前に岩波文庫の青帯で西洋思想がどこまで読めるかのリストを作った。

    ここまで読める、連れて歩ける→岩波文庫青帯で読める西洋思想の基本書70冊 読書猿Classic: between / beyond readers ここまで読める、連れて歩ける→岩波文庫青帯で読める西洋思想の基本書70冊 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加


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     あの時除け者にされた岩波文庫 白帯に光を当てるのと、いっそ文庫なら岩波に拘らず、社会科学の古典がどこまで読めるかやってみた。
     社会科学というのが、それから古典というのが、いったいどこからどこまでを指して言うのか、異論はもちろんあり得る。が、みんなが納得いくものができないからといって何もやらないというのは本末転倒である、と尊敬する生徒会長も言っていることだし、リストを始めよう。


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    古代

     社会について考えたのは、何もヨーロッパ啓蒙思想を待つまでもなく、古代インドにはほとんどマキャベリが要らないくらいの『実利論』を著したカウティリヤがいたし、中国には孔子もいた。古代ギリシアにはポリスの政治体制に考察を加え、王政・貴族制・民主制の条件を論じたアリストテレスの他にも、王の年代記にとどまらない歴史を書く者たちが登場した。諸国を訪ね歩いたヘロドトスは神話と信託に経緯を払いながらも比較社会史を試み、トゥキディデスはペロポネソス戦争をめぐる政治過程を実証的に描いた。時代が下ってギリシアに生まれローマに人質として送られたポリュビオスは、ローマの地中海世界制覇の歴史を描き、その中に政体循環論(モンテスキューはこれにインスパイアされて三権分立を論じた)すら織り込んだ。
     なんとポリュビオス以外のすべてが文庫で読める(岩波文庫青帯だが。ポリュビオス以外も京都大学学術出版会の西洋古典叢書で読むほうが良いかもしれない)。
     
     
    実利論 上―古代インドの帝王学 (岩波文庫 青 263-1)実利論 上―古代インドの帝王学 (岩波文庫 青 263-1)
    カウティリヤ,上村 勝彦

    岩波書店
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    政治学 (岩波文庫 青 604-5)政治学 (岩波文庫 青 604-5)
    アリストテレス,山本 光雄

    岩波書店
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    歴史 上 (岩波文庫 青 405-1)歴史 上 (岩波文庫 青 405-1)
    ヘロドトス,松平 千秋

    岩波書店
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    戦史 上 (岩波文庫 青 406-1)戦史 上 (岩波文庫 青 406-1)
    トゥーキュディデース,久保 正彰

    岩波書店
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    ポリュビオス 歴史〈1〉 (西洋古典叢書)ポリュビオス 歴史〈1〉 (西洋古典叢書)
    ポリュビオス,城江 良和

    京都大学学術出版会
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    イスラムとルネサンス

     ギリシア・ローマの古典古代が終焉した後、ヨーロッパでは、キリスト教を軛を逃れ社会についての知が自律するのは困難だった。むしろ古典古代の知的遺産を継承したイスラム世界にイブン・ハルドゥーンのような歴史家・社会理論家が生まれる余地があった。
     
    歴史序説 (1) (岩波文庫)歴史序説 (1) (岩波文庫)
    イブン=ハルドゥーン,森本 公誠

    岩波書店
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     ルネサンスは、冷徹なリアリズムの目を政治権力に向け近代的な政治認識の先駆となったマキャベリや、従来の価値体系を徹底的に相対化する『痴愚神礼讃』のエラスムス、大航海時代における新世界からインパクトを社会の批判と思考実験に展開した『ユートピア』のトマス・モアらのような〈社会の知〉を可能にした。 

    新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)新訳 君主論 (中公文庫BIBLIO)
    ニッコロ マキアヴェリ,Machiavelli,池田 廉

    中央公論新社
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    ディスコルシ ローマ史論 (ちくま学芸文庫)ディスコルシ ローマ史論 (ちくま学芸文庫)
    ニッコロ・マキァヴェッリ,永井 三明

    筑摩書房
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    痴愚神礼讃 (1954年) (岩波文庫)痴愚神礼讃 (1954年) (岩波文庫)
    エラスムス,渡辺 一夫

    岩波書店
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    ユートピア (中公文庫)ユートピア (中公文庫)
    トマス モア,沢田 昭夫

