今日は縮刷版として再登場したこの書物について書く。


    縮刷版 社会学文献事典縮刷版 社会学文献事典
    見田 宗介,上野 千鶴子,内田 隆三,佐藤 健二,吉見 俊哉,大澤 真幸

    弘文堂
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    理由1 社会学系ブックガイドの決定版である
     
     社会学および社会学へ影響を与えた周辺領域(哲学、歴史学、言語学、教育学、心理学、文芸批評等)の基本書をカバーした事典である。

     用語や概念についての辞典はいくつもあるが、この分野の文献に焦点を合わせた事典には類書がない。
     いや、正確に言えば、1998年に出たこの『社会学文献事典』の成功によって、同じ弘文堂から『精神医学文献事典』(2003)、『日本史文献事典』(2003)、『文化人類学文献事典』(2004)、『宗教学文献事典』(2007)という弟書たちが誕生した。

     ブックガイドといえば、紙面の制約からせいぜい2〜3百字程度の紹介文のものが多い。あまり少ない字数だと紹介よりも惹句(おすすめ)にしかならず、その内容を伝えて読み手に判断させるところまで到達しないが、この本は違う。
     事典という性質を活かして、1冊にまとめたものとしては、紹介冊数と紹介文量を充実させ、どちらも疎かにしないぎりぎりのところでバランスを取っている。

     加えて以下のような長所からこれを上回るものは当分出ないと思われる、人文・社会系では最強のブックガイドである。



    理由2 1冊で千冊の内容を知ることができる

     1000冊の内訳は、社会学の画期となった主要な古典100冊、プラス重要文献900冊。
     主要な古典100冊については見開き2ページ(2段組)=3,200文字、重要文献は1/2ページ=800文字をつかって、理論構成と要約、加えて影響や現代的意義などを紹介+解題する。

     選書も、主要文献100冊の目次をそのまま読むべき古典リストとして使えるほどのこの分野の骨格を形成する大定番のラインナップ。
     重要文献900冊の方も王道路線。これが150冊くらいだと独断と偏見がきつく出るが、これくらいあるとそうした弊害はかなり緩和される。むしろ、手薄の分野に自分の関心と接する未知だったり未見だったりする文献が見つかるぐらいの規模となっている。


    (この手の本が嫌いな人へ)
     自分のような生来の横着者ですら、10代の頃にはこの手の概要紹介本を「なんかズルい」と思って敬遠していた。
     今は使えるものはどんどん使えばいい、と考えている。
     概要を読む事は、その書物を読むことの代わりにはならない。
     しかし、その書物と出会う機会にはなる。
     そしてよい解題は、読書の際の〈手すり〉になる。読む足取りがおぼつかなくても先に進む助けになる。
     読むこと、そして理解することはあなたにしかできないが、そのための助けを得ることは恥ずべきでない。むしろ忌避することは読書回避の言い訳とみなしてもいいくらいだ。

     世の中には、予断を抱かず古典にぶち当たれ、という人がいる。
     しかし人は誰しも何事かを知っている。我々は白紙ではない。予断を抱かずにはおれないのだ。
     ならば、予断を都合の良いようにデザインすべきである。
     概要を知ることは、思った以上の効果がある。
     そもそも前提や文脈(コンテクスト)が分からないと文章は分かるものではない。
     難しい本をすらすら読んでいる(かに見える)人は、それまでに読んだ(たくさんの)本の知識を駆使して読んでいるのである。

    (参考記事)




    理由3 著者自身・訳者自身が解題を担当
     
     中には著者や訳者が亡くなっていたり、他の理由で別の人が担当しているものもあるが、基本的には紹介する書物が邦書なら書いた著者本人、翻訳書なら訳した訳者本人が解題を担当していて、考えられる限り最高に贅沢な執筆陣である。
     例を挙げると、土居健郎『甘えの構造』を土居健郎が、加藤周一『雑種文化』を加藤周一が、宇沢弘文『自動車の社会的費用』を宇沢弘文が、宇井純『公害原論』を宇井純が、木村敏『自覚の精神病理』を木村敏が、河合隼雄『昔話と日本人の心』を河合隼雄が、中根千枝『タテ社会の人間関係』を中根千枝が、梅棹忠夫『文明の生態史観』を梅棹忠夫が、解説するという豪華さである。

