シネクドキ探索
    ……それは何の一種か?


    少女:前に先生と話してて、昔の探しものは「それは何に属するのか?」を推測することがメインだった、というのを聞いたんだけど。

    少年:今もそうだよ。

    少女:でも、今は検索エンジンがあるじゃない。だから思いついた言葉を入力すると、何か結果が出てくるけど、昔はどの本で調べればいいかをまず決めないといけないから、「それは何に属するのか?」を考えるんだよね。

    少年:たとえば、ヘミングウェイについて調べようと思ったら、今ならGoogleに「ヘミングウェイ」と入力するだけでいいけど、昔は「ヘミングウェイについてどの本に載っているだろう?」という質問に答えるのに「ヘミングウェイは何に属するのか?→アメリカの小説家→アメリカ文学の棚とか事典を見よう」って考えるってこと?

    少女:そうそう。今もそんな風に考えてる?

    少年:少なくとも探し方の一つの柱だと思う。我流の呼び方だど〈シネクドキ探索〉って言ってる。

    少女:また知らない言葉が出てきた。

    少年:シネクドキっていうのはレトリックの用語で、上位概念を下位概念で、または逆に下位概念を上位概念で言い換えて、カテゴリー関係を上ったり下ったり表現のことなんだけど。たとえば日本語で「花見」っていうと、「ただ(なんでもいいから)花を見ること」じゃなくて、「(花の中でも、特に)桜の花をみること」を意味する。これがシネクドキ。

    少女:「桜の花」は「花」の一種で一部だけど、上位概念の「花」で下位概念の「桜の花」を表わすやり方ってことね。これがどう探しものと関係するの。


    hana-sakura.png


    少年:「ヘミングウェイ」は「アメリカの文学者」の一種だけど、上位概念の「アメリカの文学」について探すことで下位概念の「ヘミングウェイ」についての情報を得るやり方を〈シネクドキ探索〉って呼んでる。

    bungaku1.png

    少女:わざわざ名前をつけるまでもなく、普通にやっていることじゃないの?

    少年:うん。なんで〈シネクドキ探索〉が当たり前に思えるくらい、探しものの中心にいるかといえば、ぼくらの知識の分類やそれに基づく調査ツールが、より広い概念(上位概念)が、より狭い概念(下位概念)を包み込むように、階層的に整理されて組織化されているから。図書館の分類とかが分かりやすいかな。でも誰もがやってるわけじゃない、というか〈シネクドキ探索〉ができる人は案外少ない。

    少女:そうなの?

    少年:本を探すことに関して言うと、図書館の検索は検索エンジンより使いにくいと言われてきたんだけど、理由のひとつは、一冊単位でしか探せなかったから。知りたいことをただ入力しても、そのテーマについて一冊まるごと書いた本があるとは限らない。たとえば「高脂血症」と図書館の検索に入力してもうまくいかない。「高脂血症」ぐらいだと一冊まるごと書いた本はないことはないけど、すごく専門的で普通の人がみたいものじゃない。

    少女:「高脂血症」の上位概念を考えればいいのかな? ……って、何かの病気ってことわかるけど、どの分野の病気かは分からないよ。

    少年:だったら「病気」一般を扱った、一般向けの書物を探すといい。「高脂血症」について載っているのは1ページ満たなくても、かえってそれくらい簡潔な方が情報ニーズに合ってたりする。

    少女:それくらいだとネットの検索のほうが手軽だね。でも、ある本の一部分だけが必要なことって、調べものには多いかも。ああ、こういうことを知らないと、図書館は貸本屋でしかなくなるのかな。

    少年:多分。知りたいことから始めてその上位概念へとたどっていく〈シネクドキ探索〉ができると、図書館は段違いに役に立つところになる。当たり前すぎるんで、わざわざ教えてもらえないことが多いけど。



    ◯シネクドキ探索をサポートするツール

    少女:でも実際に〈シネクドキ探索〉とすると、ヘミングウェイはアメリカの小説家(の一種)だと分かるためには知識が必要だよね。ヘミングウェイくらいなら知ってるけど、さっきの高脂血症みたいに何の一種か、知識がないから分からない、でも、だからこそ調べたいってことが多い気がするけど。

    少年:いろいろ頼ることができるものはあるよ。まず〈シネクドキ探索〉のアプローチをもっと進めるとヘミングウェイ→(その上位概念)→アメリカの文学者→(その上位概念)→文学者→(その上位概念)→人物…ってとこまでいく。ここまで来ると「何してる人か分からないけど、人だってことは分かるから人物事典を引こう」となる。

    bungaku2.png

    少女:じゃあ人物であることも分からなかったら?