    中央公論社
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    啓蒙主義

     宗教改革と宗教戦争の時代を経て、理性の理解を超えた権威にたのむことをよしとせず、懐疑と批判の精神を手にした啓蒙主義が登場する。
     ピューリタン革命前にイギリスからフランスへ亡命中だったホッブズ(彼はまたトゥキディデスの英訳者でもあった)は、のちにイギリス国王となるチャールズ2世の家庭教師を務めながら、神や宗教や他いかなる権威を持ち込むことなくミクロレベルの〈みずからの苦楽のみ〉で行動する人間本性の分析からマクロ・レベルの社会秩序と絶対主義王制の正当性を導き出す大著『リヴァイアサン』を執筆した。
     戦争と宮廷の乱費による財政破綻と、ナントの王令廃止による宗教的不寛容が引き起こした社会的混乱などを受け、これまでの文化・政治的価値の相対化が進みつつあったフランスで、ルイ14世(在位1643~1715)の死後、モンテスキューは匿名ではあったものの『ペルシア人の手紙』では異文化人の目によってフランス文化や社会が相対化し、『法の精神』では風土によって法のあり方もまた異なることを論じた。
     ピューリタン革命後オランダへ渡り、ハーヴェイの血液循環論を支持したシルヴィウスの元で解剖学と医化学を学んだウィリアム・ペティはオックスフォードの解剖学教授となり、クロムウェルのアイルランド派遣軍の軍医として赴任、本業の他に測量や人口調査の指揮をとり、没収した土地の測量やそれらの本国新教徒への配分に関わることで、自らも大土地所有者となった。一時公職を追放されるも、王政復古後にチャールズ2世の庇護を受け、1661年4月ナイトに叙任し、共和国時代に得たアイルランドの領地も再度国王から授与された。以後、アイルランドで領地経営に当たり、橋梁の建設や私鋳貨幣の鋳造など植民地運営に必要な政策の経験をも生かし、政治経済分野の主要著作を著した。第3次英蘭戦争によってイギリスが苦しい状況に追い込まれていた1670年代前半には、英・仏・蘭の国力を数量的に比較した『政治算術』、アイルランドの政治構造を分析した『アイルランドの政治的解剖』を執筆、これら死後出版された。客観的な数量的諸関係に着目して、社会体の自然法則を把握することにつとめ、すでに労働価値論を展開し、のちにイギリス古典派経済学の始祖とも評価された。
     
     
     
    リヴァイアサン〈1〉 (岩波文庫)リヴァイアサン〈1〉 (岩波文庫)
    T. ホッブズ,Thomas Hobbes,水田 洋

    岩波書店
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    ペルシア人の手紙 上 (岩波文庫 白 5-6)ペルシア人の手紙 上 (岩波文庫 白 5-6)
    モンテスキュー,大岩 誠

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    法の精神〈上〉 (岩波文庫)法の精神〈上〉 (岩波文庫)
    モンテスキュー,野田 良之

    岩波書店
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    政治算術 (岩波文庫 白 101-2)政治算術 (岩波文庫 白 101-2)
    ペティ,大内 兵衛,松川 七郎

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     ホッブズに続いて、ジョン・ロックが『統治二論』において、ホッブズと同じく社会契約を用いて異なる初期(自然)状態から別の国家の規範理論を構築し、『社会契約論』を書いたルソーはホッブズが自然状態として前提した人間本性としての利己心はむしろ現代社会の結果生じるものだと批判した。アダム・スミスは人間本性に利己心とともに他人の利己心を察する共感を加えることで、自由な交換が可能となる理由を導き出し、道徳哲学の難問を解くのと同時に経済理論を新しい段階に進めた。

    完訳 統治二論 (岩波文庫)完訳 統治二論 (岩波文庫)
    ジョン・ロック,加藤 節

    岩波書店
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    社会契約論/ジュネーヴ草稿 (光文社古典新訳文庫)社会契約論/ジュネーヴ草稿 (光文社古典新訳文庫)
    ジャン=ジャック ルソー,Jean‐Jacques Rousseau,中山 元

    光文社
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    道徳感情論 (講談社学術文庫)道徳感情論 (講談社学術文庫)
    アダム・スミス,高哲男

    講談社
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    国富論〈1〉 (岩波文庫)国富論〈1〉 (岩波文庫)
    アダム スミス,Adam Smith,水田 洋,杉山 忠平

    岩波書店
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     モンテスキューに続いたのは、いわゆる百科全書派(アンシクロペディスト)と呼ばれる人たちだった。フランス啓蒙思想の代表的な成果のひとつ『百科全書、あるいは科学・芸術・技術の理論的辞典』は、編集の中心だったディドロやダランベールをはじめとして、モンテスキュー、ヴォルテールやルソー、コンディヤック、エルベシウス、ドルバック、ラ・メトリなど18世紀中頃の進歩的知識人を総動員して刊行された。『百科全書』はまた、ケネー,テュルゴーなどの重農主義者に執筆の場を与えた。執筆者の中で最も戦闘的だったドルバック、ラ・メトリらの唯物論者たちは、宗教が無知と欺瞞(ぎまん)の産物であり、キリスト教は有害な道徳を教えるものと指弾し、旧来の文化価値と知識体系とに痛烈な批判を突きつけた。現状批判と進歩の概念、そしてロックやルソー、モンテスキュー、ボルテールに連なる自然権に基づき政治上の民主主義を構想する思想は、フランス革命やイギリス革命へとつながっていく。

    百科全書―序論および代表項目 (岩波文庫)百科全書―序論および代表項目 (岩波文庫)
    ディドロ,Didorot,ダランベール,d’Almbert,DALMBERT,桑原 武夫

    岩波書店
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    人間認識起源論 (上) (岩波文庫)人間認識起源論 (上) (岩波文庫)
    コンディヤック,古茂田 宏

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    ケネー 経済表 (岩波文庫)ケネー 経済表 (岩波文庫)
    ケネー,平田 清明,井上 泰夫

