読むための注意力と記憶力を調達する

    少女:頭が疲れるぅ。

    少年:何してるの? ああ、読書の杖?





    少女:うん、このあいだ先生に教えてもらったの。この段落ごとに要約していくのって結構きついけど、おもしろいね。

    少年:そう?

    少女:まとめなきゃって思って読むせいか、細かいとこも読めてる感じがする。1回読んでる本なのに、あれこんなこと書いてあったんだ、って何度も思うもの。

    少年:先生は、精読とは違う本を読むことです、って言ってた。

    少女:確かにそんな感じ。あと、こうやって要約を書き留めてるせいか、内容を詳しく覚えてる気がする。何故だか、理解度も増してるような。

    少年:普通の本は、けっこう冗長というか、繰り返したりまとめなおしたりして、飛ばして読んでも理解できるようになってる。難しい本はそこまでユーザーフレンドリーじゃないから、同じ読み方をしてると段々分からなくなって途中でやめてしまいがち。

    少女:それ、わたしです。

    少年:込み入った内容を説明するのに、ひとつひとつ前提を積み上げていくように書いてあるから、後ろに行くほど、それまでに出てきたたくさんの前提をちゃんと理解して、なおかつタイムリーに思い出せないと理解が難しくなる。

    少女:そうか、段落の要約って、理解に必要な注意力と記憶力を調達するため、というか、詳しく読むだけじゃなくて、込み入った議論の前提をちゃんと理解のために使えるようにしておくことでもあるんだ。前に数学の本の読み方で、そういうこと言ってたね。

    少年:書いている人は何度も考えたり書き直しているから、たくさんの前提をちゃんと取り扱えるけど、はじめて読んだ普通の読者は、それまでに書いてあることを100%理解していたり覚えていたりしない。読んでいる本に対して、書いている人レベルまではいけなくても、それになるべく近づくための読書の杖でもあるんだ。




    外×手すり=原典注釈目次マトリクス


    少女:それでね。読書の手すりと杖には、もう一組あるって先生は言ってたんだけど。

    少年:うん。読んだ分を塗りつぶすのと、段落ごとの要約を書き残すのが1冊を対象とするものだとしたら、もう一組のは、その外に出るというか。

     読書の手すり  読書の杖 
     内 internal  読んだ分マーキング  アウトライン埋め 
     外 external  原典注釈目次マトリクス  拡張レーニン・ノート 


    少女:この「原典注釈目次マトリクス」って? 前にコンテンツ・マトリクスって言ってたもののこと?





    少年:うん、あれの応用というか。コンテンツ・マトリクスは、あるテーマについて集めた文献の目次や小見出しを表にまとめて一覧するってやり方だったけど。

    少女:それで似てるところを囲んだり線で結んだりするんだったね。

    少年:やることは同じ。ただ、今回は〈自分がこれから読もうとしている難しい本〉をテーマにマトリクスをつくる。たとえば、いわゆる古典と呼ばれる本は、ただ古いだけじゃなくて、今までにいろんな人に読み継がれてきたからそう呼ばれるわけでしょ?

    少女:そうね。

    少年:たとえば読みたい古典のほかに、その古典について解説したり注釈したり批判したり論じたりしている文献を集めて、これらを一緒に表にまとめて一覧する。それから関係あるところを同じ色をつけたり、線で結んだりしておく。

    ssr-mat.jpg
    (クリックで拡大)



    少女:……案外、便利かも。古典を読んでて詰ったら、マトリクスの色分けをたどってどの解説書のどこを読めば助けになるか、一目瞭然だし。

    少年:一冊の本を読むために、その外に設けた手すりって意味で、外の読書の手すり(extarnal reading-handrail)って言ってる。

    少女:古典って呼ばれるくらいの本なら注釈書とか解説書があるだろうけど、そうじゃない本の場合は?

