岩田昌征『現代社会主義の新地平』(日本評論社)

     岩田昌征は、「自由・平等・友愛」の3つの理想がもつ経済的含意を豊かな
    カタチで抽出している。おおざっぱに述べれば、それらはいわゆる「私」
    「公」「共」の領域と重なっていく。

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    ┃次  元   ┃ 第一系列  │ 第二系列  │ 第三系列  ┃
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    ┃経済人類学  ┃交換     │再分配    │互酬     ┃
    ┃近代的価値  ┃自由     │平等     │友愛     ┃
    ┃経済メカニズム┃市場メカニズム│計画メカニズム│第三メカニズム┃
    ┃所有制    ┃私的所有   │国家的所有  │社会的所有  ┃
    ┃経営管理   ┃私的経営   │国家的経営  │自主管理   ┃
    ┃分配様式   ┃賃金と利潤  │固定賃金表  │所得分配協議 ┃
    ┃人間類型   ┃極大化タイプ │標準化タイプ │適量化タイプ ┃
    ┃権利と責任  ┃個権・個責  │集権・集責  │共権・共責  ┃
    ┃社会問題   ┃不安と安   │不満と満   │不和と和   ┃
    ┃人間関係   ┃原子化    │位階化    │相互規制   ┃
    ┃社会構造   ┃階級社会   │階層社会   │連体社会   ┃
    ┃政治的決定  ┃多数決    │統裁合議   │全員一致   ┃
    ┃家族関係   ┃夫婦関係   │親子関係   │兄弟姉妹関係 ┃
    ┃象徴的死   ┃自殺     │他殺     │兄弟殺し   ┃
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     経済メカニズムについて、岩田昌征の数値例をつかって概観しよう。
     自動車を(利益込みで)400万で売るAさんと200万で売るBさんがい
    る。Bさんはより高い技術を持っていて、より安く自動車を作ることができる
    (生産性が高い)ので、200万で売っても充分利益があるのである。
    一方、自動車を買うのに400万出せるaさんと、200万しか出せないbさ
    んがいる。

    このような4人がそれぞれの経済メカニズムにおいて取引するしよう。

    A.市場メカニズムにあっては、一物一価が成立する。
     このことが市場から退出させられる者と、市場から利益(生産者余剰や消費
    者余剰)を得るものとを生む。

     供給曲線:
      自動車の価格 200万未満   ……供給される自動車0台
      自動車の価格 200万以上400万未満……供給される自動車1台
      自動車の価格 400万以上   ……供給される自動車2台
     需要曲線:
      自動車の価格 200万以下     ……需要される自動車2台
      自動車の価格 200万より上、400万以下……需要される自動車1台
      自動車の価格 400万より高額   ……需要される自動車0台

     供給曲線と需要曲線の交点、すなわち
     自動車の価格 200万より上400万以下(たとえば300万円)で、自動車1
    台が取引される。すなわち、自動車を売ることができるのはBさんだけであ
    り、自動車を買うことができるのはaさんだけである。

    B.計画メカニズムにあっては、一物二価(生産価格と販売価格))が成立す
    る。このことで余剰を再分配し、市場からの退出者をなくす(補助金と税金の
    システムなどもそう)。

     自動車の生産価格を400万円
     自動車の販売価格を200万円
    とすることで、市場から追い出されていた者にも(400万で売るAさんと
    200万しか出せないbさん)取引に参加できるようになる。
     生産価格と販売価格の差はどう埋めるのか。この2重価格においては、
    200万で売るBさんは、400万円の生産価格では200万円の生産者余剰

    400万出せるaさんは、200万円の販売価格では200万円の消費者余剰

    それぞれ生まれる。つまりBさんとaさんが得した分を集めて、生産価格と販
    売価格の差を埋めるのである。この意味で計画メカニズムは、再分配によるシ
    ステムであるといえる。

    C.協議メカニズムにあっては、一物多価が成立する(価格は個々の関係と
    ケースに応じて異なり得る)。

     今回のような数値例の場合では、なるべく取引から脱落する者が出ないよう
    に何らかの方法でコーディネートすることができるなら、400万で売るAさ
    んと400万出せるaさんとの間でひとつの取引が、200万で売るBさんと
    200万しか出せないbさんとの間でもうひとつの取引が成立する。この場
    合、(強力な執行権力を必要とする)再分配は不要である。

     振り返るならば、市場メカニズムは、誰かの所行が価格に影響を与えないこ
    とを、すなわち無数の(充分多数の)供給者と需要者の参加を前提としてい
    る。
     市場システムが要求する、取引に参加する人々がそれぞれ匿名の存在になる
    ほどの「多数性」は、協議メカニズムでは障害となる(「数え切れない」ほど
    多数を相手にしたコーディネートは現実的ではないだろう)。逆にコーディ
    ネートと、相互監視が可能となるほどの少数との関係(「顔が見える関係」)
    が、ここでは必要となる。

    現代社会主義の新地平現代社会主義の新地平
    (1983/01)
    岩田 昌征

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