    少年:そういやロートレアモンを鉱物の名前だと思っていた人がいたけど。だったら更に上位のカテゴリーをカバーする百科事典を引く。まあ今だと、検索するのが速いけど。そうして「アメリカの小説家」っていう最低限の情報が手に入ったら、もっと詳しい情報はより狭いカテゴリーを扱った資料で見ることができるだろうと考えて、今度は下位概念の方向へと(必要なら)進んでいくことができる。

    少女:そうか、上位の概念やカテゴリーへ向かうだけじゃなくて、今度は下位の概念やカテゴリーに返ってくるまで含めて〈シネクドキ探索〉なんだ。

    少年:だからこそ、調べものという作業の一つの柱になってる。あと他に、知識がない場合に〈シネクドキ探索〉を助けるツールでいうと、前に紹介したリサーチ・ナビ(http://rnavi.ndl.go.jp/rnavi/)のテーママップは、上位概念や上位カテゴリーを図解化してくれて分かりやすい。他に「調べ方」や該当する書物や雑誌記事、それにキーワードやウィキペディアのリンクも一遍に出してくれるので、まったく知らないことなら探しもののスタートに使える。(例:「ヘミングウェイ」)

    hemi-part.png


    少女:これ見ると、ヘミングウェイって、「ノーベル賞」もらってたり「自殺した人物」だったり「イリノイ州の人物」だったりするのね。

    少年:他には、入力したキーワードが日本十進分類法のどこに当てはまるかをツリー上に表示してくれるNDC Finder(http://inforg.slis.tsukuba.ac.jp/ndcfinder/)も分かりやすい。

    NDCfinder.png


    (テーママップについての参考記事)





    メトニミー探索
    ……それは何のそばにいるか?


    少年:実は、わざわざ名前をレトリック論から借りてきたのは、探しものの他のアプローチと対比させるためだったんだけど。

    少女:他の何と?

    少年:探しもので、これも普通にやっていることだけど、隣接性というか共起関係を手がかりにするアプローチがある。これも我流だけど〈メトニミー探索〉って呼んでるんだけど。

    少女:それもレトリックの用語?

    少年:うん。たとえば「永田町」で「日本の国会」を表わすようなのをメトニミーっていう。国会議事堂が建っているのが永田町だっただけで、「永田町」と「日本の国会」の間には、概念的に包含関係とか上下関係があるわけじゃないよね。

    少女:そうだね。そういう、隣り合ってたり近くにあったりするものを手がかりにするって、探しものでいうとどういうこと?

    少年:「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」的アプローチというか、こっちは検索エンジンのような全文検索ができる場面で活躍する。たとえば、欲しい情報に含まれているはずの表現を検索ワードに含めると、要らない情報が除かれて検索精度があがる。

    少女:前にレシピを探すのには「グラム」を検索ワードに入れるといい、って言ってたね。あと「血を吸う」を英語でなんていうか調べるのに「mosquito(蚊) * blood(血)」で検索する、とか。

    少年:もっと普通の例を出すと、その分野の専門用語とか研究者の名前を付け加えて検索する。

    少女:そうすると「欲しい情報に含まれているはずの表現」って、その分野の知識がないと思いつかないんじゃない?

    少年:プラトンの対話篇『メノン』に出てくる探索のパラドクスだ。探している対象が何であるかを知っていなければ探しようがない(けれど、知っているならばもう探す必要がない)。でも現実には、検索のマタイ効果(知識の富めば富むほど探しものは捗るからますます知識に富む)みたいなことはあるけど、探しものをはじめると、入手できた文献とか検索結果の中に、一緒に出てくる言葉が、次の検索に活かされる。入門書の目次でも、そこに出てくる言葉が次の手がかりになる。何も知らない場合は、とくにそうだ。探し始めれば何とかなることの方が、ずっと多い。



    ◯メトニミー探索をサポートするツール

    少年:でも、この問題は早くから知られてきたから、今の検索エンジンにはいくらか補完する機能がついてる。

    少女:なに、それ?

    少年:サジェスト機能。

    少女:検索サイトで入力すると候補が自動的に表示されるやつ? あれってそんな大層なもの? 入力の手間が省けるだけじゃないの?

