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    (忙しい人のための要約)

    引用マトリクスの作り方
    1.表の上端に集めた論文名等を横方向にコピペ
    2.集めた論文から参考文献リストをまとめて縦方向にコピペ
    3.他の文献を参照している箇所を拾い出して表を埋める
    4.言及が多い順に被引用文献(行)を並び変える

    mat-make.png



     何も知らない分野について、いや自分の知りたいことが何の分野の事項なのか分からないことについて、基本文献を探したいとしよう。
     
     独学者にとってはかなり不利な(しかしよくある)状況にあっても、英語の文献を探す場合には、検索エンジンやデータベース以前から、紙のツールと標準的な手順が存在する。

    (1)専門事典(Special Encyclopedia)の横断検索ツールを引く(どの辞書のどこに載っているかが分かる)
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    (2)各事典の該当項目から参考文献リストを拾い出す
    (3)何種類の辞書に登場したかで参考文献をソート(登場回数が多いほど重要な文献)


     日本語にはこのレベルの横断検索ツールは存在しないが、複数の参考文献リストが得られるなら、ソースを事典に限る必要はない。
     学術論文は、先行する文献への参照を明記するルールに則って書かれるから、もちろん利用することができる。
     辞書も教科書もまだない新しい分野やマイナー分野では、論文をソースにするのがむしろ普通であり合理的である。
     
     もう一工夫して、文献の間の参照関係をただ数え上げるだけでなく、参照の内容をも拾い上げるならば(ある文献の位置づけなどのコンテクストを知るのに必要な情報が含まれることが多い)、グラフ(ネットワーク図)よりもマトリクスで整理する方がいい。

    graph-matrix.png

     
     今回紹介する引用マトリクス(Quotation Matrix)は、マトリクスによる文献整理の方法を参照・引用関係に適用したものである。
     以前に紹介したコンテンツ・マトリクスが複数の文献の《中身》を一望化(一目で見えるように)するものだとすれば、引用マトリクスは複数の文献の《間/関係》を一望化するものだと言える。
     両者は図と地(Figur und Grund)あるいはコンテンツとコンテクストの関係であり、複数の文献を取り結びながら読む〈面の読み〉において相補的な役割を担う。


    (関連記事)
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    集めた文献をどう整理すべきか?→知のフロント(前線)を浮かび上がらせるレビュー・マトリクスという方法 読書猿Classic: between / beyond readers 集めた文献をどう整理すべきか?→知のフロント(前線)を浮かび上がらせるレビュー・マトリクスという方法 読書猿Classic: between / beyond readers このエントリーをはてなブックマークに追加




    1.いくつかの文献を入手する

    2.文献たちから参考文献リストを集める

     論文の末尾には、その論文で引用・参照した他の文献が列挙されている。
     この参考文献のリストを、自分が集めた論文のそれぞれから集めてくる。



    (文献1から拾った参考文献リスト)
    ・秋山豊 (2006)『漱石という生き方』トランスビュー。
    ・石原千秋 (2010)『漱石はどう読まれてきたか』新潮選書。
    ・江藤淳 (1970)『漱石とその時代 第1・2部』新潮選書。

    (文献2から拾った参考文献リスト)
    ・江藤淳 (1970)『漱石とその時代 第1・2部』新潮選書。
    ・長尾剛 (1993)『漱石ゴシップ』文春ネスコ。
    ・夏目鏡子 (1966) 『漱石の思い出』角川文庫。

    (文献3から拾った参考文献リスト)
    ・石原千秋 (2010)『漱石はどう読まれてきたか』新潮選書。
    ・江藤淳 (1970)『漱石とその時代 第1・2部』新潮選書。
    ・長尾剛 (1993)『漱石ゴシップ』文春ネスコ。
    ・福田清人 (1966)『夏目漱石 人と作品』清水書院。