    少年:いろいろ手はある。ちゃんとした注釈書や解説書じゃなくても、有名な本なら読書会やゼミ発表用のレジュメがネットに転がってるし、書評もいい加減なものでなければ参考になる。『社会学文献事典』みたいな概略をまとめた本も利用できるかもしれない。どれも英語まで範囲を広げるともっと集まるし、論文とか大部な専門事典の項目なんかも使える。

    少女:これってターゲットの本を読む前に作るのでいいの?

    少年:うん。ターゲットの本の目次読みも兼ねるし、さっきの読み始めて詰った場合用に解説書なんかに避難先を確保する意味もあるし。

    少女:ってことはターゲットの本に先に当たるのね。解説書を読むよりも。

    少年:あんまりこだわらないけど。ただ、そうだな、本文より先に目次を読むといまいちピンとこなくて、本文を読んでから目次を見ると全然違った感じがする時ってない?

    少女:ある。内容が頭に入ったからだよね。

    少年:うん。目次に出てくる言葉になじみがなかったり、その本の中で特別な意味を与えられてたりすると余計にそう感じる。もちろん目次を味わい深く読むために本文を読め、というのは何かヘンだけど。

    少女:今の話だと、解説書を味わい深く読むために古典を読め、みたいな。

    少年:ターゲットの本を読んでからの方が、解説書がなんでそんなことを取り上げるのかこだわるのか、よく分かったりすることがある。目次はその本にふつう一種類しかないし本文よりずっと短いから、目次→本文→目次と、前後とも読むのがいいと思うけど、解説書は何冊もあることが多いから、目次だけ目を通しておいて、ターゲットの目次→解説書の目次→(原典注釈目次マトリクス)→ターゲット本→解説書みたいな順番がいいかも。




    外×杖=拡張レーニンノート

    少女:最後の「外×読書の杖」のところに、なんかアレな名前があるんだけど。

    少年:レーニンのノートって見たことない? 昔は翻訳が文庫本でも出てたんだけど。


    Lenin-j.jpg
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    ……岩波文庫は縦書き、国民文庫は横書き。



    lenin-r.png
    (クリックで拡大)

    (原文(ロシア語全集版)はこちら(pdf)、英訳はこちらで読める)

    手書きはこんな感じ↓
    Leninnote.jpg
    (クリックで拡大)



    少女:「子供っぽい」とか「空文句」とか、なんかマージン(欄外)でめちゃくちゃツッコミ入れてるんだけど。

    少年:本体部分は、読んだ本の要約と抜書き。亡命中で図書館の本を読みながらつくったノートらしい。本を持って逃げられないから、ノートだけで内容を思い出せるように詳しい目に書いてある。

    少女:私たちがやったのだと、段落ごとに要約をつくったのが近い?

    少年:うん。これにもう1段(コラム)追加したのが「拡張レーニンノート」。

    少女:何を追加するの?

    少年:今「アウトライン埋め」と「原典注釈目次マトリクス」をつくったから、一方で自分で作った段落ごとに要約があって、外には目次同士を関連付けたターゲット本についての解説書や注釈書があるでしょ。ノートを3段に区切って、自分の要約と他の人が作った解説・注釈に、それぞれ1段ずつ割り当てる。

    少女:残った1段はツッコミ用?

    exlenin.png
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    少女:確かに段落を要約しながら、ぶつぶつ思ってた。「ここ分からない」とか「これってさっきでてきたこと?」とか。

    少年:そうそう。あと自分の要約と、解説書の説明をぶつけても、いろいろ思いついたりつぶやきたくなったりする。そういうのもメモしていく。本居宣長が初学者向けに書いた『うひ山ぶみ』って本に自分で註釈をつけるのが一番の勉強だって書いてるけど、拡張レーニンノートには、テキストと取っ組み合うための基本的作業がフォーマットとして組み込まれてる。一字一句に注意を払ったり、語句や意見の展開される順序を逐一詳しく検討しながら、テクストの短い1節1節を細かく詳しく解釈することをクロース・リーディング(close reading)といったりするけど、何かを丁寧に読み解か(close reading)なきゃならないときに「拡張レーニンノート」は使えると思う。




     
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