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    人間機械論 (岩波文庫 青 620-1)人間機械論 (岩波文庫 青 620-1)
    ド・ラ・メトリ,杉 捷夫

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    寛容論 (中公文庫)寛容論 (中公文庫)
    ヴォルテール,Voltaire,中川 信

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    フランス革命とその残響

     『百科全書』の最年少執筆者だったコンドルセは、若くして数学の業績によって25歳で科学アカデミーに会員となり、ボルテール全集やパスカルの『パンセ』を編集するなど多方面で才能を発揮し、1782年アカデミー・フランセーズに迎えられると、そこでの就任講演でラプラスらの確率論を社会現象に適用し、合理的な意思決定に指針を与える「道徳政治科学の数学化」/「社会数学」という新しい学問の理念を提唱した。投票の逆理(コンドルセのパラドクス)として知られる知見は、彼のこの構想の中で見出されたものである。しかしこの試みは十分に取り組まれないうちに、フランス革命によって中断した。後世に影響を与えたのは、革命の最中、政争に敗れジロンド派といっしょに告発を受け、逮捕されるまでの逃亡中に執筆され、死後公刊された主著『人間精神進歩の歴史的素描』であり、これはのちに同じく数学を専攻し「社会学」を創始するコントがその元としたものであった。
     ラプラスの確率論から社会研究のアイデアを受け取ったのはコンドルセだけではなかった。ベルギーから天文台建設の視察のためパリを訪れラプラス、ポアソンらの知遇を得たケトレーもまた、完成した天文台の台長を勤めながら次第に関心を社会へと移し、やがて「社会力学physique sociale」の名で犯罪率、結婚率、自殺率といったものの統計学的な法則を理解する研究に挑んでいった。
     革命の露と消えたコンドルセに対して、サン・シモンは伯爵家の出ながら(でも家庭教師はダランベール)、アメリカ独立戦争ではワシントン指揮下のフランス遠征軍として戦い、帰国後フランス革命が勃発すると地方のジャコバン派や民衆の結社に参加し、国有地売買の投機で巨万の富を築いた。が、ばれて投獄、ギロチンにかかるところを危うく逃れ、テルミドール反動後には政治から足を洗って文筆の道に入り、最初の著作『一ジュネーブ住民の書簡』をスタール夫人に献じ求婚したが失敗、日夜を分たぬ浪費でやがて貧困の境涯に転落、ピストル自殺を企てるも失敗、さらに2年生き延びるが『新キリスト教論』の執筆を最後に失意のうちに没した。生業についたことが無さそうなのに、フランスの歴史を非産業階級(貴族・地主・金利生活者・軍人)と生産的産業的階級(資本家&労働者、科学者はこっち)との対立の歴史とみなし、産業階級を社会第1階級とする理想社会 (産業制社会) の成立を強調したが産業者の反応は冷やかだった。しかし当時の産業革命の進行と工業化社会の将来を予測し、社会進化の要因に経済を重視する経済史観をとり、実証主義的な「社会生理学」を構想し、弟子のコントと共著『産業者の教理問答』ではプロレタリアの解放を目的とした産業体制の組織を論じ、理論的一貫性はないものの社会主義思想のほとんどすべてのアイデアについて先駆となり、とりわけコントとマルクスに大きな影響を与えた。
     
    人間精神進歩史 第一部 (岩波文庫 青 702-2)人間精神進歩史 第一部 (岩波文庫 青 702-2)
    コンドルセ,渡辺 誠

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    人間に就いて〈上巻〉 (1948年) (岩波文庫)
    ケトレー,平 貞蔵,山村 喬

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    産業者の教理問答―他一篇 (岩波文庫)産業者の教理問答―他一篇 (岩波文庫)
    サン=シモン,森 博

