アドラーの『本を読む本』は1940年に出た本だが、ちかごろ大学生が本を読めなくなってウンヌンという下りがある。

     さらに、この本の最後に出てくる(この本の目標でもある)シントピカル読書=一つのトピックについて複数の書物から引っぱりだして比較対照する読書ができることが、学士号(大学卒業の資格)を条件じゃないだろうか、という下りもある。

     タイトル、目次、索引を活用すること、ざっと読んでどんな事が書いてあるか「あたり」をつけること、その上で自分がその本にあたって解きたい疑問を作ること、その疑問を解決するために読むこと等、シントピカル・リーディングの前提である各段階の読書についても、ものすごく当たり前な本の読み方が説明されている。


     ところがこれを訳している人は、例によって解説にあてるべきスペースをいつものように自分のエッセイに使ってしまっているので、シントピカル・リーディングが何であり、どこでどのように生まれ、そしてどのように発展し、何を生み出すに至ったのか、少しも情報提供していない。それ故、邦訳『本を読む本』は、読書について、どこにでもあるハウツウ物のひとつに成り下がっている。


     1943年、ブリタニカ社のオーナー兼発行者となったウィリアム・ベントンは、同級生だったハッチンスと、彼と共にグレート・ブックス・セミナーを行っていたアドラーに、「グレート・ブックス」の企画を持ちかけた。

     グレート・ブックス・セミナーの原型は、アドラーがコロンビア大学で体験したジョン・アースキンの古典購読の授業にある。アースキンは、当時としては極めて異例な「セミナー」形式でこの授業を行った。
     
     1週間に1冊が課題に出され、参加者はそれについてディスカッションする。選ばれた書物は、ホメロス、ヘロドトス、ツキディデスといったギリシア古典に始まり、ダーウィン、マルクス、フロイトと多岐にわたっていた。これはいったい哲学の授業なのか? それとも文学? 神学? 歴史?

     「専門家」を自負する学者たちは、このアマチュア精神に富んだ授業を白い目で見ていた。しかし「素人の質問」こそがこのセミナーの議論をすばらしい体験にした。

     最初はアースキンがひとりで進行を行っていたセミナーだったが、大学を卒業したアドラーやがてもうひとりのコンダクターとして加わった。2人のコンダクターによる進行というグレート・ブックス・セミナーの形態がこうして完成していった。


     ベントンはすでにグレート・ブックス・セミナーを経験していた。しかし課題となる「古典」のいくつかは入手が難しかった。グレート・ブックスとして必要な本を全て集めたような刊行物があれば便利だ。そこで我がブリタニア社がそれを出版しようというのである。

     しかしハッチンスは懐疑的だった。「古典」が家庭の本棚に並ぶだけでは意味がないのではないか。セミナーのディスカッション・グループのような「しかけ」がなければ、それらは取り出して使われることはないであろう。使ってみようという気持ちにさせるようなしかけがなければ意味がないではないか。


     こうして「《古典》を機能させる書物」をつくることが編纂に当たったアドラーの仕事になった。
     アドラーはある種のインデクス(索引)をつくることを思いつく。
     たとえば「正義」について、プラトンは、アリストテレスは、ベーコンは、ベンサムは、マルクスは、なんといっているのか?
     古典を横断して結び合わせるインデックスが作れれば、ユーザーは自分の考えと「古典」たちを結び合わせることができ、日常それを取り出してみようという気持ちにもなるのではないか。

     しかしこのアイデアの実現は当初考えたほど容易ではなかった。
     ジャンルも時代も書かれた言語さえ多岐に富んでいる「グレート・ブックス」たちは、同じ概念が同じコトバ・表現で表されているとは限らないからだ。
     機械的に「コトバ」を拾い上げてつくったインデクスでは要求を満たさない。

     「トピックスによるインデックス(indexing by topics)」とその構造化という独特の方法がこうして編み出された。
     アドラーは、古典を選び、また2000のトピックからはじめ、それを102のグレート・アイデアズに集約していった。
     そして織り込まれるトッピクスは上位概念に束ねられ、相互のトピックが互いに関係し合いネットワークを構成する。それらのアイデアを、グレートブックスに入れられた全ての古典について、どの箇所がそうなのかを参照づけしていくのである。

     こうして生み出されたグレート・アイディアスのインデックスは、特別な造語で「シントピコン(Syntopicon)」と呼ばれ、それ自体が1巻にまとめられることになった。
     7年の年月を要し、想像以上の莫大なコストをかけてアドラーはこの超人的な仕事を成し遂げた。

     英語圏では、町の小さな図書館にも、ブリタニア百科事典とともに、このGreat Books of the Western Worldが並んでいる。

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