     贅沢だからといって必ずしもベストとは限らないが、フォーマットを決めているせいで解題の出来不出来が一目瞭然となっており、信用すべきでない少数の例外はすぐに見分けがつくので問題は少ない。
     一つだけ例を挙げると、クーン『科学革命の構造』について訳者の中山茂が解題を書いているのだが、どうでもいい周辺事情ばかりで紙面を埋めていて、この著作の内容・構成にはほとんど何も触れておらず、他の書についての訳者による解題と比べるとその差は歴然である。
     他には要約と解題を書けというのに思い出話を書いてしまっているお調子者もいるが(山口昌男である、こっちはちょっとおもしろいのが業腹である)、これら例外であり、他はおしなべて一定の水準を維持している。



    理由4 充実した索引が利用価値を高めている

     索引が貧弱だと、100+900冊分の概要を1冊の書物に束ねた威力が半減する(大抵のガイドブックがここのところをさぼっていて、単なる書評の書きっぱなしで終わってる)。
     索引は和文書名、外国語書名、著者名、執筆者名の他に、主題・事項名があり、ひとつの主題について分野横断的に検索できる。
     分野以外に見ておくと嬉しい文献が見つかったり、気付かなかった視点や発想をもたらす意外な書物と出会えたりできる。



    理由5 オマケも気が利いている
     
     オマケだが、解題付の1000冊の他に、26の分野について発表年順に並べた年表式文献リスト(合計3千点以上の文献書誌データ)がついており、そこからさらに本文の関連項目にもアクセスできるすぐれもの。
     本体(100+900冊分の解題)がしっかりしているので、これも意外に役立つ。

     さらに社会学+周辺分野で刊行された講座もの・叢書もの・シリーズ・全集・著作集について、その巻立てや構成、目次の一覧が付いている。
     これまた一見、地味なオマケだが、図書館の検索(OPAC)でも、各巻の内容まで入力しているとは限らないので意外に検索しにくいので心憎いリストである。
     この手の講座ものは、大部の教科書企画が成立しにくい日本の出版事情では、英語の何でも書いてある教科書のカウンターパートをつとめる書籍類である。最新のことは書いていないが、その分野で共有すべき=知っておくべき知識がまとめてある。調べものをする立場から見ると、事典と書誌につづく第3のレファレンス本である。




    理由6 今なら新刊で安く手に入る

     以上のような利点の多い一冊であったが、ただひとつ(というかふたつ)看過できない欠点があった。
     高価なこと(元々は定価で16,000円)、そして長年入手困難だったことである。
     知る人は知る(そして手放さない)せいで、古書の価格も高騰(数万円)していた。


    社会学文献事典―書物の森のガイドブック社会学文献事典―書物の森のガイドブック
    見田 宗介,内田 隆三,吉見 俊哉,上野 千鶴子,佐藤 健二,大澤 真幸

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     これが古書店で1万円以下の出物があるという話なら、親しい友人にひっそり書き送るだけにしていただろう。
     
     しかしこの本は、すでに自分でどんどん読み進めている中級者よりも、もうこの手の本はゲップが出るほど読んだという〈すれっからし〉さんよりも、今まで読んだことのないような本をこれから読もうとしている人たち(特に近くに先達も本を読む友人も見つけ難い人たち)にこそ手に入れて座右に置いてもらいたい書である。

     これが縮刷版となって、新刊書となって、4千円ちょっとで手に入る価格となって再登場した。

     今だったら、もう誰に遠慮することなく紹介できる。




    (参考記事)


     
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