしかない。


     もちろん物理学/ファインマンでなくてはならない必然性はない。
     1年をもっと別のもので計ってもかまわない。



    数学


    位相への30講 (数学30講シリーズ)数学30講シリーズ
    (1988-89)
    志賀 浩二



    4半世紀の間、大学数学の壁に打ちのめされる〈落ちこぼれ〉を救い続けてきた数学30講シリーズ

     それぞれ1冊30講(巻によって違うが平均200ページほど)で構成されたこのシリーズは全10巻。
     1日1講、昼食を取りながらでも読み切れる分量だが、1冊30日、これも合計300日あれば全10巻を読了できる。
     時に本を開くのもつらい日もあるだろう。それでも1年足らずの時間があれば、読み通すことは不可能ではない。
     トレーニング用ではなく網羅的でもないが、〈分かる〉系の数学書として「いま何をやっているのか?何故こんなことをやるのか?」について破格のわかりやすさを誇る(だから『位相への30講 (数学30講シリーズ)』や『群論への30講 (数学30講シリーズ)』などがとりわけ助かる)。数学の抽象性に辟易となっている人、無意味な記号の羅列にしか見えない人に。

     このシリーズに1年もの時間をかける価値があるだろうか?
     それは各自、判断いただくより他ない(数学が苦手でない人には別の選択がある)。

     けれども、数学ができないまま一生を終えるか、それともこの1年を費やすか、の選択だとすればどうか?
    (平均で1日6〜7ページというペースは、他に大きな断念を要求するものではない)。



    哲学


    哲学の歴史〈第1巻〉哲学誕生―古代1哲学の歴史 全12巻+別巻1
    (2008-09)



     哲学ならば、いろんな端本を読み散らかすより、日本語ではなかなか実現しなかった複数冊の哲学史、哲学の歴史 全12巻+別巻1が、文献案内を含む、よき入門になる。
     索引・年表の別巻を除いて、毎月1冊(750ページ前後)を読めば、1年で西洋哲学の概要(初めから20世紀まで)が手に入ることになる。




    文学

    オセロー  シェイクスピア全集 〔27〕 白水Uブックスシェイクスピア全集 全37巻  白水Uブックス
    (1983/01)
    ウィリアム・シェイクスピア

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    白水Uブックスのシェイクスピア全集 全37巻ならば、1冊200ページ(長いものでも250ページ)、小田島雄志の小気味よい訳文も手伝って、ずっと速く読めるだろう。1ヶ月3冊のペースで1年余りで読み切ることも、他のものを読むことを諦めさせるような難業とはならない。



     他の分野でも、同様の企てはいくらも考えられる。

     普段なかなか挑戦する気にならない全集ものやいわゆる講座ものや、これも取り掛かるとなると億劫風が吹きそうな〈大抵のことは書いてある〉大部の教科書を、このやり方で取り組めば、何か一つ学んだ自分として来年を迎えることができるだろう。たとえば「2013年は物理学を学んだ年」だと、何年経っても思い起こすことができる。

    一人で読めて大抵のことは載っている教科書(追記あり) 読書猿Classic: between / beyond readers 一人で読めて大抵のことは載っている教科書(追記あり) 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    一人で読めて大抵のことは載っている教科書(洋書編):数学からラテン語まで 読書猿Classic: between / beyond readers 一人で読めて大抵のことは載っている教科書(洋書編):数学からラテン語まで 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    一人で読めて大抵のことは載っている「講座」もの全リスト 読書猿Classic: between / beyond readers 一人で読めて大抵のことは載っている「講座」もの全リスト 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    世界史を走破する通史/各国史16シリーズ200冊をまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers 世界史を走破する通史/各国史16シリーズ200冊をまとめてみた 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加

    世界史研究の《近年》を伝える《多孔質》のライブラリ/山川世界史リブレット 読書猿Classic: between / beyond readers 世界史研究の《近年》を伝える《多孔質》のライブラリ/山川世界史リブレット 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


     たとえば、スティグリッツの経済学教科書(『スティグリッツ入門経済学』『スティグリッツ ミクロ経済学』『
    スティグリッツマクロ経済学』)は、入門教科書の類いでは最もページ数が多いが、邦訳で2200ページほど。
     今だと、むしろ国産の、数式抜きで日本の事例てんこ盛りの八田ミクロ(プログレッシブ経済学シリーズ)と、ミクロ的基礎づけや経済成長論とラムゼー・モデルをちゃんと扱ってるマクロ経済学 (New Liberal Arts Selection)あたりを勧めるべきだろうけど、これだともう少し少なく済んで458 + 603 + 742 = 1803ページ。


    ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)ミクロ経済学〈1〉市場の失敗と政府の失敗への対策 (プログレッシブ経済学シリーズ)
    (2008/10)
    八田 達夫

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    ミクロ経済学〈2〉効率化と格差是正 (プログレッシブ経済学シリーズ)ミクロ経済学〈2〉効率化と格差是正 (プログレッシブ経済学シリーズ)
    (2009/08)
    八田 達夫

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    マクロ経済学 (New Liberal Arts Selection)マクロ経済学 (New Liberal Arts Selection)
    (2010/04/15)
    齊藤 誠、岩本 康志 他

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    (追記)3日坊主をあきらめるために

     とはいうものの、〈1年かけてほぼ毎日読む〉なんて暴挙は自分には不可能だ、と考える人も多いだろう。
     事実、〈毎日続ける〉ことが出来る人は実のところ2〜4%しかいない、という話もある。


     この種の問題についての対策はこれまでにも記事を書いたことがある。

    今度こそ、続けよう→3日坊主にさよならする技術 読書猿Classic: between / beyond readers 今度こそ、続けよう→3日坊主にさよならする技術 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


     今回は、これらに、もっと直截なものを付け加えよう。

    手渡すだけでモチベーションとパフォーマンスを高める魔法の手紙 読書猿Classic: between / beyond readers 手渡すだけでモチベーションとパフォーマンスを高める魔法の手紙 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加
    で、人間にとって、最大の動機付け資源は、他の人間であることを活用した、「やるべき事項を書いて、毎日会う人に手渡す」というマインド・スキルを紹介した。

    Sapota(さぽた) http://sapota.jp/

    というWEBサービスは、いわばこの方法をTwitter等をつかって実現する、シンプルだが行動科学にかなったもの。

    (1)自分が続けたいこと(例:「ファインマン物理学を10ページ読むこと」)をSapotaに登録する。登録内容は公開されるので、これだけでもパブリック・ポスティングの効果があるが、さらに

    (2)今日の分をやり終えたら、Sapotaの「やったー」ボタンをクリックする。すると、自分のTwitter(またはFacebook)が自動的に「kurubushi_rmさんがファインマン物理学を10ページ読むことをやったー」とつぶやく。

    (3)やり終えて「やったー」ボタンを押せないと、「kurubushi_rmさんがファインマン物理学を10ページ読むことをさぼったー」とつぶやかれる。なんたる恥辱!!





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