    岩波書店
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    イギリス古典派経済学

     ユダヤ人の証券仲買人の息子として生れ、独立したあと公債取引等で成功し、イギリスで屈指の証券業者となったリカードは、余暇を利用して数学、化学、地質学など自然科学の研究を行うようになっていたが、1799年 アダム・スミスの『国富論』に接し経済学に興味をもつようになった。 1809~11年には当時の兌換停止下での物価騰貴問題について論争に参加し注目を集めた。1815年には友人ジェームズ・ミルの強い影響の下、パンフレット『穀物の低価格が資本の利潤に及ぼす影響についての試論』で自由貿易政策を理論的に基礎づけ、地主階級を利する穀物法を批判したが、同年穀物法は議会を通過してしまった。以降リカードは穀物法撤廃を主張し続けることになるが、穀物法を擁護するマルサスとの論争を続けるなか、穀物法反対の論理を磨いていくために、いっそう経済学の研究を深め、1817年には『経済学および課税の原理』を公刊し、『国富論』に次ぐイギリス古典派経済学の代表作となった。こうして経済学者としての名声を得た後、1819年には証券業を引退、下院議員となり、無党派ではあったが、地主主導の議会を改革するために努力した。
     マルサスは、ゴドウィンやコンドルセらのフランス革命に触発された社会改革思想を批判するために『人口論』を書いた。人口の自然増加は生活資料の増加を必ず上回り、労働者人口の絶対的な過度増殖からその階級に貧困と悪徳とが発生するのは永久的自然法則だから不可避だし改良は不可能と主張し、当時の貧困問題を説明し、受救貧民救済策に反対する理論的根拠を与えた。次の版では、社会改革思想の反駁の書というよりは人口の原理の解明を主眼とする学術書の体裁を整え、人口増加についても〈結婚の延期〉という道徳的な対策を与えた。『人口論』を書いたころはまだイギリス国教会の牧師補出会ったが、1805年にはハートフォード州のヘーリベリーに新設された東インド・カレッジの近代史と経済学の教授に就任すると(これがイギリスにおける最初の経済学教授職だった)、生涯その職にあった。地代と穀物法をめぐるリカードとの論争は互いにパンフレットを出すだけでなく、リカードとの往復書簡を通じても行われた。
     ジョン・スチュアート・ミルは、ベンサムやリカードの友人だったジェームス・ミルの息子であり、3歳からギリシア語を8歳からラテン語を学んで古典を読み、初等幾何学や代数学ならびに微分学の初歩を経て、13歳のときには経済学の課程まで終了するような英才教育を受け、10代からベンサム派の論客として頭角を現した。その後精神的危機を経験してベンサム主義を離れ、ドイツの人文主義やフランスのサン・シモン派やコントの思想などを吸収し(学校を飛び出したコントの支援者にもなった)、『論理学大系』では社会科学にも適用可能な科学的方法論を構築し、『経済学原理』ではイギリス古典派経済学の成果を独自に整理し、生産法則と分配法則や静学と動学の区別を導入するなどその精緻化につとめるとともに、私有財産制度と競争を当然のものとしてきた古典派の前提に対しても大胆な修正を試みた。政治論でも、『自由論』では、諸個人の自由の保障として構想された民主主義が多数者の専制をもたらしかえって自由は圧迫されるメカニズムを注視し少数者の意思表示の尊重を留保し、『代議制統治論』でも代議制と行政上の分権制の意義を強調した。
     
    経済学および課税の原理〈上巻〉 (岩波文庫)経済学および課税の原理〈上巻〉 (岩波文庫)
    D. リカードウ,羽鳥 卓也,吉沢 芳樹

    岩波書店
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    人口論 (光文社古典新訳文庫)人口論 (光文社古典新訳文庫)
    マルサス,Thomas Robert Malthus,斉藤 悦則

    光文社
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    代議制統治論 (岩波文庫)代議制統治論 (岩波文庫)
    J.S.ミル,水田 洋

    岩波書店
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    自由論 (岩波文庫)自由論 (岩波文庫)
    J.S. ミル,John Stuart Mill,塩尻 公明,木村 健康

    岩波書店
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    総合社会学とマルクス

     コントは、パリのエコール・ポリテクニク(理工科学校)に入学するも学生運動で放校され、サン・シモンの仕事を手伝いながら、処女作『社会再組織のための科学的プラン』を書き、その後サン・シモンと袂を分かった。1826年から自宅で「実証哲学講義」という連続講義を行い、これが後に主著『実証哲学講義』全6巻となった。『実証精神論』はこれをコンパクトにまとめたもの。後年、十数年に及ぶ結婚生活の解消後、クロチルド・ド・ボー夫人と不倫関係となり2年後彼女が亡くなると、コント自身を大司教、ボー夫人は聖女とする、人間性を崇拝する人類教を唱えるようになった。後期のこれら思想をまとめた著書に『実証政治体系 ― 人類教を創始するための社会学概論』全4巻がある。
     コントは、人類の精神的発展に関する〈三段階の法則=人類の知的発展は神学的段階→形而上学的段階→実証的段階の三段階を経て完成する〉にもとづいて,人類精神の改革を主張し、〈諸科学の序列=諸学は数学、天文学、物理学、化学、生物学の順に実証的段階へ達し社会学に至って完成する〉の原理にもとづいて,数学から社会学にいたる一つの実証知の体系をつくりこれを普及を目指したが、その求めるところは、フランス革命とその後の反動を経てフランスそしてヨーロッパ全体にひろがっていた無政府状態に終止符をうち、社会秩序と統一とを再建することだった。そのため、表現の自由等市民的権利を保証するものの、個人の権利より義務が、個人主義と知性主義の行き過ぎを批判して集団生活と世代間の継承が重視され、議会制民主主義(デモクラシー)は否定され社会優越体制(ソシオクラシー)が志向される。そのためにあらゆる社会活動を支配している普遍的原理ないしは歴史的発展の法則が客観的かつ科学的に、つまり実証的な方法によって把握されねばならないという。ぶっちゃけ進歩史観と実証主義で武装した、保守志向の全体主義だが、憂国のエリートやテクノクラートには受けそうな思想で、南米では軍事エリートによる革命/改革のバックボーンとなった。ブラジル国旗にOrdem e Progresso(秩序と進歩)というコントの標語が書かれている所以である。ブラジルには後期コントの人類教を奉じるブラジル実証主義者教会もある。
      