    これをひとつのファイルにまとめてソート(昇順で並べ替え)すると以下のようになる。


    ・夏目鏡子 (1966) 『漱石の思い出』角川文庫。
    ・江藤淳 (1970)『漱石とその時代 第1・2部』新潮選書。
    ・江藤淳 (1970)『漱石とその時代 第1・2部』新潮選書。
    ・江藤淳 (1970)『漱石とその時代 第1・2部』新潮選書。
    ・秋山豊 (2006)『漱石という生き方』トランスビュー。
    ・石原千秋 (2010)『漱石はどう読まれてきたか』新潮選書。
    ・石原千秋 (2010)『漱石はどう読まれてきたか』新潮選書。
    ・長尾剛 (1993)『漱石ゴシップ』文春ネスコ。
    ・長尾剛 (1993)『漱石ゴシップ』文春ネスコ。
    ・福田清人 (1966)『夏目漱石 人と作品』清水書院。



     こうして同じ文献同士がくっついて並ぶので、どの文献がより多くの論文から参照されているかは一目瞭然である。

     参考文献を書く方式は複数あるので、同じ文献でも論文によって書き表し方が異なる場合もある。
     大きく分けると
     
    ・著者名+発行年+題名(+このあと論文なら掲載誌名と掲載号やページ数、書籍なら発行所などの情報が続く)


    (例)
    ・Smith, John Maynard. (1998). The origin of altruism. Nature 393: 639-40.
    ・Smith, J. (2005). Harvard Referencing, Wherever, Florida:Wikimedia Foundation.



    ・著者名+題名(+このあと論文なら載誌名と掲載号、著作なら発行所などの情報が続く。発行年は掲載号の含まれるか、書籍の場合は最後に回されたりする)


    (例)
    ・Smith, John Maynard., "The origin of altruism". Nature. 1993 Jun 3;363: 639-40.
    ・Smith, J., Harvard Referencing, Wherever, Florida:Wikimedia Foundation; 1998.



     書き方が混在していると、ソートをかけて並べ替えた時、同じ文献なのに隣同士に並ばない。
     (いずれの場合も著者名が先頭なので、それほど離れ離れになるわけではないが)。

     


    3.引用マトリクスをつくる

     引用マトリクスと、あつめた文献のそれぞれが、(a)他のどの文献を参照して(b)どんなことを言っているかを拾い集め、それを1つのマトリクスにまとめたものである。
     
     引用マトリクスは文献の間の参照関係をその内容まで含めて一望するためのツールである。

     まず外枠を入力し、ひろあげた情報でマス目を埋めて、最後にソートをかけることから、表計算ソフトの上で作成・更新することを想定している。




    (1)表の上端に集めた論文名等をコピペ

    mat-pre1.png


     表の上端には、集めた論文を並べる(上図のオレンジの囲み部分)。
     例では著者名、発行年、題名を入力している。

     こちらが引用する文献サイドとなる。

     入力段階では、入手できた順に左から右へ並べている。マトリクスが埋まってきてから必要なら並び替える。

     被引用文献に並んだ文献も入手できた段階で、表の上端の引用する文献サイドに並べる。参照文献リストについても拾って追加していく。



    (2)表の左端に合わせた参考文献リストをコピペ

    mat-pre2.png


     集めた論文から拾い集めた文献リストをひとつにまとめ、著者名+発行年で並び替え(ソートし)、重複は除いたものを表の左端に縦向きに並べる(上図のブルーの囲み部分)。
     
     こちらが被引用文献サイドとなる。
     
     ここは著者名+発行年の順でソートしておきたい。
     理由は、ハーバード方式と相性が良いからだ。
     ハーバード方式は、それまで本文中や各ページの脚注に散在させていた参考文献の書誌を論文末尾にまとめて列挙し、本文で言及する箇所では〈著者の姓と発行年〉によって参照文献を指示する方式である。


    ハーバード方式の例

    (本文)
    ……ヨーロッパでもそうだが、パートタイマーの増加は、経済のサービス化や女性の典型的な職業が事務職になってからみられる現象である(Smith,1979)。……