    少年:サジェスト機能は、過去に自分が入力した文字やデータを再入力する手間を減らすオートコンプリート機能とは似て非なるものだよ。一度も入力したことのない単語だって出てくるでしょ。過去のユーザーがキーワードを入力した頻度が反映されて、あのキーワードを検索した人たちが、同時に入力した言葉が出てくる。いろんな人がどうやって/どんな言葉で調べものをしたのか、を煮詰めたもので、集合知というには大げさだけど、その切れっ端くらいではある。

    少女:「読書猿」って入力すると「読書猿 正体」「読書猿 何者」って出てくるんだけど。

    google-saru.png


    少年:一つ一つ見ていくのがまどろっこしい時……まったく未知の分野のこと調べ物する場合だけど、どんな言葉を付帯させたらいいか知るのに、こんなのをPythonで作って使ってる。「サジェストマップ」って名前をつけたけど。キーワードをGoogle Suggest APIに投げて、返ってきた答えをもう一度投げて、最後に結果をgraphvizってソフトで使えるように変換して渡してるだけのものだけど※。クリックすると、その該当の言葉の組み合わせでgoogle検索できるようにしてある(「高脂血症→原因→犬」とつながってる「犬」をクリックすると「高脂血症 原因 犬」でgoogle検索する)から、ネット調査の橋頭堡には使える。一つ作ったら、単語を追加したり、少し表現を変えて、何度かマップを作ると周囲を広げながら掘っていける。


    高脂血症+suggest
    (クリックでリンク付きのsvgファイルへ)


    ※設定は
    graph[layout = neato, concentrate = true, overlap = false, splines = true];
    ばねモデルによるneatoレイアウト(エッジをばねと見立てたとき、力の均衡が取れた状態)。長さが1より大きいエッジが束ね、ノードの重複を禁止。エッジはスプライン曲線にして極力ノードと重ならないようにする。



    少女:一見、ちょっとすごい感じだけど。

    少年:もっともらしいんだけど、分類をしてるわけじゃないんで、見かけほど意味がある図じゃない。あくまで縦に長いサジェストワードのリストより、一望化できるように一枚に配置したのがウリかな。だから初見ではこれ使うけど、後でサジェストのリストをペーストして、マインドマップのソフトの上で自分の手で整理してる。整理するには一通りは見なきゃならないし、知らない単語は調べなきゃならないから、分類整理してる間に未知のキーワードは学習できるし、キーワード同士のつながりも頭に入るから、背景知識の整理にはなる。まあ、教科書とか入門書がある分野なら、そっちを読む方が速いけど。


    (「欲しい情報に含まれているはずの表現」についての参考記事)






    メタファー/アナロジー探索
    ……それに当たるものは何か?


    少年:シネクドキ、メトニミーときたら、もっと有名なメタファーがある。

    少女:それは聞いたことある。比喩だけど、「〜のようだ」みたいに比喩であることを名乗ってないもののことだよね。

    少年:メタファーやシミル(直喩)は人間の類推能力の現れだとも言えて、知らないことや言葉が足りないことを扱う場合には便利で、かつ不可欠ですらある。

    少女:確かに、なんて呼んだらいいか分からないものって、確かに「◯◯みたいなもの」って言ったりするね。メタファー的な探し方ってどういうの?

    少年:ただ類似のものを探すっていう話ならWebcat Plus(http://webcatplus.nii.ac.jp/)の連想検索とかいろいろあるけど、メタファーというのは類似性をテコにするけど、その類似性はほんとは字義どおりの類似性じゃない。

    少女:また難しいこと言おうとしてる?

    少年:ちょっと、そうかも。近年のメタファー論は新たな意味の創発に重点を置いていて、陳腐な例だと「あの男は狼だ」という表現がメタファーなのは、その男の人の見かけが狼そっくりってことじゃないよね? 狼みたいに毛深いとかしっぽがあるとかって話じゃなくて、本来異質であるはずの「男」と「狼」を出会わせぶつけることでメタファーは生まれる。狼のもつある側面がその男の側面とどこか重なりあう部分を発見することが、イコール比喩を理解することだったりする。もう少し大げさに言えば、その重なりあう側面が、その場限りの意味というかカテゴリーとして創発する。メタファーによって立ち現れるカテゴリーをアドホック・カテゴリーといったりするんだけど。

    少女:ちょっと待って。それって探しものの話になるの?

    少年:もう少し待って。えーと、そうだな、結論から言うと、〈シネクドキ探索〉や〈メトニミー探索〉は、探したいものをどう表現したらいいか分からない場合に役に立ったけれど、〈メタファー探索〉は何を探せばいいかすら分からない、探しものの前段階で役に立つ。

    少女:ちょっと難しくてイメージできないんだけど。

    少年:これまでの自分の知識とか見方では言い表せないことを捕まえるのに、そのための枠組みを作り出すアプローチを〈メタファー探索〉って呼んでみてる。

    少女:もうちょっと具体的にお願い。

    少年:たとえば今回したような話をどうやって考えていったか説明するとね。こういう表を作って、空いている項目について「ここに当たるものは何か?」と考えた。実は、これはメタファーというより、アナロジーといった方がいいけど。

     レトリック  探しもの 
     シネクドキ (ここに当たるものは何か?)
     メトニミー (ここに当たるものは何か?)