     スペンサーは、学校教育を受けず、17歳から鉄道技師、その後『エコノミスト』誌の編集部員を勤めた後は、1853年以後死ぬまでの50年間はどこにも勤めず、秘書相手に著述に専念した在野の学者だった。主著は膨大な『総合哲学体系』全10巻、構成は第1巻《第一原理》、第2~3巻《生物学原理》、第4~5巻《心理学原理》、第6~8巻《社会学原理》、第9~10巻《倫理学原理》で、大著であらゆる部門の知を含めるところも、コントに似ている。その社会進化論と自由放任主義は J. S. ミルや鉄鋼王 A. カーネギーをはじめ多くの理解者、信奉者を得て、日本でもスペンサー自身が森有礼や金子堅太郎などの明治政府の要人と親交し社会進化論の立場から助言したり、明治10~20年代の日本で自由民権運動の思想的バックボーンとして迎えられ多数の訳書が出版されたのだが、文庫が登場する頃にはすっかり過去の人になっていて、近年の出版物で読むことができそうなのは「世界の名著」シリーズ(中央公論社)くらいしかない。
     
    実証的精神論 (岩波文庫 白 205-1)実証的精神論 (岩波文庫 白 205-1)
    コント,田辺 寿利

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    世界の名著 (46)  コント・スペンサー (中公バックス)世界の名著 (46) コント・スペンサー (中公バックス)
    コント,スペンサー,清水 幾太郎,霧生 和夫,清水 礼子

    中央公論新社
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     ドイツで、ヘーゲル左派の片隅にいたマルクスが、繰り返し追放されてヨーロッパを横断しイギリスに行き着くその間に、フランスの社会主義やイギリスの古典派経済学と出会い、それらを吸収していく過程は、語ればそれなりの長さの物語になるが、これまでに登場した人たちよりは知られているので省略する。

    経済学・哲学草稿 (岩波文庫 白 124-2)経済学・哲学草稿 (岩波文庫 白 124-2)
    マルクス,城塚 登,田中 吉六

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    ドイツ・イデオロギー 新編輯版 (岩波文庫)ドイツ・イデオロギー 新編輯版 (岩波文庫)
    マルクス,エンゲルス,廣松 渉,小林 昌人

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    マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)マルクス・エンゲルス 共産党宣言 (岩波文庫)
    マルクス,エンゲルス,Karl Marx,Friedrich Engels,大内 兵衛,向坂 逸郎

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    資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)
    マルクス,エンゲルス,向坂 逸郎

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    経済学

     1870年代、イギリスのジェボンズ、オーストリアのメンガー、フランスのワルラスらが、ほぼ同時に,かつ独立に、財の価値を効用におき、分析方法として限界概念を用いる新しい経済理論をつくりあげた。スミス以来の難題であった「価値のパラドクス」(たとえば水はたいへん有用であるにもかかわらず価値(価格)が低いこと)に理論的な説明を与え、効用最大化によって経済主体の行動を定式化し、経済学における数学的方法の道を開いた。後に「限界革命」と呼ばれるこの画期は、経済学が専門分化(プロフェッショナル化)する契機ともなった。彼らはみな大学教授であり、メンガー、ワルラスの業績は彼らに始まる学派(オーストリア学派、ローザンヌ学派)に継承され発展し、イギリスでもジェボンズのリカードに対する批判を引き取ったマーシャルによってケンブリッジ学派が形成された。
     ローザンヌ学派からはパレートが出、彼らの一般均衡理論は現代経済学の共通資産となった。オーストリア学派からはウィーザー、ベーム・バベルク、・シュンペーター、ミーゼス、ハイエクらが出て、ケンブリッジ学派からはピグー、ロバートソン、ケインズ、J.ロビンソンらが続いた。
      
    富の理論の数学的原理に関する研究 (岩波文庫 白 110-1)富の理論の数学的原理に関する研究 (岩波文庫 白 110-1)
    クールノー,中山 伊知郎

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    純粋経済学要論〈上巻〉 (1953年) (岩波文庫)純粋経済学要論〈上巻〉 (1953年) (岩波文庫)
    レオン・ワルラス,手塚 寿郎

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    経済学の方法に関する研究 (岩波文庫)経済学の方法に関する研究 (岩波文庫)
    メンガー,福井 孝治,吉田 昇三

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    経済的財価値の基礎理論―主観的価値と客観的交換価値 (岩波文庫)経済的財価値の基礎理論―主観的価値と客観的交換価値 (岩波文庫)
    ボェーム・バウェルク,長 守善

    岩波書店
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    有閑階級の理論―制度の進化に関する経済学的研究 (ちくま学芸文庫)有閑階級の理論―制度の進化に関する経済学的研究 (ちくま学芸文庫)
    ソースティン ヴェブレン,Thorstein Veblen,高 哲男

    筑摩書房
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    経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉 (岩波文庫)経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉 (岩波文庫)
    J.A. シュムペーター,Joseph A. Schumpeter,塩野谷 祐一,東畑 精一,中山 伊知郎

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    雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)
    ケインズ,間宮 陽介