    (文献リスト)
    ……
    ・Roistacher, E. A., & Young, J. S. (1980). Working women and city structure: Implications of the subtle revolution. Signs, 5(3), S220-S225.
    Smith, R. E. (1979). Subtle Revolution, The: Women at Work., Washington D.C.:The Urban Institute.
    ・Sorensen, G., Pirie, P., Folsom, A., Luepker, R., Jacobs, D., & Gillum, R. (1985). Sex differences in the relationship between work and health: the Minnesota Heart Survey. Journal of Health and Social Behavior, 379-394.
    ……




     引用マトリクスでは、ある文献が、(a)他のどの文献を参照して(b)どんなことを言っているか、を拾い集めるが、上の例のように、ハーバード方式では、本文を見るだけでどの文献を参照しているかが分かるので、(a)(b)両方の情報が一度に得られる。

     あとで入手できた論文が増えた場合は、追加で拾い上げた参考文献を被引用文献サイドの一番下以降に追加して、再度ソートをかけて、重複したものは新しく加わった方を抜いておく。





    (3)他の文献を参照している箇所を拾い出す

      集めた論文それぞれを読み、本文及び注釈から他の文献を参照している箇所をみつけ、言及している内容を引用マトリクスの該当箇所へコピペしていく。
     
     どこが該当箇所であるかは、図のとおり。

    mat-input2.png

     つまり、引用する側の文献A(図のオレンジ部分)と引用される側の文献B(図のブルー部分)が交わるマス目が、文献Aが文献Bを引用・参照して言及している内容を入力する該当箇所である。
     
     作業的には、入手した論文の一つを読みながら、その文献が対応する縦列(図のオレンジ部分)を埋めていき、1つの論文が終われば、次の論文に進み対応する別の縦列を埋めることの繰り返しになる。
     
     こうして入手できた論文について(3)の作業をやり終えると引用(クォーテーション)マトリクスができあがる。



    (作業上の諸注意)

     前述したように、本文中に参照文献への指示(著者の姓と発行年)を埋め込んだハーバード方式を採用している論文だと、この拾い上げ作業はやりやすい。本文を見るだけで、どの被引用文献なのかが分かり、埋めるべきマス目がどれか分かるからだ。
     これに対して、自然科学系の論文で多く用いられるバンクーバー方式(参考文献と本文を引用順の文献番号で関連付け、参考文献の列挙を引用順に行う方式)では、本文と末尾の参考文献欄を行ったり来たりしないと、(a)他のどの文献を参照して(b)どんなことを言っているか、という2つの情報がそろわない。
     手っ取り早くこの事態を解消するにはエディタの検索・置き換え機能などを使い、本文中の文献番号を末尾に番号付きで列挙された参考文献の書誌情報で、置き換えることである。
     しかしバンクーバー方式を採用する論文が他の文献を参照する数は普通多くないから、前処理をしないで済ませても実際はそれほど手間はかからない。

     

    バンクーバー方式の例

    (本文)
    ……ヨーロッパでもそうだが、パートタイマーの増加は、経済のサービス化や女性の典型的な職業が事務職になってからみられる現象である[3]。……

    (文献リスト)
    ……
    [2] Roistacher, E. A., & Young, J. S. (1980). Working women and city structure: Implications of the subtle revolution. Signs, 5(3), S220-S225.
    [3] Smith, R. E. (1979). Subtle Revolution, The: Women at Work., Washington D.C.:The Urban Institute.
    [4] Sorensen, G., Pirie, P., Folsom, A., Luepker, R., Jacobs, D., & Gillum, R. (1985). Sex differences in the relationship between work and health: the Minnesota Heart Survey. Journal of Health and Social Behavior, 379-394.
    ……