    少女:メタファーとアナロジーってどういう関係?

    少年:陸続きだけど、あえていうならメアファーはさっきの「あの男」と「狼」みたいに点と点で対応してるけど、アナロギーは面と面の対応、というか、複数の点と点の対応に展開していく感じ。今のだと、「レトリック」と「探しもの」が対応するなら、レトリックの一部である「シネクドキ」に対応する何かもあるはず、「メトニミー」に対応する何かもあるはず・・・って複数の対応に広げていける感じ。ただ、良いメタファーっていうのは喚起的というか創発的なだから、「それが言えるんだったらもっと他のこともって言えるんじゃないか」という気にさせるというか、アナロジーを呼び寄せるところがあると思う。

    meta-ana.png

    少女:えーと、「レトリックにおけるシネクドキみたいなものは、探しものでいうと何か?」って問いからはじめた訳?

    少年:本当は、探しものの中でよくやるアプローチには違う方向性のものが混じっている感じが、うまく言葉にできないし形にならなかったんだけど、それって何かでうまく言い表せないかな、というのがそもそもの発端だったかな。それを捕まえるのに「探しものは、レトリックだ」ってメタファー(?)がテコになったんだ。

    少女:「探しもの」に「レトリック」をぶつけることで、「探しもの」についての新しい見方を生み出したってこと?……なんか、あれみたい。大喜利でやる「○○とかけまして、××と解く、そのこころは?」ってやつ。

    少年:そう、それに近い。メタファーで似ているけれど似てないものをぶつけ合って、それに喚起されて複数の突き合わせに展開して、さっきみたいに表が埋まりだしたら、だったらレトリックで他のものも、探しもののアプローチを説明するのに使えないかと考えを進めていった。

     レトリック  探しもの 
     シネクドキ 包含関係を上下する
     メトニミー 共起関係を利用する
     メタファー (ここに当たるものは何か?)



    少女:うーん、なんとなく分かるけど、それってもう〈探しもの〉ってレベルじゃないよ。

    少年:だから「何を探せばいいかすら分からない、探しものの前段階で」って言った。むしろ調査することに先立つ、
    (調査すべき)仮説・問題をみつけるアプローチというか。もっとも〈メタファー/アナロギー探索〉が「このへんを探してみろ」と示唆するのは、なんて表現すればいいか分からないだけじゃなくて、そもそもまだ存在しないものかもしれない。既存の資料を探すだけじゃ見つからないかもしれないし、だいたい既存の知識にどう結びつければいいか分からないことが多い。けれど誰かに課題を与えられてする訳じゃない自発的な探しものは、こういう前段階があるんだと思う。

    少女:うーん、やっぱり〈探しもの〉というより、考え方というか思いつき方みたいなものじゃないの?

    少年:うん、むしろ発想法みたいなものだ。既存でないアイデアを生み出すための発想法には、メタファー/類似性を使うものが結構あるんだ。等価変換法とかシネクティクスとかNM法とか、TRIZも自然界の現象に学ぶっていうし、その改良版のUSITも類比志向がキモになってるし。たとえばNM法だと、まず「QA(question analogy):これと似ているものは?/◯◯なものといえば例えば?」とメタファー的に考えたあと、QB(question background)「そこで何が起きているのか?」とメトニミー的に展開するけど、この段階では本当に探しものして着想を広げたりできる。

    少女:「発想法はレトリックだ」だね。探しものを組み込んだ発想法って感じ。じゃあ、発想法と探しものも似てる?

    少年:アナロジー探索を進めるなら、自分の外を探すのが探しものなら、自分の内に探すのが発想法といえるかも。もっとも、外から内へ情報を取り入れたり、内から外へアイデアを出したりできるのだから、自分の外と内の境界はそんなに絶対的なものじゃない。これも下の表みたいな類比で考えたんだけど。

     レトリック  探しもの  発想法 
    シネクドキ包含関係を上下する(ここに当たるものは何か?)
    メトニミー共起関係を利用するNM法QB、カラーバス
    メタファー/アナロジー見立て・類比で未知を見出すシネクティクス、NM法QA




    (おまけ)
    「読書猿」についてサジェストマップをつくってみた


    rm_suggest.png
    (クリックでリンク付きのsvgファイルへ)


     
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