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    価値と資本〈上〉―経済理論の若干の基本原理に関する研究 (岩波文庫)価値と資本〈上〉―経済理論の若干の基本原理に関する研究 (岩波文庫)
    J.R. ヒックス,John Richard Hicks,安井 琢磨,熊谷 尚夫

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    マルクス主義

     マルクス死後のマルクス主義は、エンゲルスの著作のなかで通俗化されながらも影響を広げ,パリ・コミューン以後は労働運動のなかにも大きな支持層を獲得するようになった。やがてドイツ社会民主党ではエンゲルスが大きな影響力をもったが、19世紀末になるとベルンシュタインが旧来のマルクス主義をヘーゲル弁証法にとらわれたユートピア思想と批判し,それでは現在の〈帝国主義段階〉を説明できないと断じた。これに対するカウツキーらの修正主義論争の中から第二インターナショナルのマルクス解釈が確立した。ベルンシュタインに激しく反論した一人ローザ・ルクセンブルクは、ドイツ社会民主党の議会路線に反発しながら党教育センターでマルクス主義と経済学の講師を勤め(主著の一つ『経済学入門』はここでの講義をまとめたもの)、第一次大戦後は臨時政府に逮捕拘束され、獄中でロシア革命とレーニンへの批判を続けた。
     1917年ロシア革命に勝利したレーニンは、1919年にはコミンテルンを結成し世界の共産党を組織した。これを引き継いだトロツキー、ブハーリンらはスターリンによって失脚させられ、レーニンは死後も偶像視された。
     1920年代初頭にはルカーチとコルシュによって、哲学的に基礎づけによってマルクス主義の主体的再建を意図する取り組みがなされ、コミンテルン中枢のソビエト・マルクス主義にに極左的逸脱と批判されたが,西ヨーロッパ・マルクス主義とよばれた。

    イギリスにおける労働者階級の状態―19世紀のロンドンとマンチェスター (上) (岩波文庫)イギリスにおける労働者階級の状態―19世紀のロンドンとマンチェスター (上) (岩波文庫)
    エンゲルス,一條 和生,杉山 忠平

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    金融資本論 上 (岩波文庫 白 139-1)金融資本論 上 (岩波文庫 白 139-1)
    ヒルファディング,岡崎 次郎

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    経済学入門 (岩波文庫)経済学入門 (岩波文庫)
    ローザ ルクセンブルク,Rosa Luxemburg,岡崎 次郎,時永 淑

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    帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫 白 134-1)帝国主義―資本主義の最高の段階としての (岩波文庫 白 134-1)
    レーニン,宇高 基輔

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    裏切られた革命 (岩波文庫)裏切られた革命 (岩波文庫)
    Л. トロツキー,Л. Троцкий,藤井 一行

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    社会学

     19世紀から20世紀への転換期に、社会科学の諸領域で専門分化が進む中、総合社会学の、生物有機体になぞらえて説明する社会理論の粗雑さと百科全書的な内容の空疎さが批判されて、専門的な特殊個別科学としての社会学を確立しようとする動きが強まった。デュルケム、ウェーバー、ジンメル、テンニース、マンハイムらが、これら社会学の共通財産となる知的貢献を行った。1895年にデュルケームはボルドー大学にヨーロッパで初めての社会学部を創設し『社会学的方法の規準』を表し、翌年には専門学術誌として『社会学年報』を創刊した。1897年の『自殺論』は「社会学の研究」とも題され、自殺を個人的心理的事実に還元できない社会的事実として取扱い、大きな影響を与えた。法学と経済史から学問的キャリアをはじめたウェーバーは社会政策学に次第に関心を移し、病で大学を辞した後、在野の研究者として「社会科学・社会政策雑誌」の編集ややドイツ社会学会の創設にあたり、また法制史から経済史,社会科学の一般方法論,さらに宗教社会学に関する自身の論考を発表し、大きな影響を与えた。ベルリン大学で歴史,民族心理学、哲学を学んだジンメルは〈生の哲学〉者としても知られ、その一方〈形式社会学〉を提唱し,その礎石を造形して社会学の学問的自立に大きく貢献した。テンニースは古典言語学で学位をとった後、イギリスでのホッブズ研究を経て政治哲学,社会問題に向かい、労働組合や協同組合運動に積極的に参加、たジンメル,ゾンバルト,M.ウェーバーとともに創立したドイツ社会学会の会長を1909‐33年の間務めた。マンハイムはジンメルから強い影響を受け、第一次世界大戦の勃発後はルカーチやバラージュなどとともにハンガリー革命の運動の一翼を担った。反革命後、ドイツに亡命し『イデオロギーとユートピア』を執筆、これは知識社会学を樹立するうえで重要な著作となった。


    プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)
    マックス ヴェーバー,大塚 久雄

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    権力と支配 (講談社学術文庫)権力と支配 (講談社学術文庫)
    マックス・ウェーバー,濱嶋 朗

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    職業としての政治 (岩波文庫)職業としての政治 (岩波文庫)
    マックス ヴェーバー,Max Weber,脇 圭平

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    社会分業論(上) (講談社学術文庫)社会分業論(上) (講談社学術文庫)
    井伊 玄太郎,E. デュルケム

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    自殺論 (中公文庫)自殺論 (中公文庫)
    デュルケーム,宮島 喬