    (4)言及が多い順に被引用文献をソートする

     引用マトリクス埋まったマス目は、表上端に並んだ引用側文献から表左端に並んだ被引用文献への参照関係があることを示しており、マス目の内容は参照の内容(例えば引用文献が被引用文献をどのように要約し、どのように評価しているか等)が書かれている。
     
     では、埋まったマス目の数を数えて(表計算ソフトのCOUNTA関数などが使える)、数の多い順に被引用文献(各行)をソートしよう。
     これによって、より多く参照された文献がマトリクスの上部に浮かび上がってくる。
     こんな風に。

    mat-comp.png


     
     入手できた論文が少ないと、被引用数についてあまり差がつかないこともある(最大被引用数=集めた論文数だから)。
     その場合は言及量(LENB関数が使える)や言及内容によって被引用文献(各行)を並べ替える。
     

     
    (5)引用している側の文献を並び替える

     引用している側の文献(各列)についても、埋まったマス目の数などで(多いほど左へ)並び変えることもできる。
     引用・参照する文献の多さは、論文の質や重要度と直接関連はないが、論文の種類(たとえば展望論文は多くの論文を参照する)を示唆しているかもしれない。

     しかし機械的に並べ替えるよりも、人の手で分類・並べ替えした方が得るものが大きいだろう。
     例えば、引用している側の文献(各列)を発行年順に並べ替えた時、年代によって参照される文献の移り変わりがあることや、逆に時代を越えて参照され続ける文献の存在が浮かんでくる場合がある。つまり、ある年代まで参照・引用されていた文献がある時以降参照・引用されなくなっていることや、どの年代の文献からも参照・引用されていることが引用マトリクスの上に現れる。
     同様に、著者やグループ別あるいは分野別に引用している側の文献を並べれば、特定の著者やグループ、特定の分野の研究だけが参照・引用する文献、また広く分野を超えて参照・引用される文献が浮かび上がる。

    mat-dist.png




    4.引用マトリクスの読み方・使い方

     引用マトリクスは、文献の間の参照関係をその内容まで含めて一望するためのツールである。
     引用マトリクスからは、文献を孤立させ/単独で読んでいたのでは分からない文献間の関係が浮かび上がる。
     
     
    (1)文献の評価を知る

     左端部からある行(被引用文献)を選び、マトリクスを横に読んでいくと、その被引用文献を参照して複数の論文がどんなことを言っているかが比較できる。
     複数の論文が同様のことを言っているなら、それはその被引用文献について共有された見解なり評価を示している。
     複数の論文が食い違ったことを述べているなら、その被引用文献についての見解なり評価は論者によって別れていることが分かる。


    (2)基本文献を知る

     言及数で並び変えたことで、よく引用・参照される文献ほど引用マトリクスの上部に集まっている。
     加えて引用マトリクスでは、複数の文献にどのように言及されているかをまとめて読むことができる。
     複数の文献から引用・参照され、その上、基本概念やアプローチに関して言及されている文献は、そのテーマに関して必ず触れるべき基本文献であると考えてよい。
     
     
    (3)研究・文献の分布を知る
     
     先にふれたように引用マトリクスの上にいくつかのグループを発見できる場合もある。
     たとえばグループごとに必ず引用・参照する基本文献が異なる場合があるかもしれない。それらは異なる学派やディシプリンに基づく研究集団の存在(その間の隔たり)を示しているかもしれない。
     
     

    (サンプルの引用マトリクス作成につかった文献)
    野中 亮.(2003).デュルケームの社会学方法論における象徴主義の問題.大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要.2..161-175
    野中 亮.(2002).「社会形態学」から「儀礼論」へ : デュルケーム社会理論の変遷.大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要.1..195-209
    小川 伸彦.(1994).<論文>デュルケームの儀礼論への一視角 : 二つの規範と「社会」の実在性.京都社会学年報 : KJS.1..31-48
    樫尾 直樹.(1991).儀礼類型論と供犠の優越性 : デュルケム宗教社会学の理論的可能性(1).東京大学宗教学年報.8..21-35


     
       
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