    中央公論社
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    宗教生活の原初形態〈上〉 (岩波文庫)宗教生活の原初形態〈上〉 (岩波文庫)
    エミル デュルケム,´Emile Durkheim,古野 清人

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    社会学の根本問題―個人と社会 (岩波文庫 青 644-2)社会学の根本問題―個人と社会 (岩波文庫 青 644-2)
    ジンメル,清水 幾太郎

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    ジンメル・コレクション (ちくま学芸文庫)ジンメル・コレクション (ちくま学芸文庫)
    ゲオルク ジンメル,Georg Simmel,北川 東子,鈴木 直

    筑摩書房
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    ゲマインシャフトとゲゼルシャフト―純粋社会学の基本概念〈上〉 (岩波文庫)ゲマインシャフトとゲゼルシャフト―純粋社会学の基本概念〈上〉 (岩波文庫)
    テンニエス,杉之原 寿一

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    イデオロギーとユートピア (中公クラシックス)イデオロギーとユートピア (中公クラシックス)
    カール マンハイム,Karl Mannheim,高橋 徹,徳永 恂

    中央公論新社
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    西洋近代思想史―十九世紀の思想のうごき〈上〉 (講談社学術文庫)西洋近代思想史―十九世紀の思想のうごき〈上〉 (講談社学術文庫)
    G.H. ミード,George Herbert Mead,魚津 郁夫,小柳 正弘

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    大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)
    オルテガ・イ ガセット,Ortega y Gasset,神吉 敬三

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    民族学・文化人類学

     大航海時代以来,世界の諸民族についての知識がヨーロッパにおいて蓄積され、これらはコントやスペンサーらの総合社会学にも素材を提供したが、19世紀半ばには独立の学会が設立されるようになった。19世紀後半には、イギリスのタイラー、アメリカのモーガンなどを代表とする、進化主義的民族学がイギリス,アメリカで盛んになった。これは現存未開民族の文化を,歴史的な意味での原始文化と同一視し、未開民族の諸文化を比較することによって文明以前の人類文化史を再構成しようとするものだった。『金枝篇』を著したフレイザーもタイラーの著作に影響を受けた一人である。
     20世紀に入ると、進化主義への反動として、ドイツ,オーストリアに文化の伝播を強調する文化圏説があらわれ、アメリカではボアズの指導により、長期にわたるフィールド・ワークを行う綿密な局地研究が発展し、ボアズ門下にはサピアやベネディクト、マーガレット・ミードら多数の研究者が育った。
     1920年代に入ると、イギリスにおける社会人類学の成立を契機し、デュルケムらの仕事に多くを学び個々の制度が全体社会の維持に果たす機能を問題とする、マリノフスキーの機能主義やラドクリフ・ブラウンの構造・機能主義が登場する。彼らの研究は文化なり社会なりの現在を対象とするものであり、従来の民族学が持っていた歴史的観点を排除するものだった。その後マリノフスキ─の最初の学生となり、ラドクリフ=ブラウンの後をついで、オックスフォード大学社会人類学講座教授となったエヴァンズ=プリチャードが出た。
     第二次大戦後、レヴィ・ストロースによる構造主義人類学、ギアツ、ターナーらの諸シンボルの解釈を課題とする意味論的人類学、コンクリン、グッドイナフらの個々の民族がもつ分類や意味づけの体系に焦点をあてる認識人類学が登場した。

    初版 金枝篇〈上〉 (ちくま学芸文庫)初版 金枝篇〈上〉 (ちくま学芸文庫)
    ジェイムズ・ジョージ フレイザー,James George Frazer,吉川 信

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    図説 金枝篇(上) (講談社学術文庫)図説 金枝篇(上) (講談社学術文庫)
    ジェームズ.ジョージ・フレーザー,メアリー・ダグラス,サビーヌ・マコーマック,吉岡 晶子

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    古代社会 上巻 (岩波文庫 白 204-1)古代社会 上巻 (岩波文庫 白 204-1)
    L.H.モルガン,青山 道夫

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    アメリカ先住民のすまい (岩波文庫)アメリカ先住民のすまい (岩波文庫)
    L.H. モーガン,上田 篤,Lewis H. Morgan,古代社会研究会

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    王権 (岩波文庫)王権 (岩波文庫)
    A.M.ホカート,橋本 和也

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    未開社会の思惟 上 (岩波文庫 白 213-1)未開社会の思惟 上 (岩波文庫 白 213-1)
    レヴィ・ブリュル,山田 吉彦

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    贈与論 (ちくま学芸文庫)贈与論 (ちくま学芸文庫)
    マルセル モース,Marcel Mauss,吉田 禎吾,江川 純一

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    通過儀礼 (岩波文庫)通過儀礼 (岩波文庫)
    ファン・ヘネップ,綾部 恒雄,綾部 裕子

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    言語―ことばの研究序説 (岩波文庫)言語―ことばの研究序説 (岩波文庫)
    エドワード サピア,Edward Sapir,安藤 貞雄

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    菊と刀 (講談社学術文庫)菊と刀 (講談社学術文庫)
    ルース・ベネディクト,長谷川 松治

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    西太平洋の遠洋航海者 (講談社学術文庫)西太平洋の遠洋航海者 (講談社学術文庫)
    ブロニスワフ・マリノフスキ,増田 義郎

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    ヌアー族―ナイル系一民族の生業形態と政治制度の調査記録 (平凡社ライブラリー (219))ヌアー族―ナイル系一民族の生業形態と政治制度の調査記録 (平凡社ライブラリー (219))
    E.E.エヴァンズ=プリチャード,向井 元子

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    レヴィ=ストロース講義 (平凡社ライブラリー)レヴィ=ストロース講義 (平凡社ライブラリー)
    クロード レヴィ=ストロース,Claude L´evi‐Strauss,川田 順造,渡辺 公三

    平凡社
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    汚穢と禁忌 (ちくま学芸文庫)汚穢と禁忌 (ちくま学芸文庫)
    メアリ ダグラス,Mary Douglas,塚本 利明

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    政治学

     政治学はプラトン、アリストテレス以来つづく最も古い社会科学(社会認識)のひとつだが、一つの学問領域(ディシプリン)として認識されたのは19世紀末以降と比較的新しい。しかし文庫化されている政治学の古典はむしろ、ディシプリンが確立される以前もしくはその外で、例えば政治家や外交官などによって、書かれたものが多い。長く保守主義の聖典と呼ばれた『フランス革命についての省察』を著したバークは生涯政治弁論を続けた政治家文人であり、トクヴィルは裁判官、国会議員、内閣外務大臣と司法・行政・立法のすべてを経験した政治家であり、二つの著作『回想録』と『旧体制と大革命』はルイ・ナポレオンのクーデター後に政界を退いた後に書かれた。カーも20年間の外務省勤務後にウェールズ大学の国際政治学教授となったが、その後も情報省や国連で実務活動を行っている。
     一方、政治の枠組がどのようになっているか、或いはどのような枠組が望ましいかとを静態的・形式的に問う従来の政治学に対して、政治の枠組の中で生起する現象のメカニズムを観察し解明する研究が求められるようになった。背景には普通選挙が実施されて広範な大衆が政治の舞台に登場する中、政治が合理性や理性を欠いたものによって動かされる現状のへの危機感と認識があった。ウェーバーが政治がその民族社会のエートス(社会倫理)によって規定されていると指摘し、フロイトは,意識下の世界の力学が,人間をつき動かし,非合理的な行動をとらせるという解釈を提出した。政治学の中でも、20世紀初頭、ウォーラスが大衆の政治行動の非合理性を把握することを説き、これが深層心理解釈とともに統計や調査結果を数量的に処理して政治現象を客観的につかもうとするメリアムら1920年アメリカのシカゴ学派に、そしてその後、データに基づく実証分析を確立した行動科学政治学に受け継がれていった。通常科学化した政治学の中心フィールドは研究論文であり、かつてのような古典的名著が書かれる機会は減じたが、文庫で読めるのは、行動科学政治学の中で学問的キャリアをはじめ多くの政治学者を育てた「長老」ロバート・ダールによる教科書(おそらくは政治学の全分野について一人で教科書が書ける最後の政治学者だろう)と、行動科学政治学とは距離をおきつつ国際政治研究の主流を担ったモーゲンソーの著作である。

    フランス革命についての省察〈上〉 (岩波文庫)フランス革命についての省察〈上〉 (岩波文庫)
    エドマンド バーク,Edmund Burke,中野 好之

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    コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)コモン・センス 他三篇 (岩波文庫 白 106-1)
    トーマス ペイン,小松 春雄

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    ザ・フェデラリスト (岩波文庫)ザ・フェデラリスト (岩波文庫)
    A.ハミルトン,J.ジェイ,J.マディソン,斎藤 真,中野 勝郎

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    アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)
    トクヴィル,松本 礼二

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    権利のための闘争 (岩波文庫)権利のための闘争 (岩波文庫)
    イェーリング,Rudolf Von Jhering,村上 淳一

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    危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)
    E.H.カー,原 彬久

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    モーゲンソー 国際政治(上)――権力と平和 (岩波文庫)モーゲンソー 国際政治(上)――権力と平和 (岩波文庫)
    モーゲンソー,原 彬久

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    アメリカ外交50年 (岩波現代文庫)アメリカ外交50年 (岩波現代文庫)
    ジョージ・F. ケナン,George F. Kennan,近藤 晋一,有賀 貞,飯田 藤次

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    現代政治分析 (岩波現代文庫)現代政治分析 (岩波現代文庫)
    R.A.ダール,高畠 通敏

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    法における常識 (岩波文庫)法における常識 (岩波文庫)
    P.G. ヴィノグラドフ,Paul G. Vinogradoff,末延 三次,伊藤 正己

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    権利のための闘争 (岩波文庫)権利のための闘争 (岩波文庫)
    イェーリング,Rudolf Von Jhering,村上 淳一

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    デモクラシーの本質と価値 (岩波文庫)デモクラシーの本質と価値 (岩波文庫)
    ハンス ケルゼン,Hans Kelsen,西島 芳二

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